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八千職をマスターした凡人が異世界で生活しなくてはいけなくなりました・・・  作者: 秋紅
第八章 学院国家に研修に行くようです・・・
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三百ノ十二話 白の再来・・・

ムディナは無限の力を解除して、ゆっくりと研修メンバーである五人の前へと降り立つ。全ての堕象を屠った事で、ようやくムディナは安堵の息をゆっくりと吐く。





 さっきまでの神々しい雰囲気のムディナは何処にもなく、なんて事のないトーラス学院の一生徒の一人であった。ムディナの右肩にいる特異な鼠のペットであるインフィニは、「チュ」という鳴き声を上げて、誇らしげに胸を張っていた。





「そうだな。ありがと。インフィニの居たからこそ、これを乗り越えられた」





 恐らくインフィニが居なければ、ムディナ達は堕象の群れに苦戦していただろう。それか誰かしらの犠牲者は出ていたかもしれない。そう考えるだけで、ムディナは、少しばかり身震いした。





 インフィニの頭を優しく撫でながら、ほのかに微笑む。インフィニが居てくれて、本当に良かったとホッとするばかりである。





「それはそうと、何でインフィニがついて来てるんだ?」





 そんな事をインフィニにムディナは質問した。結局、自らがついて来たのか、それともミーニャによる差金かどちらかだろう。





 それを聞いたインフィニは、「チュ」と言いながら、首を傾げていた。どうやら惚けている様子ではなく、本当に何で自分がここにいるのか分からないと言った感じである。





 つまり残された理由は、ミーニャによる差金であるという事になった。では何故、ミーニャはインフィニがついてくるよう真似をしたのだろうか。





 不思議で仕方ないが、考えたところで答えは見つかる訳もない。なのでトーラス国に帰って来たら、聞いてみる事にしよう。





 そう考える事をやめて、ムディナはゆっくりと研修メンバーに歩み寄る。




「すみません。勝手な事をして」





 本来なら生徒会副会長であるラルスや、風紀委員会副委員長のレストによる指示を仰がないといけなかった。





 つまり上司の指示を仰がずに、一人でに勝手に判断して、勝手に行ったに過ぎない。それは普通なら集団として、社会としてあってはならない事だろう。結果的にムディナが強かったから良かったものの、そういう理由じゃなければ、動く事を許してはいけない。完全な結果論な話だ。





「いや私が不甲斐ないからだろう。むしろムディナが居てくれて助かった。ありがとう。命を救われた」





 レストはそう頭を下げて、感謝の言葉を言った。レストからすると、ムディナが居なかったら今頃命は無かっただろう。それ程までに、堕象の群れの脅威は異常だったからだ。どうする手立てもなく、抵抗するしか手段はなかった。





 だからこその命を、文字通りに救われたのだ。ムディナが居てくれたから、自らの命の灯火が未だ灯っている。





「それはそうと、そろそろ馬車に乗りましょうか。ハプニングで、それなりに予定時間が過ぎてますからね」





 ラムスはそう冷静な口調で、呆けている全員にそのように指示する。確かに堕象の襲撃は、あまりにも予想外な出来事であった。





 本来なら草原地帯を抜けて、もうすぐで学院国家間近というところであろうか。





 元々あった余裕ある時間が無くなっているのは、焦燥感を煽られるようだった。





 グレタールホースは余裕ある佇まいであった。それは立派な誇りある馬のような、その姿には圧倒されるばかりである。





 そしてグレタールホースはずっとムディナを凝視していた。そこには強者に敬意ある眼差しをしていた。まるで真の主人を見定めたかのように。





 とは言っても俺には、既にインフィニがいる為に、それ以上を求める事なんてする事はしないのだが。





「また乗るのかニャァァァア……………………」






 シューレナは死んだような眼をして、恐怖により身を震わしていた。また馬車酔いによる悪夢を体験しなきゃいけないと思うと、ゾッとするような思いに駆られていくだろうか。





 しかし乗らない訳にはいかない。そんな使命感だけが、体を動かして、何とか馬車に乗ろうと脚を運ばせていく。





 ムディナが乗り込もうと体を動かした時、違和感のような悪寒が走っていく。未だ感じた事のないよう、奥底から膨れ上がるような憎悪に身を焦がしていく、生きる屍のような、真の悪に対峙するような、そんな意思が伝わってきた。




