表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
八千職をマスターした凡人が異世界で生活しなくてはいけなくなりました・・・  作者: 秋紅
第八章 学院国家に研修に行くようです・・・
326/366

三百ノ二十五話 どうしてこうなった・・・

「どうしてこうなった…………。本当に」





 ムディナは死んだような眼差しで、無機質な空間を見渡していた。ムディナがいるところは、特異な空間であり、伝説の鉱石であるアダマンタイトをふんだんに使用している節が見て取れる。ただでさえ採取量が少ない筈の希少な鉱石を、見渡す限りの全体に使っている事に絶句してしまう。




 アダマンタイト自体、加工する事が難しく、扱いが出来ない物とされている。しかしそれを恐らくハーレスは可能としているのだ。だからこそこのような近未来的な構造であり、アダマンタイトの保有率が高いのだろう。





 これならムディナが全力で力を行使しても、何ら危害は軽微だろうか。これほどまでに頑丈に出来上がっている模擬戦ルームと呼ばれる場所にて、ムディナは眼前にいるハーレスと模擬戦をしようとしていた。





「君との戦闘データは、恐らく素晴らしいものになるだろうな。楽しみで仕方ないよ」





 俺からすると、ただただ不幸な出来事であるし、何なら断りたいくらいだ。何で学院国家に来てまで、模擬戦をしないといけないんだ。戦いというのは、好きではないんだがな。





 そんな風に、気分が駄々下がりしているムディナがここにはいた。しかしやらなきゃ、それはそれでトーラス学院としての面子にも関わる話になってくる。そんな風に考え、覚悟を決めて、龍剣を握り締める。





「どうやら覚悟を決めたようだね。圧がさっきとはまるで異なっている」





 ムディナは、闘龍気を龍剣に流し込んでいく。それがさっきとはまるで、圧が違う要因であった。最上位の龍種のみが扱う真なる龍の力である闘龍気、それは龍神達以上の圧を生んでいくのだった。





 普通の人なら、生物、魔物ならそれだけで生存本能が優先され、逃走を選択するであろう。しかし目の前にいる生物は、実力者の中でもトップクラスの存在だ。だからムディナの圧には圧倒されてしまうが、逃げたりする事はない。





「覚悟をしてください。ハーレス・グロウ」





 龍王の生物的最上位の絶対強者の瞳が、ハーレスを見据えていく。それだけでハーレスは息を飲み込み、今対峙する存在の大きさを再確認するようだった。





 勝てる、勝てない、そんな次元の話ではない。戦う事そのものがおこがないと思う程に、あれは生物としての格が段違いの領域にいた。





 しかしハーレスの知識欲は、そんな恐れと本能を凌駕する。ムディナと戦う事で、学べる事が沢山存在しているからだ。彼と戦闘する事で、龍達の力の本質を見極められる。それは素晴らしい事であり、星の具現化的存在とされている龍種のエネルギーを何かしらに利用出来るという事にもなってくる。





「検証しがいがある奴だ。ムディナ・アステーナ」





 ハーレスは剣を空間から引き出していく。そのエネルギー、魔力は膨大であり、普通の人間ならまず間違いなく扱う事が出来ないだろう。





 その剣には大陸すら簡単に両断出来るレベルの力が備わっている。剣を持った直後、ハーレスの魔力が跳ね上がる事を感知する。数十倍まで膨れ上がったその魔力は、衝撃波となりムディナに襲いかかってくる。





 ムディナは龍剣を軽く振るうと、その衝撃波は即座に掻き消されていく。超常的な存在である両者の力が、模擬戦ルームに莫大な力の渦が発生する。






「それはハーレスさんの本来ある力ですか」





 恐らく自らの力を、今まさに手に持っている剣に封じていたのだろう。それが剣を持つ上での、代償か契約であり、力の一部の譲渡がトリガーとなるのだろうか。





 実際に魔剣を持っただけで、その力は数十倍以上に膨れ上がっている事から、力の大半を魔剣に譲渡していたという風に見て取れる。それでも魔剣に反抗の意思が存在しないという事は、それでも魔剣を屈服させるだけの力を備えているという事なのだ。





「魔剣の中でも最上位の位置する、契約、代償が必要な魔呪の剣の一振り、キムラヌートと呼ばれるものですか」





 この世界に十振りしかない絶大な力を持つとされる魔呪の剣と呼ばれるものが存在している。一説には世界を滅亡へと追いやる禁断の力とも呼ばれ、又は世界に混沌を齎す邪悪な物と呼称される事が多い。持ち主にあらゆる不幸が降り掛かるなど、そんな与太話のような逸話が絶えない代物である。





