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八千職をマスターした凡人が異世界で生活しなくてはいけなくなりました・・・  作者: 秋紅
第八章 学院国家に研修に行くようです・・・
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三百ノ二十話 治癒なき病ノ娘・・・

 ムディナは新たに生成魔法にて作り出した仮面を付けて、豪邸のような家の門構えの前にいた。この学院国家には、豪邸のような建物を作る事を基本的に禁止している。というより合理的な国家であるから、無駄な敷地というものを造ることを良しとはしないのだ。それに関しては、ムディナ自身も素晴らしい政策だなと、関心するものである。





 実力、才能の集積庫、そのように形容するのが、この国の特徴だ。合理性を突き詰めて、とことんまで突き詰めていくのが、この国を最大限まで成長させたと言っても過言ではないだろう。





 しかしその政策を度外視して存在している、ムディナの目の前にある豪邸は、つまり政策外の代物であるという事になってくる。そんな事が可能だとすれば、政治体制の長であるという事だ。





 この国の政治体制の長だという事は、それは学院国家元首であり、理事長の家なのだろうという事だった。





「時間通りだよな。配達物の代物も無事だし」





 白という転生者との途轍もない死闘があったが、品物の無事がただただ心配だった。何十にも防護結界を重ねていたという事で、傷ひとつ付いてなかった事に安堵するばかりである。





 これからのムディナは、ムディナ・アステーナという学院生としてではなく、冒険者仮面の者(ニヒト・パーソン)として動いていた。もう辞めたであろうS級という肩書きを背負いながら、ムディナは国家元首の建物前にいるのである。





 配達物の一つもまともに出来ないとなったら、冒険者自体の品格が落ちてしまうと言った話である。それに中に入っているものが物である。損壊なんてなったら、ギルド長の首が容易に明後日の方向に飛んでいった挙句に、罪に問われて、死罪になってしまうだろう。それほどまでに重要な依頼なのが、今ムディナの手に握られている箱なのだ。





「お待ちしておりました………………どうぞ……………………」





 違和感を覚えるような小さな声量で、淡々とした言葉で門が開いていく。黒い服装に身を包んでいる、中年の顔立ちをしている男性だった。国家元首の執事なのだろうという事は、何となく分かるが、執事にしてはそうは見えないような佇まいである。





 ただ息を飲むようにして、その疑問点を飲み込む事にして、ムディナは元首の敷地内へと入っていく。それにしても身元の確認もなく、普通に淡々と入れるというものも、なかなかおかしな話だ。侵入者対策の結界すら、そこには無く、まるで守りそのものを必要とはしていないような感じだ。





 一応国家の主がここにいるというのに、警戒心の薄さというものが際立つような気がする。兵士や騎士が在中している様子がなく、せいぜいこの豪邸にいるのは、メイドが数人と執事が何人かと言ったところだろうか。





 不可思議な違和感を覚えて、警戒心を強めていき、ムディナはその執事についていく。その執事すら警戒しながら、手元にあるであろう龍剣をすぐさま抜けるように手元を近づける。





「こちらをお開けください………………。それでは失礼します………………」





 まるで思考そのものを置いて来てるような言葉遣いだ。暗殺者の中には、思考そのものを置いていき、ただ依頼者の指示を遂行する者がいるというが、そのような印象を覚える。




 豪邸の扉前に着くと、その執事らしき男性はその場を後にした。普通なら執事が扉まで開けて、中まで案内するだろうに。本当にこの執事は、どういう事なのだろうか。





 ムディナは憤りと不安を感じながら、その国家元首の両扉を開けていく。扉を開けた先には、開会式で最初に壇上で話したであろうアルダース・ロクス・ウィズダムがそこにはいた。





「トーラス国からの御足労、本当にお疲れ様です。長旅、大変だったでしょう。こちらへどうぞ」





 丁寧な言葉遣いで、中へとムディナを誘導する。ムディナもそれに従いながら、階段を昇って二階へと行く。どこに連れて行くのだろうかと、不安になる。何か変な違和感を覚えてしまった事で、警戒心がより強まっていく。





