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八千職をマスターした凡人が異世界で生活しなくてはいけなくなりました・・・  作者: 秋紅
第二章 遺跡の町は浪漫に満ちてました・・・
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三十話 受付嬢が面倒くさいんですが・・・

俺は怒りのあまりついそんな行動をとってしまった。俺はアライに忠告されたにも関わらず、暴動を起こしてしまった。

 俺はアライに怒られるのではと思い、恐る恐るアライの顔を見た。




「ごめんなさい………………」




 その顔は何処か頬を赤く染めていた。どんな感情なのかは俺には分からないが、怒っている訳ではないようだったが、一応忠告されたのを破ってしまったから謝った。




「いや私の事守ってくれたんでしょ。ありがとう」




 アライはそうお礼を言った。そういう事なら俺も救われるな。やって正解だった気がするな。




「でも私を守ってくれるのは嬉しいけど、もう少し話し合ってもよかったんじゃない?」




 あういう糞男は、一回痛い目見ないと同じような行動を絶対繰り返すからな。お灸を据えただけだ。勘弁してくれ。




「ついやってしまってさ」




 実際、俺があんなにも激情に駆られるのも珍しい。やっぱりアライって個人を本心で大切にしている結果だろうか。俺には分からないが無意識の力って凄いんだな。




「とりあえず、受付のカウンターに行こうか」




 そんな事を俺はアライに口にして、真っ直ぐと冒険者ギルドの受付カウンターに向かった。ただ俺は物珍しさからか周りをキョロキョロと見渡した。




 やはりあの騒動があったからだろうか。ボソボソと話す声やただ黙って食事に没頭している者、眼があった人物もいたが、眼を合わせた瞬間、すぐテーブルに向き食事を再開した者だったりと様々だった。




 俺という個人のせいでこの冒険者ギルドの雰囲気が一変した。さっきまでの活気に満ちていた騒がしい雰囲気が何処かに消え去った。




「俺なんか悪い事したかな?」




 いや理由は分かっているが、分かりたくないのでアライに確認を取ろうとした。そもそもこの騒動は、不可抗力だ。俺は悪くない。むしろ絡んだ糞男が悪い。むしろそっちを罰するべきだろう。




「悪くはないよ。ただやりすぎたね…………」




 それもそうか。こんな子供のような体格の如何にもか弱そうな俺が、あんなガタイのいい巨体を蹴り一つで吹き飛ばして、建物の壁にめり込ませたんだから。誰だって驚愕するに決まっている。俺だって側から見たら驚いて眼を見開いて数分くらい固まるような出来事だ。




 そしてそんな子供の感想は一言。『やばい』の一言に決まっている。その一室にいる冒険者の大半はそう思っている事だろう。あんな子供が、巨体の男を吹き飛ばしたって事は、強すぎるなと。




「それは俺も思った。少し派手にやり過ぎたね」




 派手どころかド派手な部類だ。ドコォって大きな音を出したけど爆発音とかで通報されないだろうか。というか壁の修理代とか請求されないだろうか。それだけが凄く心配だ。




「あっ受付の人は女性の方なんだね」




 あんな荒くれ者だったり屑野郎とかいる中、よく女性がいるな。看板娘とか受付嬢とかいう奴だろうか。凄い職業に就いているな。その女性も。




 いや見た感じ、これは違うかもな。立ち姿だけでも隙が全く見当たらない。それにいつでも臨戦体制に入れるように、懐に暗器のナイフも持ってやがるな。そして洞察眼も結構なものだ。




「やっぱり分かるんですね」




 その女性はそんな事を口にした。やはりバレたか。俺が少し警戒しただけで俺の実力を把握しやがった。この女性は手強いな。




「あんたアサシンか何かか?」




 暗器っていう物騒なもん隠し持っているのが、暗殺者以外俺には心当たりがなかった。




「いや私はいっかいの元冒険者ですよ。ただ探索や戦闘をする内に暗殺者としての技が出来上がっただけですよ」




 つまり学んでの暗殺者じゃなくて、独学の暗殺者か。結構な戦闘経験を積んでないと、この女性の実力は相当なものだった。




「成程。A級冒険者クラスか? あんたは。間違ったらごめんな」




 S級冒険者とは、英雄の域に達してしまった最早存在そのものが抑止力の化け物らしい。ただ女性の立ち姿の隙の無さ、実力を鑑みてA級クラスなのが妥当だろう。化け物クラスにはどうしても見えなかった。




