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八千職をマスターした凡人が異世界で生活しなくてはいけなくなりました・・・  作者: 秋紅
第八章 学院国家に研修に行くようです・・・
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二百ノ九十五話 ギルドの要請・・・

 ユリアリの酒場、そのような看板が眼についていく。その酒屋は、トーラス国の冒険者ギルドであり、本来ならムディナからすると関わる気が無い場所である。なら何故関わろうとしているのか、それはムディナが手に持っている巻紙のギルド印が押されている指令書と呼ばれるものだった。






 それは高ランク冒険者が受け持つとされる、難易度の高い緊急性のある依頼でもあった。しかしムディナからすると厳しい話だった。





 だからこそ直談判すると言った形で、今赴いているのだ。怠そうな、面倒臭そうにしながら、トボトボと一歩ずつ歩いていく。関わる気もなく、それでいて依頼すら受けるつもりなど、毛頭ないというのに。





「だりぇな…………マジで」





 そんな事を呟きながら、酒場のドアを開けていく。そこには賑やかな光景が広がっており、酒場というよりかはやはりギルドなんだという事をマジマジと実感出来る。冒険者というのは、騒がしく、賑やかで、楽しくて、毎日が幸せ。そのような人種が、冒険者は大半である。





 だからこそこの賑わいは、真っ当なものである。懐かしさを覚えながら、受付へのカウンターを見渡しながら探していく。それに気が付いたのか、一人の女性冒険者が近づいてきた。





 今のムディナの格好は、いつもの仮面に加えて、身動きが出来る身軽な軽装の鎧に、炎蛇臓という魔物の皮から加工したズボンを着用している。そしてその上に淵獄狼という魔物の毛皮で作製したローブを羽織っていた。





 これがムディナが現役冒険者時代に着用していた装備である。着る機会なんて、もうないものだとばかり思っていたので新鮮な気持ちだった。





「あんた、どうした? 新人か?」






 女性冒険者は、受付カウンターに即座に行かない事で新人だと思ったのだろう。元々、トーラス王国首都の冒険者ではない為に、それはそれで仕方のない事だろう。





「いえ、このギルドに来るのは初めてでして」






 そのように頭を下げながら、ムディナは女性冒険者の質問に答えていく。それを聞き、女性冒険者は見渡すようにしてムディナを見る。





「つまり他のギルドから来た冒険者か。それにしても、上等なもの着ているね」





 やはり冒険者としてのサガなのだろうか。相手の事を観察して見極めるというのは、冒険者にとっては当たり前の事である。そして装備の質すらも見抜いている辺り、それなりに実力のある冒険者なのだろうという推測すら立てられる。





「それに強そうだ。ここにいる奴ら、全員で掛かっても勝てなそうだな。威圧感が半端ない」





 ムディナ自身、そんなに威圧的であり、敵意や悪意を持っていた訳ではない。しかし女性冒険者はそのように淡々と見極めた事を口にしていく。





 やはり冒険者というのは、そのような職業なのだろう。見極める癖というのは、必須の技能でもある。敵の実力を見誤る奴ほど、よく死んでいく。上級で、長い間冒険者をやっているような人は、実力を見極める事に関しては突出している。それが生存能力に於いて、最も重要視される部分の一つでもあるだろう。






「いえ、そんなに強くないですよ」





 ムディナは「ははは」と笑いながら、謙遜していく。このギルドにとっては、先輩のようなポジションであるので、無理に力を誇示するのはデメリットであるからだ。





「嘘こけ。警戒心、バリバリと伝わっているぞ」





 この冒険者に敵わないなと、ムディナは驚愕していく。確かに初めてのギルドという事もあり、警戒はしていた。冒険者というのはロマンを追い求めると同義に、荒くれの集団でもあるからだ。