 そしてキムラヌートとは、物質を司る権能を持っており、ハーレスと相性の良いのだろうか。魔呪の剣も、従順である事を見ると、息が合っているのだろう。





「流石、ムディナ君、この子の事をよく知っているね。見込んだだけの知識量はあるようだ。物質主義(キムラヌート)、俺は神の手から離れ、真なる人としての苦楽を齎したい。この()とそう約束を交わしてね」





 そうハーレスは、剣を優しく撫でるように触る。長い年月の中、共に居てくれた仲なのだろうか。人という生物と、魔呪の剣という無機質な存在との繋がり、それもまたムディナには輝かしく映っていた。





「だからこの()を手にしたという事は、負ける事は絶対に許さないという事になるな」





 信頼関係のある人と剣のコンビは、ムディナにとっては驚異的だろうか。





 その言動をハーレスが発した時、莫大な魔力が周囲に発揮されていく。それは術式を帯びており、空間から何やら武器のようなものが出てくる。それは銃口のような代物であるが、何十、何百丁というものであった。まるで武器庫、そのように表現するのが正しいだろうか。ハーレスという個人と対峙するという事は、戦場そのものの中、一人で立つという事を意味している。






「それじゃ、まず景気ある一発をプレゼントしよう。ようこそ、学院国家ウィズダムめ」





 ここまで嬉しくない歓迎の仕方をされたのは初めてだな。それに簡単に焼き焦げた灰になりそうな魔力銃という未来的な銃口から莫大な凝縮されたエネルギーを、ムディナは察知する。





 銃口の先から紫色の輝かしい光が垣間見える。それが人を簡単に消し去るだけのエネルギーを秘めているのは、容易に理解出来る事だろう。それが何百もある銃口の先から、出ている。




 絶望的な状況の中、ムディナは息を整えていく。さっきまでの心を全て無へとし、無心へとムディナは冷静に、冷徹に変わっていく。





 そんな無心の境地に至った時、ムディナは龍剣を軽く握る。力強くではなく、ただ軽く、綿でも触っているような力なく持っている。





 眼前に聳える銃口の数々のエネルギーが、発射されていく。紫の魔力弾が一斉に、ムディナに襲いかかる。それはまるで一種の都市を滅ぼしてしまいかねないような絶望的な光景だった。





「龍天百花剣・無流水龍花・一閃」





 ムディナが、一歩踏み出した。龍剣はそのまま軽く握っていただけの状態であり、まるで手からぶら下がっているような状態だった。





 闘龍気を込めた龍剣を、ムディナは軽く横に薙ぎ払うかのように振るう。力などそこには存在してなく、無駄なエネルギーも何処にも存在していない。ただムディナの純粋なまでの力が、ただその剣の一振りに存在しているだけであった。





 圧倒的な闘龍気と魔力の渦が入り乱れ、混じり合い、巨大な渦のようになる。その一振りが、純粋な力にて振った事で、無駄な力が無くなり、そこに強力な一撃を生み出していった。





 その一振りが魔力弾とぶつかると、跡形もなく霧散する。強大なエネルギー同士がぶつかり、その余波が吹き荒れるが、二人は平然と立っている。






「面白い事、やっているね。ハーレスがそこまで真剣に、相手にするのはよっぽどだなぁ」





「ワタクシ、これでも忙しいのですが………………それに六芒星(ヘキサグラム)総出の招集をしなきゃいけないのでしょうか?」





「めんどくぇ事、してんな。ハーレス、早くそいつを倒せよ」





「模擬戦闘とはいえ、野蛮ですね。受け入れ難い問題です」





「すまんな、アルデ。俺を圧だけで吹き飛ばしたムディナという存在を、皆で観たくてね」





 模擬戦ルームの観戦席に居たのは、六芒星(ヘキサグラム)全員だった。どうやらこの戦いは、思った以上に重要性の高いもののようだと、ムディナは再認識した。





 本当にどうしてこうなってしまったのだろうかと、死んだような眼差しでムディナは観戦席を見ていた。

三百ノ二十五話、最後まで読んでくれてありがとうございます



少しでも面白いと感じたら、いいねやブックマーク登録お願いします。また次の話もよければよろしくお願いします。

誤字、脱字などありましたら、報告お待ちしております。それと何か設定や諸々の違和感があれば、感想にてお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