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八千職をマスターした凡人が異世界で生活しなくてはいけなくなりました・・・  作者: 秋紅
第二章 遺跡の町は浪漫に満ちてました・・・
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三十一話 試験開始してました・・・

 赤髪の若い男性と右眼を怪我して眼帯をしている四十代後半位だろうか。少し毛先が白髪になっており、ベテランのような雰囲気を纏っていた。そんな二人と一緒に俺たちはテーブルを囲んでいた。




 テーブルの上には、魚を煮込んだ料理や揚げたポテトのようなもの、漫画とかでよくある骨つき肉や焼いている肉の類とカロリーが高めな料理が鎮座していた。冒険者ともなれば、自ずと高カロリーを摂取した方がいいのだろう。むしろこれでも足りないくらいなのではないのだろうか。

 そんな高カロリー群を見てこんな感想を持ってしまった自分がここにはいた。




「それじゃ自己紹介だな。俺の名前はワーリ・テロールだ。それでこっちが俺の師匠の」




 どうやら俺達を誘った赤髪の男性は、ワーリさんというらしい。赤髪の男性が初老の男性の名前を紹介しようとした所、その男性は静止した。




「ルブリヌだ。宜しく」




 そう言いながらゴツい手を俺の前に差し出した。だいぶ鍛えているし、手にはそこら中に古傷のような痕が見える。よほど色々な経験をしてきたのだろう。圧が他の人達より数倍段違いだな。




「俺の名前はアディ・ブレードです。宜しくお願いします」




 俺は握手しながら自身の名前を口にした。握る力も強くて、むしろ俺の手がへし折れそうなんだが。どんだけ剛力なんだよこのおっさんは。




「私の名前は、アライ・ルナクです。宜しくお願いします」




 今度はアライの方と握手した。中々このルブリヌさんという方は気さくな男性のようだった。好感が持てるいいおっちゃん的な感じだった。ただ実力が高い圧をヒシヒシとは感じているが。




「あんた、何者だ?」




 ルブリヌさんは何故か俺を睨んだ。その眼は凄味を帯びており、若干俺は萎縮してしまった。




「子供が冒険者とか死にに行くようなもんだと入ってきた時思ったが、マイクを壁まで吹き飛ばした時嫌な予感したが握手してやっと分かった。あんた本当に何者なんだ? 異物過ぎる風に感じた」




 このルブリヌさんが何を言わんとしているのが分かるが、何者って言われてもね。俺は俺としか言いようがないんだけど。答えに困るんだがね。




「俺は俺ですよ。それ以外にないですよ。ただの平凡で、凡人で、普通のただの人間です」




 俺はルブリヌさんに笑顔になり普通に答えた。圧が強いが、それだけだ。死にはしないしな。ただルブリヌさんが握手した時、なんとなくだが俺の腹を探られたようなそんな違和感が感じられた。




「普通の子供が、マイクの巨体を壁まで蹴りで吹き飛ばしたりはしないんだがな」




 それを言われたら俺は耳が痛いお話だ。だよね!? 普通の子供はあんな巨体回し蹴り一つで、壁まで吹き飛ばしてめり込ませないよね!? ただあれは不可抗力ってもんだから仕方ない気がする。そう納得しよう。




 ルブリヌさんが頭を掻きながら、困った風に答えた。どうやら俺の腹の奥の奥まで探りたいらしい。あまりプライバシーを詮索するのは良くない気がするんだがね。




「ルブリヌ師匠は手を握っただけでその人の実力が分かる方なんですよ」




 ワーリさんがそうルブリヌさんの発言の意味について説明した。成る程ね。だからそんな風に口にしたんだ。子供にしては異質だよなと。




「どうですか? 俺の実力は冒険者として通用しそうですか?」




 俺はルブリヌさんに首を傾げながら質問した。ベテランの冒険者の方だから俺の実力が分かっているなら、冒険者として通用するのか知りたいくらいだ。それでもし駄目なら辞退する事にしよう。