「外れ。やはり君にとって私はそう見えるのね。S級冒険者よ。元ね」




 どうやらこの女性が、英雄クラスの冒険者だったようだ。まじかよ。俺の勘も鈍ったものだな。気を引き締め直さないとな。

 実力の見誤りは、命を落としかねない重要な部分だ。そこを見誤るとはやばいな。




 その女性は紫の髪を靡かせながら、自己紹介を開始した。




「この冒険者ギルドのマスターをしている、アディオ・ルクス・マーデリスだよ。宜しく。小さな怪物さん」




 アディオはカウンター越しで、手を差し出してきた。どうやら握手を求められたようだ。




 ていうか最後、聞き捨てならない言葉が聞こえたんですけど。怪物って俺が? 俺は普通の凡人なんだけど、訂正してもらいたいんだが。




「アディ・ブレードです。宜しくお願いします」




 アディオの手の甲から握手した。よくやるもんだ。全く。油断も隙もあったもんじゃないな。この女も。




「やっぱり分かるんだ」




 アディオは感心した様子を浮かべて、俺に笑いかけた。




「分からない方が可笑しいだろ。ただの麻痺毒なのが良かったが」




 アディオの手の平には、全身を麻痺させる強力な麻痺毒が塗ってあった。そしてアディオの手には眼にはあまり見えにくい極薄の手袋を着用していた。

 ただ触るくらいなら一時間くらいで回復するような毒ではあったのが救いな気がするが。




 これが全身を蝕む猛毒だったら、この女性もただじゃおかないようになったからだ。




「毒の種類まで分かるんだ。凄いね。君」




 空気がピリつくような感じが漂っていたからな。徐々に気化するタイプの毒なのだろう事が分かる。




 それにしても試すにしても強引な歓迎の仕方されているな。なんか面倒くさくなってくる。




「それでご依頼でしょうか。それとも冒険者志望の方でしょうか?」



 なんか分かりきっている質問をされたな。いやこの女性も察している筈なのに、なんでまどろっこしい事言うんだろうね。




「分かっているでしょうに……」




「一応、社交辞令という奴ですよ。冒険者志望ですね。分かりました」




 そういう事なら納得する。社交辞令なら仕方ない事だ。ていうか俺が言う前に、面倒くさくなって結局、分かりきっている答えを自分で言いやがった。社交辞令もへったくれもないじゃないか。




「準備しますので、適当な椅子に座って待っててください」




 準備って何の準備だろうか。確か、アライの話では模擬戦をして冒険者志望の人を試すって話だったな。いやまさかこのアディオって人が試験監督だったりするのだろうか。




 アディオは深く礼をしながら奥の方に行ってしまった。どうやら彼女が試験監督のようだった。嫌だな。暗殺者とか実力の高い人を相手にするのは、しんどいな。




 俺は振り返り何処かいい席がないか見渡した。が何処も満席であり、どうやら立ちながら待つと言った感じになってしまうな。せめてアライは座らせたいな。

 俺も長旅のせいか足に重たい負担が掛かっているから少しでも足を休ませたいが。




 それに糞男で蹴った足にも負担が上乗せされているか余計だった。




 そんな事を思っていると、男一人が俺たちの前へと来た。




「こっち座っていいぞ」




 一人は赤髪の如何にもイケメンの若い男性だった。女性人気も高そうな、それでいて優男の雰囲気がある男性だった。腰には比較的普通の剣を携えており、どうやら片手剣を扱う普通の剣士タイプのようだ。




 どうやら俺たちが座る所を探す所を見ていたようでそれを察した優男が、こっちに近づいてきて一緒に座ろうと誘ったようだ。




「それじゃお言葉に甘えて」




 俺は願ってもない話だったので、座る事にした。

三十話最後まで読んでくれてありがとうございます



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