三百ノ二十八話 性能すら及ばない脅威・・・
目の前に見える魔剣がさっきとはまるで異なっている様子だった。内包される力の許容量が格段に違いを見せており、ハーレスの性能という特異魔力の性質は思った以上に脅威的である事を示唆していた。
ハーレスは魔剣の力により、砂を徐に生成した。ムディナも何をしているんだと、怪訝な顔を浮かべてしまった。こんな激戦の中、砂を生成する理由など、何処にもないだろうにと。
それが安直な考えであった。ムディナは背中が騒めき、危機感が警鐘を鳴らしていく。自らの生存そのものを脅かされるような、そんな命にすら関わる異常的さを、ムディナは感じ取る。
即座にムディナは闘龍気の力を行使して、防護障壁を展開する。何人たりともムディナに傷を負わせる事など不可能にすら思える絶対防御がそこにはあった。
「砂の拡散を見よ。そこにあるのは、全てを貫く弾丸である」
そのようにハーレスは詠唱すると、手に持っている砂をムディナに投げた。普通ならただの砂で、ムディナの防護障壁を破る事なんて出来る訳もない。ただムディナに安心感などない。むしろ死ぬという危険性を、予感させていた。
その砂は拡散すると、勢いが強くなる。魔力的な力を持って、推進力を向上させているのだろう。しかしその程度では、意味などないかに思える。
しかしそれは違っていた。砂の力を、性能を格段に上げて、それに加えて性能を付け加えていた。それは絶対的貫通力という、理すら歪める程のあらゆる全てを貫通するという概念を付与されていた。
それは全てを貫くショットガンそのものであり、飛距離すら自由自在な文字通りの規格外の武器となっていた。
ムディナは即座に防御より回避に体を移行する。軸をずらし、左側に身を投げ出すように地を踏み出した。しかしショットガンの速度はそれを凌駕して、右肩付近を数粒だけ砂が貫通する。
「ツッ!?」
苦痛の表情を浮かべて、体勢を立て直す。判断ミスと言わざるを得ないだろう。あまりにも力差があるせいで、余裕ぶっていた影響であろうか。
生温い学院生活で感覚が鈍っているせいで、警戒心が薄くなっている。未知の脅威というものがあるというのに、何故に自分は余裕になっているんだと、自分に反省を促していく。
少し冒険者時代の事を思い出すようにして、思考を切り替えていく。本来ならトーラス学院の一生徒として、ここに立っていたかったが、そうも言っていられない状況になっている。
眼が眼前にいるハーレスに狙いを定めていく。それは凶暴な野生そのものであり、警戒心の塊がそこにあった。ハーレスの筋肉の動き、挙動、眼の動き、手や足の癖、全てを観察し予見する。
それは冒険者の基本的であるとされている予見の眼というものである。
冒険者にとって、死とはまるで隣人かのようなものである。予想外が起きたのは、それ即ち死を意味する。しかし冒険者にとって予想外は、予想をしてなかったからだったと死を許容するのだ。熟練の、ランクの上位の冒険者には未だに観察眼の癖が抜け切らない人も数多く存在している。
その観察眼を持って、予見や感知、警戒心を強めて、いついかなる状況の時でも対応出来るようにしていかないと、冒険者は数度の依頼で命を失うのだ。
「さっきとは、まるで雰囲気が違うな」
ハーレスはさっきまでのムディナとは何かが違う事を感じ取る。学院生徒ではなく、冒険者仮面の者として、ハーレスと相手しようと考える。
「対人戦は慣れているものでね。やっぱりこっちの方がやりやすいな」
ムディナもよく賞金首や犯罪組織をいくつも壊滅させてきた実績が存在している。それが意味するのは、対人戦に於いても慣れているというところにある。集団戦や単体戦、組織や賞金首を捕まえたり、命を狩ったりなど、冒険者にとっては日常茶飯事の事でもある。
ハーレスが剣を振るおうとした。魔力が拡散すると気配を即座に感じ取り、どうやら何かしらを生成するようだった。しかしそんな猶予は、ハーレスには無かった。
ムディナはいつの間にか眼前に姿を現していた。普通なら危険的な行為だろう。何が生成されるか分からない現状の中、突撃するのは常軌を逸している行為とされるだろう。
むしろムディナにとっては逆である。情報を抽出し、物理世界にて生成するには、極限までの魔力コントロールと集中力が必要とされている。情報量が少ない砂や土、水などのエネルギー量は簡単に集中力の必要性がなく生成できるが、魔力が拡散しているという事は、それなりに情報量が多いものを生成しようとしているという事になる。
恐らく無数の魔力銃を生成したような、そんな代物を作り出そうとしているのだろうか。それをムディナは予見して、即座に行動を起こした。
ハーレスはそれに意識が取られ、生成しようとしているものを中止する。いきなり間合いにまで接近されていた為、簡単に生成できる土を周囲に無数に形成して、バックステップで距離を取りながら、ムディナに射出されていく。
それにも性能が向上しており、土が一種の金剛石のような頑丈さと鋭利さを誇り、あらゆる防護手段を貫く貫通力と対象を極限まで追尾する性能が付与されていた。
ムディナは手を前に翳すと、その凶悪な性能を誇る無数の土が、全て霧散していく。魔力そのものになり、周囲に魔素として漂う事になった。
「な!? 術式解除かよ!? 魔呪の剣の力だぞ!?」
魔呪の剣は、星そのものが創り出した絶対的な力を持っている。普通なら並大抵の、術式なんてしている訳もない。土という簡易的なエネルギー量を持っているものを生成していようが、そう簡単に解ける程の術式をしている訳ではない筈だった。
それを意図も簡単に手を翳して、術式を解除した。それが異常的なものか、ハーレスには予想外の出来事だった。ありえないものを目の当たりにしているが、諦めずに次の手を打とうとする。
魔呪の剣を強く握り締め、術式を展開しようとするが、もうムディナは間近に接近していた。
「ハーレスさん、お手合わせ、ありがとうございました。勉強になりましたので、勝たせてください」
ムディナは右手を強く引き、右脚を強く前に踏み締める。前にいるハーレスは、回避すら間に合わない速度で体勢を作っている。熟練としたその動きは、日常的に対人戦をしているものであった。
「龍天百花術・正龍撃」
正拳突きの要領で、闘龍気が練り込んである拳を突き出した。黄金の龍がそこにはあり、ハーレスの腹を貫くような勢いで、肉体は吹き飛ばされる。
模擬戦ルームの壁に激突し、めり込む。気絶しているようであるが、魔呪の剣にて即座に復活を遂げる。これで勝つ条件であるハーレスは三回、戦闘不能になった。
ハーレスは息を荒くしながら床へと着地すると、ムディナに向かって歩いてくる。そこにあった眼は、やり遂げたような清々しいものだった。どうやらこの戦いで、何かしらをハーレスは掴んだようである。
「こちらこそ、色々学ばせて貰った。感謝する」
魔呪の剣所有者と戦う事は、稀に等しいものだ。その魔呪の剣の力はどれも強力なものばかりだからだ。その一つとこうして模擬戦という形で戦えたのは、ムディナにとっても有益ではあった。
「こちらこそ模擬戦、ありがとうございました」
ハーレス・グロウ、またの名を六芒星、未来技師を模擬戦という形で勝利を、ムディナは修めたのだった。
それが如何に、トーラス学院の名を、ムディナという名称を他国に知れ渡るのか、ムディナ自身は想像すら出来ていないだろう。
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