「そういえば自己紹介が、まだだったですね。私の名前はアルダース・ロクス・ウィズダムと申します。この学院国家ウィズダムの元首をしております」





 淡々と階段を昇りながら、そのように元首は自身の名前を言った。一応、こうして間近で会うのは初めての事だし、俺も名乗った方がいいだろうか。





仮面の者(ニヒト・パーソン)と申します。以後お見知りおきを」





 ムディナは冒険者時代の異名を、仮の名前を言った。本来の名前を口にするのは、どうしても憚られた。ただでさえ違和感の と不信感の塊のような場所の主であるという事で、警戒から異名だけにした。





「S級冒険者様に配達の依頼をしたのは、本当に安心感がありますね。S級冒険者という事で、色々と忙しいでしょうに。このような遠い場所まで来ていただいて、申し訳ないです」





 本心から話しているようで、謙虚さがそこにはあった。先ほどの執事とはまるっきり異なり、人となりが良い印象を受けていた。ただその元首も、何かムディナにとっては喉に詰まっているような、変な予感があった。





 「いえ、娘様の命が掛かっているのですよね。私が手伝える事なのであれば、喜んで引き受けますよ」





 その娘と聞いた時、アルダースは涙目になっていた。どうやら余程娘に関して、心労が絶えなかったのだろう。どれほどまでの絶望なのだろうか。一人娘が、不治の病であり、もう寿命が残りわずかである。





 ムディナにとって、血の繋がってはいないが、ミーニャがもしそんな病に罹っていたとしたら、どれほどまでに絶望してしまうだろうか。そんな可能性を脳裏で思い描きながら、想像し難い苦痛であるのは確かであった。





「本当に………………ありがとうございます………………。娘の助けになってくれて………………」





 そう悲痛の声を上げて、アルダースは涙を流していた。命を救える可能性が、今まさに目の前にある。それだけでアルダースは、どれほどまでに心が救われるのだろうか。





 ムディナは命を救える依頼を受けたという事で、役目として、責任感としてそれは強まっていた。目の前の父としての姿を見て、それがどれほどまでの救済者なのかようやく、芯の底から理解した。





「お見苦しいところをお見せしました。申し訳ありません」





 目元をハンカチで拭いながら、アルダースはスッキリとした顔をしていた。さっきまでの心労絶えないような、苦しかった表情ではなかった。






 ムディナ達はそんな話をしていると、とある部屋の扉前まで辿り着く。魔力感知をすると、そこには膨大な魔力が部屋内に充満しているのが分かる。魔素の濃度が高く、まるで高濃度魔素危険地帯レベルの部屋となっている。常人なら、部屋に入った時点で即座に命が絶えるだろう。そんな高濃度の魔素が、外へと漏れ出さないように結界が張られている。それも極限までに圧縮された強力な結界である。





 ムディナがこの豪邸に近づいた時に感じたであろう高密度の魔力は、この結界と部屋の中が原因だった。それほどまでの強力な結界だというのに、それでも魔素が漏れ出ている。人体に影響はない範囲であるが、結界などの複雑な魔法式を乱すくらいの魔素の密度はあった。だからこそこの豪邸は、結界を張れないのだろう。





「ニヒト様、魔力防御の結果を自身に張ってください。もし張れないので有れば、こちらの魔道具を身に付いてください」





 そしてアルダースは、魔力防御結界の魔道具を身に付いている為に影響はないだろう。ムディナは魔力防御の結界を自身も周りに展開した。





 アルダースは結界が張られた事を確認すると、扉を開けていく。こちらから見ると、普通の木材の扉だというのに、向こう側から石材で作り出されたような鈍い音だった。





 そして部屋の全貌が、ムディナの視界に映り出された。そこには全てが灰色の世界が広がっていた。本棚も、ベッドも、窓も、天井にある光源魔道具も、床や天井まで全てが石で造られたようなそんな感じすら覚える。




 見事なまでの石で造り出されたようなその部屋なのに、ムディナには何処か恐ろしく感じてしまった。






 そしてそんな石材の部屋の中、ベッドにいる女性がそこにいた。ムディナと歳がそこまで変わらない見た目であるが、手や足が石化しているのが分かる。





「お父様、そちらの方は?」





 その不治の病を背負っている女性は、何て事ないと言った様子でこちらに声を掛けてきた。

三百ノ二十話、最後まで読んでくれてありがとうございます



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