三百ノ十三話 白と無限・・・
見知らぬ場所で、ムディナは眼を覚ます。土煙が舞い、上を見上げているのは分かるが、青空を見る事が出来ない。ただ腹部の痛みは続いており、何とか耐えながら立ち上がる。
周囲を見渡してみると、草木が一つもないような枯れ果てた地面がそこにはあった。草原荒野の荒野地帯であり、元いた場所から相当離れた場所まで飛ばされたのだろう。
そして自身がいるだろう足元周辺を見ると、隕石でも落ちたかのような巨大なクレーターが形成されていた。荒野地帯の山一つが消滅しており、どれだけの威力で吹き飛ばされたのか理解するだろう。
トントンと、頬に小さな衝撃が伝わる。「チュ」と鳴き声を上げながら、こっちを見ろと言ってるようだった。
あれだけの威力で生きているという事は、インフィニが何とか無限の力で守護してくれていたのだろうか。
「本当にインフィニには、頭が上がらないな。お前がいなきゃ、俺は既に死んでいただろう」
ムディナはインフィニの可愛い小さな頭を撫でながら、そのように呟く。インフィニも主に撫でられているという事で、満足な表情と鳴き声をあげる。
ムディナは何とか立ち上がり、敵の感知範囲を上げていく。無限の力により、その範囲は絶大的で、草原荒野全体を包み込むようなものであった。白く不確かな気配が、鮮明に映り込む。感知能力を引き上げた事で、輪郭のぼやけた姿を、きちんと捉える事が可能になる。
龍剣を強く握り、白き力を持つ方向へと身体を向ける。無限の力を発揮して、様々な色で輝きを放つ姿に変貌する。脚の力を無限の力で凝縮、調整する。
「行くぞ!? インフィニ!!」
自らの肩にいる小さな生物に、そう強く決意のある声を張り上げる。インフィニもそれに呼応する様に、「チュ!?」と大きな鳴き声を出して応答する。
右脚を強く踏み込むと、地面が割れていく。バキッ!?という音を奏で、放射状に地割れが発生していく。脚を離した瞬間、ムディナの肉体は飛んでいく。
「さっきは、よくもやってくれたな」
眼前に白き力を持つ青年を、上空にて見据えていく。空中を蹴り上げ、一気に白き青年へと向かう。それはまるで一種の小さな流れ星であるかのようにすら思えてくる。
ムディナは龍剣を構え、闘龍気を込めていく。黄金の龍の輝きが、龍剣から雷のように迸っていく。
龍王に似たような力を察知した白き青年は、嬉々とした表情を浮かべながら、声を出す。それは冷静的で、冷徹的で、冷淡な印象を受けた青年とは思えないような、マグマのような激情だった。
「お前がリーダーの言っていた、龍神達に魅入られた奴だな!? 我らが盟友だった存在の身力を扱うお前が、気になった!? 立ち向かうがいい!? 次の時代である勇者よ!?」
白き青年は、地面を白く染め上げていく。その変異した白き地面から、真っ白な輝きを放つ純白の剣を発生させる。青年は右手でそれを握ると、純白色へと右手を染めていき、力が跳ね上がる。さっきとはまるで別物であり、その力は、存在感は、人という存在が太刀打ち出来るような代物ではなかった。
「龍王技・アースガルド流・飛閃・龍刃炎凱」
ムディナは黄金の炎に包まれていく剣を、横一閃に薙ぎ払うように斬った。それは空間を裂き、白き力で身に守っている青年に牙を向こうとしていた。
白く染まっていく眼にて、ムディナを見る。その眼力は、全てを殺すようなものではなく、あらゆる全てを飲み込む、真っ白な正体不明な何かに思えてくる。
「白・塩水波刃」
塩分を多分に含んだ白き水が、飛ぶ刃になり、炎の一撃に向かいうつ。白き変容の力に相乗されたその剣の一撃は、途轍もない脅威になり、ムディナに襲いかかってくる。
