三百ノ十七話 学院国家の元首にして理事長・・・
ムディナ達は案内されるがまま、学院の大広間のような空間へと通された。数十万人は入るであろう、本当に広大なその場所にムディナは驚いた。それに加えて、部屋の造りや、装飾、壁紙、あらゆる部分に至って、高級品を彷彿とする作りになっていた。
ムディナ達がいるであろうトーラス学院より数ランク上である事を、その大広間の一部屋だけで魅せられてしまった。流石、大陸中にある学院を統括している、大陸最高峰の学術機関であった。
そして既にその大広間には、多数の人々がそこにはいた。あらゆる学院の生徒会、風紀委員会一同がそこに集められていた。見渡す限り、誰もがムディナから見て、実力者なのは一目瞭然だった。そんな優れていて、素晴らしい人達の中に、自分が入っていいものなのかと、不安に感じてしまった。
それでもトーラス学院の代表として、責務がムディナを奮い立たせている。だからこそ、怖気ついたりしてはいけない。それだけでトーラス学院の品位が落ちてしまうからだ。
ムディナはそう決意し、この学院国家ウィズダムへと研修に臨んでいく。何があるのか、不安になりながらも、やり遂げる意志をしっかりと決めていく。
ムディナ達が一列へと案内されると、予定通りに全員揃った事を確認しているのか、ムディナ達を案してくれた人は大広間全体を見渡す。
それが確認されると、合図なのか手を上げていく。そうすると照明が落とされて、眼前にある壇上が照らされていく。眩いばかりの光が広がっており、何かが始まるのだろうと容易に想像出来る。
そして壇上に、一人の身なりがしっかりとしている初老の男性が現れた。初老の男性は壇上の中心へと歩くと、拡声魔道具に顔を向けていく。
「大陸中の学院代表の皆様、本日はこの学院国家ウィズダムへと御足労ありがとうございます」
そのように、深く頭を下げていく。しきたりととは言え、学院の中には本当に数日は掛かるだろう場所から来た所もあるだろう。どの学院も道が整備されている訳もない。悪路を何とか、馬車にて走ってきたりもしているだろう。
この初老の男性は、それをきちんと理解しており、だからこそ感謝の言葉を述べていた。学院国家ウィズダムとして、深く、ただ深く男性は感謝していた。
「ワタクシの名は、、アルダース・ロクス・ウィズダムと申します。その学院国家ウィズダムの国家元首をしております」
この人がムディナに、不治の病を患っている娘の為に、緊急依頼をした男性なのだとようやく理解する。大切な家族の為に、どれだけの大金を叩いてのだろう。ムディナには、想像すら出来なかった金額なのだという事だけは覚えている。
「それではワタクシの自己紹介はこれくらいにして、学院ウィズダムの我々、生徒、先生一同の誇る六芒星を御紹介致します」
六芒星というのは、この学院国家の中での実力が上位に位置する六人の総称である。学院国家で代々受け継がれている一族が担う事もあるし、実力者がその座をもぎ取る事もある。完全に実力史上主義であるこの学院国家に於いて、あまり権力も何も関係ない。
あくまでも主役は、生徒であるかのように理事長であり、元首であるその人は、即座に後方へと下がっていった。それは自分はその国家を運営する歯車のような存在であるだけで、未来を作り出していく、生み出していく生徒の方が圧倒的に価値が高いというのが、現理事長の考えであり、モットーだ。
そして壇上に、六人の学院国家の制服を着用している人達が裏方から現れた。そのどの人物もが、魔力が高いのを感知出来る。実力が高くて、才能に溢れているのがヒシヒシとオーラという名の圧で感じ取れる事が出来る。
確かに学院国家の資料に書かれていた事にも、納得の出来る話だった。トーラス国の学院の、生徒会も、風紀委員会も、それなりに実力者が揃っているが、負けてしまいそうな気さえする。
ムディナはそのように思いながら、じっと遠目で壇上を眺めていた。早く終わって、部屋で休みたいという思いを抱きながら、焦燥感に駆られていた。
そんな余裕を抱き、ムディナは疲れたような顔で一人の壇上に立っている男性と目が合った。優しそうな顔色をしている顔立ちの整ったイケメンであり、嫉妬してしまいそうである。
イケメンが! ケッ!?
と唾を吐きそうな嫉妬心を内心で思ってしまった。
そしてそのイケメンの圧が一気に膨れ上がっていく。それは殺意と敵意、強者としての生物的威嚇がそうさせていた。その圧は大広間全体を包み込んでいき、会場全体が嫌な脂汗を浮かべてしまう。
震えている人達の方が割合は高いが、何人かはその圧に余裕のある姿勢を保っている。その何人かは恐らく、相当な実力者なのだろうということが容易に読み取れる事だろう。
そういう風に選別のつもりで、強者の圧を放っているのだろう。よくある手法であるし、簡単に実力を分別出来るからだろう。
しかしムディナだけは違っていた。震えてはいないが、物凄く不快だった。龍神達の子としてのプライドが、それを許しはしなかった。ムディナ自身が舐められているようであり、それは育ての親である龍神達を否定されているようで気に食わなかった。だからそれは段々と不快感から、怒りへと変化していく。
その強者としての威圧に反応するように、ムディナが強く威圧を放ってしまう。怒気の込められたそれは、会場全体、学院国家中に地割れが発生したように錯覚していく。
否だった。自らの体が震えていただけだった。そしてその圧を放っていた舐めている目の前の壇上にいる、人である人物をムディナは凝視する。
そこにあったのは、殺意や敵意、生物的本能によるものではない、ただ圧倒的な、生物としての格を押し付けているようだった。ただ目の前の存在を餌としてしか認識していないようだ。
それは威圧の放っていた恐らく学院国家の中でも一番に強い生徒は、幻覚を見てしまう。幻覚というのには、あまりにも現実的に見えてしまった。
巨大な黄金の龍が、巨大な爪のある手でその生徒を掴み取り、美味しそうな餌として見ていないその目が見えてしまった。あまりにも恐怖してしまい、男はそのまま失神した。
その威圧を反射的に放ってしまったムディナが、逆に注目されてしまい、その周りには空間が出来ていく。皆、ムディナという存在そのものを恐怖してしまい、唯一残っているのはトーラス学院の生徒会、風紀委員会だけである。
「やべ………………つい、やり過ぎてしまった」
耐えれば良かったが、あまりにも舐められているように感じてしまったもので、怒りがトリガーとなり、龍王としての威圧を放ってしまった。やってしまったものは仕方ないとして、我慢を覚えてないといけないと反省して、次に活かす事にした。
ただ問題点はあった。あまりにも異常的な圧に、大広間にいる人達全体が、ムディナに目を向けている。目を離したいのに、離した時に喰い殺されてしまうという恐怖があり、目を離す事を本能が否定していく。それがムディナが目立ってしまった結果であるからだ。
「ムディナ君、やり過ぎだニャ」
シューレナはそのようにムディナに、憐れんだ瞳を向けていた。研修初日、開会式にて、早々にムディナは目立つような事をしてしまい、失敗してしまった。
「想定はしていなかった訳ではないが、それでもムディナはやり過ぎたな。まっ、研修期間だけだ。頑張れ」
風紀委員会副委員長であるレストは、ただただ遠い目をして、思考を放棄して、ムディナの右肩を叩いて鼓舞する。
「はぁ〜、もう帰りたい」
ハクテイ寮に戻って、ミーニャに会いたい。そのように大広間の天井を眺めて、現実逃避をした。
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