 インフィニもそれを感じており、同様に小さな体を震わしていた。




 さっきの堕象の群れの怨念のようなものを、ムディナ自身は感じているのだろうかと、そのように思う事にした。




「これは何なんだろうか………………。いや……………………」





 ムディナは、その憎悪を知っている。唯一だけ、一人だけ、それを脳裏に刻み込んでいた。世界そのものを、全て本気で滅ぼさんばかりの、世界全てを焼き焦がすようなムディナが、異常すぎて理解出来ないまでの怒りを。





 ムディナは亡骸になっている堕象の群れの、残っている骸を見るように、勢いよく振り返る。その違和感の正体を、自らの眼球の奥底に、そこに見出すように視界に収めていく。





 そこには白い何かがあった。不定形のような、形の整っていないような不可思議な認識を、最初は持ってしまった。





 その認識はだんだんと鮮明になっていき、ようやく人の形なんだと脳が理解するに至る。それでも認識の薄さはそこに健在であり、すぐさま眼を離したら、そこには何もいないような錯覚を覚えてしまう事であろう。





「だいぶ悲惨な血の紫だね。美しいけど、悪い色だ。真っ白に染めたいくらいだ」





 そんな事を、その人物は呟いた。何を言っているのか、ムディナには理解出来そうにすらない。脳裏が、その言葉の理由を拒否するようだ。





 そこには白い髪の、血色の悪い白い肌の痩せ気味の人物がそこにはいた。全身が白いスーツに身を包んでおり、清潔感があるような印象だ。





 顔立ちは正直、今までムディナが見た事すらないような絶世の顔を持っている。全ての存在を地の底に堕としかねないような、異常的な顔をしていた。まるで神の寵愛を受けているような、そんな天性の美がそこにはあった。





「皆! 今すぐ、馬車に乗れ!!!!」





 ムディナはそう研修メンバーに、絶叫するように声を張り上げる。ムディナの焦りと恐怖を、研修メンバー全員、理由は分からないが、心から察する事にした。






 ――――――――あれは確実にやばい。





 ムディナは冷や汗を垂らしながら、じっと立ち竦んでいた。インフィニもそれを理解しており、「チュ」と言いながら、無限の力をいつでも発揮出来るように体勢を整えていた。一心同体であり、ムディナが死ぬ時、インフィニも死ぬのを覚悟している。





 研修メンバーは即座に、馬車へと乗り込んでいく。異常的な事態ということだけは理解しており、馬車を走らせようとする。





 ムディナが見てる先をレストやウルウは警戒の為に凝視しているが、認識すら出来ない。二人が認識出来ない異常な何かを、ムディナは見ているようだった。





「君――――――俺の事、認識出来るんだね」





 ムディナの前にはすでに、白き男がそこにはいた。さっきまできちんと視界に認識していた筈なのに、一瞬にして間合いまで詰められた。





 ニコニコとしている笑顔が、ムディナを殺意ある笑顔だと察してしまう。いや虫を潰すかのような、何も感じてない顔である。殺す事に、何の躊躇もないような感覚をしているようだ。





 いつの間にか腹部に強烈な痛みが、一気に走っていく。ムディナが痛みをきちんと感覚として認識してから、腹部を確認すると、強烈な一直線の蹴りが放たれていた。予備動作すら一切ない、認識不可能の絶対必中の一撃だった。





「嘘だろうがよ………………」





 ムディナは一気に吹き飛ばされ、数十キロは軽く身を飛ばされていった。威力が桁違いであり、単純な蹴り一つで、大陸を滅ぼせそうな力を誇っていた。

三百ノ十二話、最後まで読んでくれてありがとうございます



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