三百ノ四話 生徒会の代表メンバー・・・
「お待たせしてしまい、申し訳ないです。遅れました〜」
女性の間伸びしたような声が響き渡ってくる。眼鏡を掛けており、ロングヘアーに綺麗な緑色の髪を一纏めにしていた。
そして制服の胸元には、生徒会の人が付けているであろうバッチがそこにあった。そのバッチの形状を見る限り、その女性が生徒会副会長であるのはムディナは見て取れた。
「いいのニャ。生徒会長が居なくなって事で、多忙だろうからニャ」
シューレナは副会長の女性に対して、知り合いかのように接していた。
それに会長業務の一環は、全て副会長にしわ寄せという形で、押し寄せて来ているのは言うまでもないだろう。
「いいえ〜。忙しいは、言い訳に過ぎませんからね。待たせたのは、事実でもありますし」
ズレている眼鏡を、クイっと上に上げて直しながら、そのようにきっちりと言った。
恐らく生徒会の他メンバーに引き継ぎという事で、通達していて遅くなったのだろう。副会長が抜ける穴というのは、途轍もなく大きい。だからこそ綿密に、通達事項を伝えていたと思われる。
「そういえば君が、噂の生徒ですね。生徒会長とヒョウカが実力と諸々を認めているという」
そう言いながら、副会長はムディナの顔をじっくりと眺めていく。そこには実力を見定めるような、そんな観察眼をしていた。圧倒されるような眼力と、微かに感知できるが、眼に集中している魔力が分かる。どうやら魔眼を持っているようで、恐ろしい限りであった。
「初めまして。風紀委員会所属、ムディナ・アステーナです」
ムディナは眼力に圧倒されながらも、名前を名乗っていく。頭を下げながら、先輩として敬うようである。実際に副会長に相応しいような、そのような実力とオーラを肌で感じる。間近で見ると、余計に肌がピリつくようなざわつきがあった。
「そう言えば、名前すら言ってなかったですね。これは副会長として、失格ですね」
副会長は落胆したような表情を浮かべていた。彼女にとって、生徒会の副会長という役職は、それほど理想として高いものなのだろう。だからこそ一喜一憂するにしても、相応しい態度や姿勢を取らないといけない。
ムディナはそのように推察した時、ようやく思い出した。生徒会というのは、ある種精神性に於いても、異常な存在であるという事を。異常が皮を被って、正常になっているに過ぎないのだと。
そして副会長は深々と頭を下げ、制服のスカートの裾を少しだけ上げながら、綺麗な姿勢でお辞儀する。そこには気品溢れる高貴な存在がそこにはあった。
「私、ラルス・スロー・トーラス、そのように申します。トーラス生徒会の副会長をしておりますので、以後お見知りおきよ」
そこには貴族ではなく、王族である証明であった。嘘偽りの無いその言葉には、姿勢と態度で説得力として存在していた。王族という責務と義務を一身に背負いながらも、それを普通に当たり前のように全うする。
彼女にとって、それは生徒会副会長という責任ある役職に於いても、当たり前の事であり、精神的な疲労などそこには無いのだろう。色々な信頼と信用を一身に受けるのは、慣れているのだから。
「王族の方ですか………………。生徒会というのは、本当に凄いところですね」
ムディナは圧倒されながら、そのように呟いていく。それを聞いていた、ラルスは威圧的になっていく。圧倒的な強者としての圧が、ムディナの周囲を覆うように肌へと伝わる。
ムディナ自身は、何か変に機嫌が悪くなるような事を言っただろうかと、疑問になる。別に王族という事を言っただけである。それに何か琴線に触れるような事なのか。
「何か俺、変な事を言ったでしょうか?」
ムディナはそう理不尽な圧に対抗するように、強者として圧を出していく。そこには敵意と殺意を眼に滲ませており、ムディナの背後には、巨大な龍の幻影が見える。
そのムディナの圧に、ラルスは臆する事もなく、表情を崩さなかった。王族という責務と責任が、ラルスを極限までの精神的強度を確立させたのだ。だからこそ命が失う危険な状況でも、、圧倒的な強者が圧を掛けようと、心が揺るぐ事などない。
「副会長、威圧するのをやめましょう。馬車で一緒に旅する仲間のようなものなんですから」
声がする方にムディナが眼を向けると、背が高く、体幹を一切に崩す事のない、剣の鞘を握っている男性がいた。薄い紫色の綺麗な艶のある髪と、顔立ちの整っている。恐らく熟練とした剣士であり、騎士の家系であるのが推察出来る。
「君も、副会長を威圧するのはやめたまえ。副会長はあまり、『王族』と言われたくないのですから」
その男性が剣の柄に手を握ると、ムディナが一瞬にして首が斬られるような幻覚が感じた。ムディナはそれに驚愕して、冷静になり、首元を慌てて触っていく。斬られてない事に安堵して、落ち着く。
「すまないね。あまりこの手法を使うのは気が引けるのだけど、臨戦態勢になっている二人を落ち着かせるのは、この方法が一番手っ取り早いからさ」
それはまさしく剣圧だった。熟練とした剣士が、剣を握るだけで、その使い手と剣の圧で、首が斬られたと錯覚してしまうらしい。ムディナ自身は、それを体感した事すらなく、余程の剣士なのだろうと身を持って実感した。
「初めましてだね。俺の名前は、アーマン・ソード・レーザー。気兼ねなく、アーマンとでも呼んでくれ」
アーマンは剣から手を離し、ムディナに近づきながら陽気に挨拶する。そこには先程あった剣士としての命を取るような危険な圧はなく、優しい雰囲気を纏っていた。余裕ある立ち振る舞いに、強者としての貫禄は未だ健在だが。
「僕の名は、ウルウ、レグリ。そのような名前だ」
冷たい声を何とか張り上げ、生徒会の一年生と見られる人物は言った。寡黙的で、ただただ静かな気配無きその姿は、暗殺者を彷彿とさせるようである。
ウルウとは、このトーラス学院に十五人しかいない特待生組で、実力者の中でも実力者のエリートの一人である。ムディナが風紀委員会の資料であった生徒の一覧名簿には、特別枠で、特待生の欄が目立つようにあったので覚えていた。
「君、強いんだってね…………。ねぇ〜、試しに本気で殺し合おうよ」
ウルウは殺意ある、異常なまでの殺戮者としての眼光で、ムディナを睨んでいく。殺戮者でありながら、狂人であるが、それでも日常では、何とか理性を保とうとしている。
しかし圧倒的なまでの強者であるムディナは、この限りではないだろう。生徒会の三人は、学院の中でもトップクラスの実力者だ。だからこそ察する事が出来る。一度、目の前の存在が本気になれば、生徒会メンバーどころか、大陸、世界すら容易に消しかねないのだと。それほどまでの強さを身に持っている目の前の異常的な存在がいるのだと。
「やめようか。ウルウ。俺も剣士として強さの高みを目指す身として、戦いたいという心はあるが、彼はそういう次元を超えているよ」
何か俺が、異常者みたいに言われるのはどうにも心外だった。生徒会メンバーの方が、戦闘狂だったり、好戦的だったりと、やばいのに、どうして俺の方がヤバいみたいに言われないといけないのか。
ムディナはそう少しばかり、不満を心の中で吐露した。
「分かりました。アーマンさんの言う事は聞きます」
はちゃめちゃな、このような生徒会のメンバーで本当に大丈夫なのか、ムディナは不安になってしまうが、もう何も言えないし、決まってしまったものに、口出しは出来ない。それを脳裏で理解していたので、諦めることにした。
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