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八千職をマスターした凡人が異世界で生活しなくてはいけなくなりました・・・  作者: 秋紅
第八章 学院国家に研修に行くようです・・・
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三百ノ三十五話 鬼ごっこ・・・

そこは前回の訓練と何一つ変わらない森林地帯である。静かな涼しさのある風が頬に当たる。疑似的に作り出された光が、眩い程に辺りを照らしている。



 それを認識したムディナは、本当にここが室内なのだろうかと疑問に思ってしまう事だろう。ムディナが冒険者時代によく居た何一つ変わり映えのない自然そのものであったからだ。



 とは言ったものの、前回の訓練した場所とはまた違う室内だった。何か変わりがあるからこそ、区別しているのだろう。それが何なのかというのは、ムディナにはまだ分からなかった。



「皆さま、お揃いでしょうか」



 ウィズダムの風紀委員長であるフォレストが前でそう話し出す。そこにはウィズダムとしての代表であるという事を感じる貫禄と覇気を発していた。



 ムディナは前回の訓練は途中参加であった影響で、この訓練にどれくらいの人数が参加しているのか知らなかった。周りを見渡して見ると、その数は数千人を超える規模で参加している事実に目を見張るものがあった。



 まるで騎士団と見間違うかのようにそれぞれの学院毎に綺麗に整列しており、ムディナがまるで一つのちっぽけな存在のようにすら感じてしまう事だろうか。



「それでは風紀委員会合同訓練二日目を始めていきます。前回の訓練で疲弊している者も多いでしょうが、頑張りましょう」



 確かに顔色や少しの体の動きで、疲弊しているような生徒がそれなりな人数いるのがよく分かる。昨日の訓練も本来なら、普通の人が行うような所業を超えているものであるからだ。



 今回の訓練もそれに比較になるような厳しい訓練であるのは明白だろう。ムディナ自身は楽しみであるが、他の風紀委員は楽しみな者も居れば、絶望している生徒もちらほら見かける。



 シューレナは、それが謙虚に顔に表れていた。余程前回の訓練で苦痛に感じたのだろう。元々ほぼほぼ裏表のないようなはっきりとしている性格をしている人である。感情であり、信用出来て、尚且つ周りを見渡せる心優しい先輩というのがムディナにとっての『シューレナ先輩』の印象であり、評価だ。



「今回行う訓練は、身体能力の強化、体力面の向上を目標とした訓練です。挨拶したまえ」



 そうフォレストの後方に隠れている小さな生徒が顔を出す。人が多いところが苦手なのだろうか。オドオドとしていて、微かに震えている。顔色は青白く、精神的不安を感じているのは明白だった。



 ムディナが先ほど偶然であるが出会った、ウィズダムの副風紀委員長であった。今回は彼女が訓練内容の鍵なのだろうと、推測出来る。



「学院国家ウィズダム………………風紀委員会副風紀委員長の………………ヴァニア………………レントンと言います。宜しくお願いします」



 か細い弱々しい声を発しながら、ヴァニアは自己紹介をした。震えていて、決して強そうにすら見えない少女の姿がそこにはあった。少しばかり力を入れただけで壊れてしまいそうな、そんなガラス細工であるのかのような印象を改めて受けてしまう。学院国家ウィズダムの風紀委員会のナンバー2には、とても見えなかった。



 何ならレストの方がよっぽど副委員長という肩書きに似合っているという風にムディナは思えてしまっていた。



 ただそれでも何かしらの違和感のようなものを、ムディナはヴァニアという少女に感じていた。それがハッキリとは分からないもどかしさを覚えていて、しかし何か変な気がしていた。



 何処か既視感のような、会った事ない筈なのに見た事、あるいは似たような存在に会った事あるような不思議な感覚だった。見た限り普通の人間のように思える少女の姿をしているというのにである。



