三百ノ三話 旅立つ前・・・
トーラス学院、この大陸の有数の教育機関の一つであり、優秀な人材も多い事で有名な場所である。
騎士や魔法使、学者、多岐に渡るような人材を、その人物の才能を百パーセント引き出す事を目的とした場所でもある。
そんな場所から今、ムディナ達一行は代表として学院国家という魔境へと脚を運ぼうとしていた。
トーラス学院、校門前にて豪華な装飾がされている馬車と、グレタールホースという馬の魔物を手懐け、紐で繋がれていた。グレタールホースとは、一角馬とされている馬であり、特異に珍しい魔物である。一説にはペガサスが地上へと舞い降り、そのまま地上へと暮らす事を選んだ個体が、翼を失い、今に至るらしい。
しかし逆に翼を失ったところで、余計に馬としての脚力は向上しており、異次元の素早さを持っている。
そんな馬を馬車へとするというのは、如何せんムディナにとって、嫌な予感がして恐怖により身を震わせていた。
その馬の恐ろしい目付きが、ムディナを睨む。そこには外敵を排除したいという目付きではなく、完全に脅威としか感じていないような眼をしていた。
ムディナ自身は何もしてないのに、どうしてそんなに睨むのか、ただただ恐怖でしかなかった。
「俺が何をしたっていうんだ………………」
ムディナはそうボソッと、残念そうに口にしていく。馬という動物自体、ムディナは結構好きな部類である。あの流動的な動きに加えて、気高き姿勢は龍達を彷彿とされるからだ。
「それは仕方ないニャ。グレタールホースは、強すぎる相手に対しては、威圧的に接するからニャ」
やれやれと言った様子で、猫人族のシューレナはそのように言った。グレタールホースは基本的に、弱者には手を出さずに、強者のみを狙う。そのせいで古傷のようなものが、そこらかしこに目立つ個体が多い。
そしてその古傷が多く、生き残っている個体は、逆説的に言えば歴戦の強者の個体という事になる。実際にムディナのグレタールホースには古傷が目立つが、そこにあるオーラは尋常ではなく、強者の風格をきちんとあった。
「風紀委員会代表メンバーは、揃っているようだな」
風紀委員会副委員長レスト・ルードラットはそのようにシューレナとムディナを見て、メンバーがいる事を確認する。実質的な風紀委員会の研修メンバーの中で、一番に統率を取る役職を持っているのがレストであった。
メンバーに選出されたからには、全力で、役目と使命を全うするように意気込んでいた。特に副委員長という立場故に、余計に学院国家では、風紀委員会の態度、姿勢がトーラス国の代表としての責任が伴うだろう。
そこには別にプレッシャーを感じてはいないと言えば、嘘にはなるだろう。しかしそれ以前にレストは、この役目を担った事に喜びを感じていた。風紀委員会副委員長という立場を、トーラス学院の代表としての使命を、担えるという事実に底知れない嬉しさがあった。
「あまりにも気合が入り過ぎてないかニャ。副委員長」
シューレナは、副委員長の真面目な顔に白い眼を向けてしまう。確かにその調子のテンションでいくと、学院国家に着く頃には尽きてそうな気がしてしまう気がした。肩の荷を背負い過ぎており、息苦しさを無視しているかのように。
「何を言いますか!? このレスト・ルードラット! 委員長であるルル様に役目を担われた立場を、学院国家に魅せれるというのは喜ばしい事だ」
それはあまりにも二人は一つの言葉を内心であるが、同調していないのに思ってしまった。『めんどくせぇ』という事実を。責任感と真面目が幸いしているのか、余計にテンションを上げて、拗らせていた。
「副委員長、私が言うのも何ですが、もう少し気楽になりましょう。副委員長の生真面目さと責任感の強さを存じておりますが、馬車に乗る前からその調子でいくと、着く頃には尽きてしまうかもしれません」
気が楽になるのと、真面目になるのを切り替える事は重要である。いつも気が張っていると、段々と精神的に知らず知らずに疲労してしまう。それは身体的にも影響を簡単に及ぼし、怠くなってくるだろう。
それにこの三人は未だ学院国家がどのような場所なのか、行った事すらないし、見た事もない。つまり未知の世界に足を踏み入れるのと一緒であり、自ずと気が張り詰めていくであろう。だから着く前は、ゆっくりと精神を休め、学院国家での研修に臨めるようにした方が妥当であった。
「う〜む、ムディナがそう言うなら、少し気を楽にしよう。すまんな。一人ではしゃいでしまって」
ムディナのその言葉を飲み込み、レストは深呼吸しながらゆっくりと落ち着いていく。いつもの調子へと戻っていき、冷静に思考を戻していく。
さっきまでの気が張り詰めたようなレストの雰囲気は収まり、いつもの気さくな良い副委員長としての姿へと戻っていた。やはりいつものレストが、ムディナにとっては一番良かった。頼りになりながら、副委員長としての責任感を持っている、安心感のある姿である。
「いいニャ。副委員長も、トーラス学院の代表として、頑張ろうとしていたのは伝わっていたニャ」
シューレナはそのように、レストに共感を示した。シューレナは気楽的で、楽観的な人物である。常にふわふわとした思考をしており、何事も常に冷静だ。考えていないわけではないが、リスクとメリットを常に頭の中で整理をつけている人でもあった。だから風紀委員会の中で、シューレナほど判断能力の速さと正確さを担っている人物はいない。
ただそれを、言葉にはしない。あくまでシューレナでの頭の中で、思考が完結している為に、わざわざ誰かに話す必要性が無いと考えている。ただ一大事になった時、ようやく口にしていく。
シューレナがレストに気合いが入り過ぎていたのを危惧していたのは、そのようにリスクの方が多いと判断したのだろう。ムディナ自身もそれは同意の意思を示していたのも同様だ。
「副委員長のそういう真面目で、責任感の強さは、風紀委員会の中で、随一ですし、皆が助かってますから」
レストの実直なまでの騎士道精神に憧れている一年生は、多くいる。憧れを抱いている人物なんて、ムディナの知る限り両手でも足りない位には、数多く存在する何なら。何なら二年生も、三年生も、合わせると全校生徒の十分の一の割合はいるだろうか。
「そうか。そう言って貰えるか…………ありがとう」
ムディナ自身も、レストのそのような高潔な精神の意気込みに、少しばかりの憧れを抱いてはいる。それは龍神達に似通っている部分は、それなりにある為に、参考にしたかった。
「それはそうと、生徒会の方々、遅いですね」
ムディナはそのように心配する。馬車には、風紀委員会のメンバーと生徒会のメンバーが同乗する形になっている。まだ待ち合わせの時間には、余裕はあるが、そろそろ来てもよかった。
ただ生徒会のメンバーは、生徒会長が居なくなった事で、忙しくしているだろう。あれだけの実力とカリスマ性を持っている生徒会長が殉職という形になった事で、その皺寄せが来ているのだろうとムディナは推測する。
「お!? 噂をするとだな」
レストはそう学院から歩いてくる三人に、顔を向けていく。レストとシューレナは、それなりに生徒会との交流がある為に、ある程度の顔見知りがいるのだろう。
ムディナ自身は色々と、忙しくしたり、色々な出来事に巻き込まれたりと、災難が続いた為に、あまり生徒会との交流をはなかったので、生徒会の三人は初見だった。
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