「通用するも何も俺じゃ実力を測れなかったからな。なんとも言えん」




 俺はめちゃめちゃ弱いらしい。実力を測れない位に情弱のようだ。俺はそう落胆したような表情をした。




「大きすぎる。まるで世界そのもののようなそんな感じだ」




 ルブリヌさんは付け足すようにそう答えた。いやいやいやいくらなんでも言い過ぎでしょ。俺は自分をめちゃ強いとは思わないし、それに前に兄貴の組織の人間をなんとか倒せたという感じだったしな。そんなに強い自覚はあまりない。




「強すぎるのに、それで傲慢にも慢心をしなくて常に相手の対処法を考えるようだな」




 なんでそこまで当てるんだよ。このルブリヌという男、やはり手強いな。手を握っただけでこれなら戦いとなった時、もっと色んな情報を引き出せるだろうな。




「まぁー大体合ってます」




 俺は曖昧な返事をルブリヌさんにした。




「それでなんで冒険者になろうとするんだ?」




 ルブリヌさんが俺という存在がなんで冒険者になろうとするのか知りたいらしい。う〜ん結構困る質問だな。兄貴がいる場所を知りたいというのが本音なんだが、それを赤の他人に言うのはデメリットが大きい。どう答えるのが正解なのだろうか。




「ある人を探す為に、それとこの世界を知る為に、冒険者になると決めましたね」 




 俺はキッパリとハキハキとした声を出して、真面目な顔でルブリヌさんの質問の答えを言った。何も間違ってないし、それにこの世界が知りたいのは本音だ。あんな絶景を目にした時、この世界を旅しまくりたいと考えた。だってそんなにも美しかったんだから。




「そうか。それなりの冒険心はあるんだな。ただな。この職業は言っちゃなんだが、死にに行くようなもんだ。その覚悟はあるか?」




 そもそも冒険者になろうとしているのに、そんな覚悟無かったらそもそも別の選択肢を選ぶよ。冒険者だからいいんじゃないか。




「覚悟はあります。だって決めた事なので捻じ曲げられないですよ」




 俺は深く頷いた。決めた事をすぐ変えたら冒険者の方に失礼だしな。なると決めたからには全力でやらないと。




「そうか。いい奴が入って来たもんだ。俺は嬉しいよ」




 そしてカウンターの方から「試験の準備出来ました」という声が聞こえた。どうやらそろそろ試験開始のようだ。




「そろそろ行かなきゃいけないな。ありがとうございました」




 俺はルブリヌさんに椅子から立ち上がり深くお辞儀した。そしてルブリヌさんも立ち上がった。




「俺もカウンターまで付き合おう」




 立ち上がった時、二百以上はあるのだろうか。さっきの糞男より一回り大きい巨体をルブリヌさんは誇っていた。まるで一種の巨人。そんな風に見違える程、体格が優れていた。太っている訳ではなく、その全身が筋肉とこれまでの経験により蓄積されていったのだろうか。




 それにしてもなんでルブリヌさんまで行くのだろうか。気になるところだが、何か用事がある感じかな。

 そして俺たち達はカウンターの前で、アディオさんの元まで来た。




「ルブリヌさん、どうでした?」




 アディオさんは何か分かった風にルブリヌさんに言った。俺は一瞬、どういう事なんだろうと違和感を感じた。




「合格だ。むしろいい人材だ」




 合格って本当にどういう事だよ。意味が分からないんだが、ちゃんとアディオさんが説明してくれるだろうか。




「第一試験クリアですね。ルブリヌさんに認めて貰うのが、最初の試験でした」




 何の説明も無しに、いきなり試験は開始していたらしい。いやいくらなんでも急すぎない。ヤバいな。冒険者の試験って。




「それじゃあとは次の試験は模擬戦ですので、裏まで行きますよ」




 カウンターの奥の方まで行くようだ。誰が試験官をするのだろうか。やはりアディオさんなのか、それともまた別の人なのか気になるところだ。




 そして俺はカウンターの中に入り、木製の扉を開いて奥まで進んでいった。ちゃんと試験合格出来るか一抹の不安を抱えながら気を引き締めた。

三十一話最後まで読んでくれてありがとうございます



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