「彼女の実力で言えば、風紀委員会では一番です。身体能力、戦闘力、魔力、技術面あらゆる点で於いて、彼女に引けを取る存在はこのウィズダムでも少ないです」



 風紀委員長であるフォレストがそう言うという事は、嘘偽りは無いのだろう。それを聞いて、周りにいる風紀委員会の生徒達は若干だが侮っているような人が居た。



 確かに魔力量そのものは一般人より遥かに少なくて、身体能力もまともに高いように見えないからだ。それが風紀委員会の最高戦力とはとても思えないだろう。



 ムディナ自身でさえも、そのような総評である。それ程までに目の前の少女は、強いようにはどうしても、どんなに考えても思えなかった。



「それでは今回行う訓練内容ですが、彼女と『鬼ごっこ』をしてもらいます。他国も居るという事で、文化的に知らない生徒もいるでしょうから、シンプルに言いますと彼女に少しでも触れたら、それだけで訓練は終了です。ただ………………それだけです」



 ムディナはそれを聞いて、絶句していた。前回の訓練と同等のきつい訓練を想定していたが、その期待と予想を大きく覆すような簡単過ぎる訓練内容だった。



 小さなか弱そうな少女を、数千規模の人数で追いかけ回す。まともな人間が考えるような内容にはとても思えないだろう。フォレストという存在は、それ程までに外道なのだろうか。そんな悪質な印象をムディナは覚えてしまった。



「安堵している人達もいますので、もう少し説明致します。今回から、『本格的な』訓練となります。つまり人間そのものの限界を超える為の、苦しい訓練の始まりです。彼女はその代表格でして、普通では推し量れないようなものとお考えください」



 フォレストの声色も、表情もそこには虚言が含まれるようには見えない。つまり本気であり、嘘など微塵も存在しないという事になる。



 ヴァニアという少女は、覚悟を決めたような表情になる。少し冷静になり、ゆっくりと瞼を閉じていく。さっきまでのオドオドしている怯えている姿は、そこには無かった。



 魔力的な圧が段々と膨れ上がるように、魔力量が向上していく。ドス黒くて、まるで血潮のようなオーラがヴァニアの周囲を渦巻いていく。額には角が現れており、髪も朱色に染まっている。



 それを見たムディナは、ようやく感じた既視感の正体が分かった。それは確実に、本来なら人と仇なす存在である魔物の主であり、魔界にいるものである『魔族』であった。



 一度だけであるが冒険者時代に闘った事があるからこそ、その既視感が存在していたのだろう。人とはあまりにもかけ離れている邪悪的存在。その一度だけで分かった事が、それである。



 そしてヴァニアの姿が、魔族的に、悪魔的な特徴を両方備えていた。それが何を意味しているのか、ムディナは知っている。龍神達に聞かされていた逸話の中に存在している架空的だと思っていた存在そのものだった。



「――――――――原初の魔」



 ムディナはそう呟いた。あまりにも圧倒される存在に、つい口が滑ってしまった。フォレストはそれを聴くと、やはり知っていたかのような、感心していた表情をムディナに向けていく。



「誰かが呟いていたように、彼女はとある御伽噺に存在する『原初の魔』という存在です。かの者は闇そのものであり、闇が生み出した邪悪だとされています。悪魔、魔族、魔物、あらゆる魔の全ては原初の魔が起点としています。ただご安心ください。人に害なすような存在ではありません。むしろ人間とは友好的であり、魔のような悪の性質は存在してません。それに普通の人間ですので。これはあくまで内なる力の解放と言えましょうか」



 つまり原初の魔の力のみを持っているという事だろうか。だからこそ人間、生物全体に害なすような事は行わないのだろう。ただそれでも生物的恐怖が、そこにはあった。遥か昔から存在している悪の性質に対する恐怖が、蘇っていた。



「さてと!? ここにいる奴ら全員!? 今回の遊び、楽しませてくれよ!?」



 嬉々とした解放された笑みを、ヴァニアは浮かべていた。原初の魔という、巨大な力を内包する少女との遊びが始まるのだった。

三百ノ三十五話、最後まで読んでくれてありがとうございます



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