三百ノ十八話 宿泊・・・
ムディナ達、代表研修メンバーが案内されたのは、学院がある大きな建物とは別に存在する、同じ敷地にある別棟だった。どうやらここがムディナ達がお世話にある宿泊施設のようであった。ハクテイ寮とは明らかに違い、十階建ての巨大な建物であり、それはまるで城を彷彿とするようである。
高級感を超えて、まるで別世界に迷い込んだような錯覚さえ覚えてしまう外観をしていた。ここに自分が泊まることすら、恐れ多いような気がムディナはした。ムディナ自身は、他の代表メンバーと違い、本当に一般的な感覚しか持っていない。だからこそこのお城のような場所に、泊まっている自分を想像すら出来なかった。
足を踏み入れる事を、感覚的にムディナは否定していく。震えていく足を何とか動かして、そのお城のような建物に入っていく。
内観も驚愕するような広さの、エントランスであり、上には巨大なシャンデリアが聳えていた。そのシャンデリアだけで、大広間の数倍は広いエントランスをまるで昼間のように照らしている。眩いばかりの光に、ムディナは視界を奪われてしまう。
そして美しいばかりの異世界に迷い込んだような内装には、ムディナはただただ思考を止めて驚愕していく。触れる事すら烏滸がましい、その装飾品の数々が、このエントランスを綺麗に彩っている。
どこの国にもないような、様々な文化が、その一つのエントランスに集約されている。どの文化の、どの国の学院だろうと、とっつきやすいように作られているのだろう。本当に、言葉を失い、表す事が出来ない、本当に素晴らしい内装が、ムディナの視界には存在していた。
「何か――――――――凄いですね」
圧巻されるムディナは、そのように言葉を洩らしていく。学院国家、それは大陸中の文化を集約し、最先端をいく国家である。資料にはそのように記載されていたが、その意味をこのエントランスで魅せつけられるようだった。
「そうだな。私も話には聞いていたが、いざ目の前に現実としてあると、魅力的に感じてしまうな」
レストはそのように、感嘆の声を出していく。風紀委員長であるルルは、学院国家に研修に行った事があり、その話をレストは聞いていた。しかし聞くと、見ると、ではまるっきり世界が異なる事を、現に今は見せつけられていく。
レストもそれなりに貴族階級の家系であるが、これだけの物を見せつけられるとは思いもしなかった。やはり学院国家というのが、如何に凄いところである事をレストも感じ取った。
そんな風な会話をしながら、ムディナ達はエントランス中央へと歩いていく。カウンターのようなものが円形状であり、受付の女性がそこにはいた。
「ようこそ、学院国家ウィズダムへ。歓迎します。その身なりを見る限り、トーラス国の方々ですね。お待ちしておりました」
その受付らしき女性は、一眼でムディナ達を見ただけで、何処の国の者なのかを即座に言い当てた。恐らく去年も、その一昨年も来ているからだろうが、それでもすぐさま思い出せる辺り、流石としか言いようがない。
「代表者の氏名をこちらにご記入して貰っても、宜しいでしょうか?」
そう言って受付の人は、カウンターにバインダーと共に誓約書のようなものを置いた。それにはこの宿泊所に関する、注意事項が記載されていた。
とは言っても、雁字搦めになるような日常生活を規制するものなどはなく、ただ単に他の宿泊施設と同様ない なんて事ないものだった。恐らく学院の代表者を知りたいと言った名目上の代物なのだろう。
トーラス学院の副生徒会長が代表になっているという事で、ラルスがカウンター前まで行き、その誓約書のようなものを眺めていく。ただ警戒をしない訳ではなく、魔力感知にて強制力の掛かっている術式がないかは、きちんと確認していく。
そこら辺はラルスはしっかりとしている為に、ムディナ達も安心出来る次第だろうか。
それを確認し終わり、ペンを手に取り、その誓約書にラルス自身の名前をフルネームで記入していく。綺麗な、誰が見ても立派な字であり、育ちの良さが良く現れているようだ。
「代表者氏名、ラルス・スロー・トーラス。役職は、トーラス学院生徒会副会長様で宜しいでしょうか?」
ラルスは、「はい」と頷き、合っているという事で了承した。
そして受付の女性はある程度の確認を終えて、受付が終了したのかカウンター席の女性の目の前にあるベルを綺麗な音色を奏でて鳴らしていく。
「宿泊部屋にご案内する方がいらっしゃいますので、少々お待ちください」
それは案内人が来るという合図であり、それぞれの部屋に誘導してくれるのだろう。二人部屋であり、ムディナはどうやらレストと同室なのだろうと推測する。
「どうやら二人部屋らしいです。なので女性同士という事で、ワタクシとシューレナ先輩、ムディナとレスト、アーデリとウルウという組み合わせにしようと、ワタクシは考えておりますが、宜しいでしょうか?」
何ら問題ない組み合わせであり、一番妥当だろうか。風紀メンバーと生徒会メンバーで、男性陣は分けた方が、気持ち的に楽ではある。ムディナはそう安堵しながら、頷いた。
他のメンバーも問題なく、否定する理由は見当たらない為に、全員了承した。そうすると事前に受付係から手渡された三つの鍵の内、二つをそれぞれアーデリとレストに配った。
鍵に付いている札には505という数字が書かれていた。それは五階の部屋という事が容易に理解出来る事だろう。他の部屋の鍵も506と507とあり、隣同士という事で、そこら辺も問題はないだろう。
そして暫くすると、案内人らしき人が近づいてきた。その人物は明らかに学院の制服を着ており、学生なのだろうという事が分かる。この宿泊施設のスタッフという訳ではない事は、明白だった。
「はじめまして。トーラス国の代表の皆様ですね。学院国家ウィズダムへようこそ」
そんな風に男性は頭を深く下げて、お辞儀する。この生徒もそれなりの実力者だなと、一眼見ただけでムディナは感じ取れてしまった。学院国家の生徒の質の高さは、よっぽどだなと思った。
「私の名前は、アール・レント。気軽にアールとお呼びください。この研修期間中のウィズダムの案内を務めさせていただきます。何かご不明な点などがございましたら、私に即座に質問してください。私の知っている事でしたら、出来る限りではありますが、お応え致します」
つまりこの三泊四日という研修期間中、アールという生徒の人物が案内してくれる担当のようだ。気さくで優しそうな雰囲気を感じる、好青年のような風貌である。恐らくある程度の事だったら、何でも受け答えをしてくれそうで安心感を覚えた。
「それでは宿泊部屋まで、御足労お掛けしますが、ご案内致します」
そうするとムディナ達は、五階まで階段で昇り、案内されるまま部屋の前まで辿り着いた。木製の立派なドアがそこにはあり、高級感を滲ませるような金製のドアノブがあった。
「こちらが皆様が、泊まられる部屋となります。ある程度の生活必需品は備え付けられておりますので、ご安心ください。欲しい物、必要物資等がございましたら、部屋にあるメモ等にご記入お願いします」
「また朝八時にこちらに私が伺いますので、その時にメモを手渡しくれると助かります。それではごゆっくりお寛ぎください。失礼致します」
そう言うと、アールという人物は去っていった。どのような部屋なのか、楽しみで仕方なく、すぐさまドアの鍵を開けていく。
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