 だからこそ初心者狩りのような事も、他ギルドではあるらしい。ムディナも新人の時に一度だけ、初心者狩りに会ったことがある為に警戒をしない訳がなかった。





「一度だけ初心者狩りに会った事がありましてね。それで警戒してしまって」





 それを聞き、女性冒険者は納得して頷いた。女性冒険者も何やら思い当たるような節があるのだろうか。気が合いそうだなと、ムディナは思ってしまった。





「確かに他ギルドだと横行しているが、ここにいる連中は皆優しいから大丈夫だ」





 確かに上等な装備を着ていて、初めて見るような面をしているのに奇異の眼を一切向けてきていなかった。基本的に初めて見るような顔の人がギルドに入った時は、普通ならそのような眼を向けるのが普通である。





 それは何故かというと、初心者は基本的にパーティを組まされるからだ。初心者同士組むというのも多いが、一人登録の場合、ソロパーティーというのは基本的に厳禁としている。





 それは新しい芽を持った冒険者であるので、それを失うのはギルドにとっても損害だからだ。だからそれなりに経験を積んでいるパーティーに入れて、修行というのも多い。





 しかし熟練冒険者からすると、傍迷惑な話だろう。新人を強制的に教育させるのは、それつなわち適正依頼を受けれないという事になるからだ。だからこそ熟練冒険者は新人に対して、奇異の眼を向ける者が多い理由である。





「確かに皆、温かい眼をしていますね」





 それを聞き、女性冒険者は少しばかり頬を赤らめて照れていく。褒められるのに、慣れていないのだろうとムディナは疑問に感じた。





「それはそうと、受付だろう? 私でよければ案内する。ついてきたまえ」





 そう言い、ムディナは女性冒険者について行った。逞しいまでの筋肉質でありながらも、何処か優しい雰囲気を併せ持っている。重戦士系のタンク型の冒険者であろうか。とても分厚い鎧を着込んでないと、ここまで逞しくならないはずだからだ。





 これがタンク型の冒険者の頼もしい背中というものであろうか。魔物達の注意を全て一身に引き受けて、その隙を狙い倒していく。パーティーに於いて、彼女のような冒険者がいるだけで生存率は高くなるのだろうか。





 受付には女性がおり、ギルドの制服を着込んでいるのでまず間違いなくギルド職員だろう事は理解出来た。女性は女性冒険者が来た事と、その隣には仮面を付けている男性がいる事に眼を向けていく。






「ベルナさん、どうしました?」






 どうやら女性冒険者の名前は、ベルナというらしい。






「いや私の隣にいる仮面の子が、受付に話があるみたいでね。宜しく頼むよ」






 本当のところは、ギルド長に直談判するつもりだったなんて言えるはずがなかった。優しいギルドの面々に、泥を塗るような行為はしたくはない。ムディナは悩みながら、深く考え込んでいた。





「はい、どうしましたか? ギルドの再登録ですか?」





 再登録というのは、ギルドの所属を変えるという事である。元々、本来ならば冒険者を引退いたようなものであり、再登録も何もなかった。





「いえ、この件について、ギルド長と話がしたくて」





 そう言いながら、受付のテーブルに指令書をどかっと置いていく。それがムディナが苛々としているという無意識化の仕草であり、受付もそれを察してビクッと跳ねながら、「少々お待ちください」と言いながら、奥の部屋へと引っ込んでいった。





「君、指令書を受け取るという事は、高ランク冒険者なんだな。冒険証を見ても構わないか?」






 ベルナもムディナに対して、興味と関心が出てきたのだろう。ムディナも別に隠すようなものでもないので、普通に懐にしまっている冒険証をベルナに見せていく。





 ベルナはそれを受け取り、マジマジと眺める。眼を凝視させながら、呆気に取られた表情を浮かべていく。





「これって、冗談だよな」




 確かに冗談ならば、どれほどよかっただろうか。しかしベルナが今見せられている冒険証は、偽装も何もない緋緋色魔鉱石によって作製された冒険証だった。

「偽装する意味もないでしょうに。今更ながら、一応自己紹介をします。ムディナ・アステーナ。異名は仮面の者、ひいては孤面の剣士、そう言われております」





 それは冒険者の中でも噂されていた、ここ数年にて上がってきた天才の一人で活動する事が多いS級冒険者の異名であった。

二百ノ九十五話、最後まで読んでくれてありがとうございます



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