三百ノ二十三話 未来技師・・・
ムディナは眼を覚ます。少しばかり用事という事で、夜間の中、抜け出した事であまり睡眠時間が取れていなかった。この宿泊所の警備対応殆ど抜け目が無く、部屋に戻るまで苦難があった。
いつもと違う天井に違和感を覚える。新鮮なベッドで寝た事で、それなりに疲労感が軽減はされていた。新鮮な気持ちで体を起こして、カーテンを開けていく。窓から差し込む眩い日光が、寝ぼけている視界を覚ます。
レストは既に起きているようであり、身支度は既に整えられていた。何時に起きていたんだと、疑問に思いながらムディナも身支度を整える。
「レスト、おはよう」
この部屋の入り口が開き、汗を掻いているレストが現れた。手には木剣を持っており、使い込まれている様子だった。どうやらこの宿泊所の庭で、訓練していたようである。ムディナと同様に早朝に鈍らないように、訓練していたことに驚愕してしまった。
「ムディナ君、おはよう。すまないね。朝から、こんな汗まみれの姿を見せてしまった」
その汗は努力をしていた証のようなものであり、否定されるような言われはなかった。ムディナは今回、寝る時間が遅かった影響で、訓練する時間をサボってしまった。むしろそっちの方が不甲斐ないとすら、感じていた。
「いえ、レストがこちらでも訓練していたのに驚いただけだ。俺も明日から、ここの庭で訓練しようかな」
朝早く起きて、木剣を振るう。それだけで爽快感があり、早朝の風に当てられるというのは気持ちの良いものである。
「ムディナもするといい。ここの庭は、美しいものだからな」
レストはそう言い、更衣室へと入っていった。どうやらシャワーも兼ねて、服を変えるようだ。汗をかいたまま、他校の生徒の前にいるというのは、それはそれでトーラス国の品位を疑う事になりかねないからだろう。
そういうことをきちんと理解しているのは、素晴らしいものであるし、自分には到底出来そうにないなと苦笑してしまった。
「それじゃ、俺も着替えて、アールさんを待つとするか」
そうしてムディナも、寝着からトーラス国の制服を着用する。現在時刻は、八時になりそうな時間帯であるので、すぐさまこっちに来る事だろう。
そして着替え終わり、ドアがノックされる音が聞こえる。
「アールと申します。御準備の方は宜しいでしょうか? 食堂へとご案内致します」
レストもちょうど着替え終わり、更衣室兼浴場から出てくる。そのドアの向こう側から聞こえてくる声は、この部屋に案内してくれたアールの声だった。
レストがドアを開くと、そこにはアールがいた。アールの服装は、この学院国家の由緒正しい制服であり、伝統と言ったものである。その昔、転生者から齎された服飾技術を応用していると言った話がある。
「おはようございます。レスト様に、ムディナ様ですね。食堂へとご案内致します」
どうやらムディナ達が先に食堂に案内されるようだ。それから順序立てて、アーデリ達やシューレナ達が呼んでくるようだ。確かに二人ずつ呼んだ方が、アールとしても案内しやすいようだ。そこら辺は案内人個人個人の趣向が反省されているのかもしれない。
そしてアールに案内されるがまま、地下一階に降りていく。珍しく食堂というのは、地下にあるようでムディナからすると驚愕してしまう。どのような意図で、地下に造ったのか知りたいところである。
「食堂って、地下にあるんですね」
そのようにムディナが呟くと、アールが前を向いたまま口を開いていく。自身の安全の為に、階段を降りる時は前を向いているようだ。確かに足を外したりすると、大怪我をする恐れがあると言った理由であろう。
「地脈の力を利用して、あらゆる調理魔道具の動力の質を上げているようです。地脈の力というのは偉大であるので、食堂はふんだんに使っております」
地脈のエネルギーというのは、凄まじいものである。際限などないくらいに純度と質、量を誇っている。地脈の力を行使するだけで、大陸一つが簡単に滅ぼす事が出来るくらいには、魔法の威力も跳ね上がっていく。
「しかし地脈のエネルギーというのは、扱いが難しいと聞きますが」
レストがそのように疑問点を投げ掛ける。地脈のエネルギーというのは、さっきも言った通りに純度、質、量が凄まじいものである。しかし一人の人間、一つの魔道具が簡単に操作出来るものではないのだ。そもそも星のエネルギーである地脈を扱うというのは、星そのものの力を扱うに等しい。普通なら不可能の領域の話とされている。
「ご安心ください。食堂にあります調理魔道具は全て、古代魔道具を復元した形となります。点検も行なっておりますので、不備などありません」
古代魔道具文明というのは、ミーニャがいた時代よりもう数千年前の文明である。この文明は、魔道具技術は莫大に進歩したという話がある。転移魔法陣、魔導銃、合成魔獣、浮遊技術、時空交換装置などなど、現在では到底その技術を創り出す事など出来ない未知の物とされている。
「よく、復元出来ましたね。現代でも扱う事すら難しい筈ですが」
殆どの古代魔道具というのは、復元など出来ない程に精密機構だ。それを復元出来るというのは、相当た技術者がいるという事になる。ムディナは悩みながら、国家元首の話をもう一度思い出す。この学園には、実力と伴って、突出した分野を一つ持っている六芒星という存在の事を。
「その復元には大いに、六芒星様のお一人様が役に立ったそうです。私もあの精密機構など理解出来ないですが、その六芒星の方は違っていたようです」
やはりどうやらその突出した六人の一人が、古代魔道具文明の遺物を復元したようだ。それも普通に使いやすいように改良すら加えているだろう。恐らく食堂の食事は、また一風変わった特別なものとなるだろう。ムディナはそう思いながら、楽しみで仕方なかった。
そうしてムディナは地下一階、食堂へと辿り着く。アールが両扉を開くと、そこには近未来の空間が広がっていた。まるでさっきとはまるで違う別世界に迷い込んだような違和感すらある。
不思議な材質の床なのに、硬度が高過ぎる。ムディナが本気で力を行使して、やっと亀裂を入れられるくらいだろうか、ここまでの材質は、ムディナは古代魔道具文明の遺跡でしかし見た事ない。
ただこれは明らかに人為的に、ここ数年で作製したような痕跡がある。遺跡なら、もう少し年数が経っているような痕跡がある筈だ。それが無いという事は、恐らく六芒星のその技術者が造ったのだろう。
そして光源魔道具が無いのに、眩いばかりの光が食堂を包んでいた。どうやら天井だけ、また違った物であり、どうやら恒星の光を直接転移させて、食堂を照らしているようだ。
「これはまた凄いところですね」
ムディナは感嘆のあまり、言葉を失った。そこにあったのは、ムディナが昔見た遺跡そのものである。それが現代になり、再現出来る技術者がいるという事に驚くしかなかった。
「お褒め頂き、ありがとうございます」
アールとは別の声が、食堂の方から聞こえてきた。そこにいたのは白衣を身に纏い、眼鏡を掛けた整ってない青色の髪をしている男性だった。その男性の纏っているオーラだけで只者ではないのは、ムディナもレストも息を飲むようにして理解出来る。
アールは即座にその白衣の男性を認識すると、頭を下げていく。
「君が興味深くて、来てしまいました。ムディナ・アステーナ君。少し君を観察したくて、たまらなくてね」
その男性の名は、六芒星の一人、未来技師、ハーレス・グロウであった。
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