白き刃と炎の斬撃が、ぶつかり合う。白と黄金が火花を散らすように、空間を歪めながら霧散していく。エネルギーは一緒であり、相殺されながら、両者の一撃は音もなく消え去った。
「龍王技・五ノ龍・王翼塵風」
ムディナは空中で、黄金の輝きを増していく。闘龍気は跳ね上がっていき、黄金の龍がムディナの身を包むように展開される。
そのままムディナは強く龍剣を振るう。それは無数の斬撃が盛り込まれた黄金の風となり、白き青年に向けて吹き荒れる。勢いの強い美しい旋風は、竜巻となる。全ての存在を一切合切、等しく塵へと変えていくかのようである。
「あの時の盟友である、龍王を見ているかのようだな。人の身で、龍王の技を使うとは凄いね」
そう言いながら、白き青年は左手を前に出す。黄金の風を、その手で掴むかのように握る。青年を中心とした白き空間が円形のドーム状に展開され、黄金の風を白き風へと変えていき、無効化してしまった。
「しかし天変地異であり、世界の守護者である龍王にはまだ届かないな。あれは我等を圧倒するだけの力を持つ、世界の七つの柱の一つなのだから」
白き青年はいつの間にか、ムディナの背後にいた。そしてムディナに強い痛みを感じたと思い、自らの体を見ると、強く胸を蹴られていた。白き力が流れ込むが、無限の力でそれを相殺していく。
しかし威力だけは無限の力の守護ではどうしようもなく、バキバキと鈍い音を出す。肋骨が何本か確実に折れているだろうか。
空中を支配していたムディナは、勢いよく地面に激突する。インフィニが、「チュ!?」という焦っているのか、鳴き声を発する。
視界は歪んでいき、意識が朦朧としている。聴覚だけは生きており、そのインフィニの鳴き声だけが聞こえている。心配しているような鳴き声が耳に入ってくる。
「空を支配していたつもりか。龍王のなり損ないが。烏滸がましいぞ。人間の真似事をしている出来こそないが、一丁前な事をするなよ」
白き青年は静かに降下する。魔力などを使っている節はなく、重力という影響を受けていないようだった。まるで概念そのものが、白き青年を跳ね除けているかのようだ。
「虫唾が走る。そのまま真っ白になり、消えてなくなれよ」
白き青年は、純白の剣を振り翳す。その輝きが、エネルギーは、形となり、巨大な神々しい一つの剣となる。それが振るわれたら、この草原荒野の地形と生態系は一気に変化してしまうだろう。
それだけは、何とか阻止しないといけない。ムディナはその使命感を持ち、何とか身を動かして、起こしていく。意識が朦朧としているが、今はそんなのは関係ない。
あれを止めなければ、何千という生命が消えていく。それだけはなってはいけない事象だ。
無限の力を引き出して、無限剣を形成する。様々輝きを放つそれは、ムディナの自我を飲み込んでいくようだ。今のムディナでは扱いきれないその剣を何とか持つ。
「何を抵抗している。つまらない事をして、意味もなく生きようとしているんじゃねぇよ」
その極大な純白の剣は、一直線に振り下ろされていく。無慈悲に、ただ無感情に、小さな虫でも見ているかのように、無機質に攻撃をしていく。
もう興味など、そこにない眼をしていた。ムディナの身体は、いう事を効かない。あの白い一撃を防ぐだけの力をもう有してはいない。
インフィニが無限の力のコントロールをしようとしているが、うまくいかない。インフィニの力では超えられない程に、ムディナの体力、力そのものが消耗しているからだ。
しかし気を奮い立たせ、残っている最後の力を奥底から引き出して、無限の剣で、白き脅威的な攻撃を防ごうとする。
「無限剣・アー………………」
無限の力を引き出そうとした時、緑色の毛色の美しい獣がそこにはいた。
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