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八千職をマスターした凡人が異世界で生活しなくてはいけなくなりました・・・  作者: 秋紅
第七章 幽霊騒ぎに巻き込まれてしまいました・・・
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二百ノ七十九話 霊神鬼の棲まう宮殿・・・

 ゲートを潜り抜けると、そこには歪な宮殿がそこにあった。周囲は異空間であるのか、どんよりとした怨念の力で果てのない空間がそこに広がりを見せていた。





 ドス黒い色の鮮やかでありながら、不吉に感じる結晶で造られており、よりそこに棲まう存在に対して恐怖する事であろうか。



 


 そしてその城には所々であるが、人の顔がそこに彫られており、その顔は恐怖により歪みを見せていた。それにもムディナは不快感を沸き上がらせていた。どうやらここにいる存在は、余程人を馬鹿にしていると見た。そのように、この城を眺めながら決めつけた。





「無事に三人、来ましたね」





 霊老は三人がきちんとゲートを潜り抜けていた事に安堵する。ムディナは余裕ではあるものだと理解はしていたが、残り二人は不安ではあったからだ。





 霊老は二人が恐怖に打ち勝てないようであれば、そのままゲートを閉じるつもりでいた。その方が彼等の為であり、仕方の無い事であるからだ。誰でも、彼でも、恐怖に、負の感情に打ち勝てるものではないからだ。





 それはゲートに潜る資格がないと同義であり、霊老からするとそれも人の本質に他ならなかった。





 しかし二人は余裕では、タイムラグが無くて、このゲートを潜り抜けてきた。それがどれだけの事であろうか。人々が恐怖する怨念の力に、容易に打ち勝ったのだから。霊老からすると、誇らしい話だった。この三人を、霊神鬼のいるであろう宮殿への道を作った事が。役に立ったのだと。彼等の望みを叶えるのに、手助け出来たのだと。





 ただムディナの表情は曇っていた。その表情には怒りが見えていた。そのムディナの姿に、霊老は言い寄れない戦慄を初めて覚えていく。今までなかったような、そんな心の奥底から憎悪するようなムディナがそこにはいた。





「なぁ………………ここって、こんななのか?」





 ムディナは怒りのままに、霊老に尋ねる。しかし彼が何を言っているのか霊老には、よく分からなかった。ムディナには何かしら、あの霊神宮に感じるものがあるのだろう。





「こんなとは?」と、現在のムディナに恐る恐る質問した。下手な質問は、確実に自分の身を滅ぼす結果となるだろうというのが、確実に理解出来るからだ。それ程までに霊老とムディナとの間に、決定的な格の違いをはっきりと自覚してしまった。





「わかんねぇのか? ここは人の負の部分を全て煮詰めるような邪悪な場所かって話だ。 霊界というのは、死した者が輪廻の輪を潜る為の場所じゃねぇのか?」





 ムディナの眼にはしっかりと見えていた。ドス黒いものが全体を包み込むように、宮殿内を包み込んでいた。そこではありとあらゆる負の感情が、まるで鍋に具材を煮詰めたような状態でもあった。





 この宮殿そのものが、あらゆる人の負を育てる、そんな狂ったような場所であるのは明白だった。それにはムディナは怒り心頭になるのは仕方のない事だった。





「いえ………………ここはそのようなところではない筈です。ここは基本的に霊神鬼様が住んでいる場所でしかないです」





 下手な事は口にする事は出来ない。ムディナの琴線に少しでも触れてしまったのなら、彼はいつ霊老自身の矛先が向くのか怖くなった。それ程までに今のムディナは常軌を逸する程に、怒りの沸点が低くなっていた。






「そうか………………それでは行こうか」





 ただ淡々と、冷たく言い放っその姿は、霊老にとって異様な光景にも思えた。ムディナの背後には、龍と見慣れない何かが側にいるかのような、そんな錯覚を霊老は見ていた。





 見慣れない何かというのは、輪郭こそぼやけているものの人の形ではあった。ただ人の形をしているのに、それが恐ろしい化け物だと感じてしまうのは、霊老には不思議だった。





 霊神宮の入り口らしき、巨大な朱色の扉にたどり着いた。そこも悪趣味な装飾が施されており、巨大に描かれている人の骨格が生々しく、赤い結晶にて作り出されていた。その赤い結晶は力が脈動するように、人の血の流れのように、その人の骨格内を動き回っている。





 ――――――――とても気色悪い――――――――





 三人はそう思う事であろうか。しかし霊老には、それが理解出来なかった。霊老からすると、それは何もただの装飾でしかなかったからだ。当たり前の事であり、何も不快感を示すような装飾ではないようだった。





「お待ちしておりました。霊老アマデウス様に、三人様ですね」





 赤い霧のようなものが集約して、形を作り出されていく。そこには額に一本の角が生えており、赤い肌をしている執事服の男性だった。





 どうやらこの人も霊鬼であるのは見てとれた。内包している力の総量がおかしく、ドス黒い怨念の力もきちんと持っていた。人類で立ち向かっても、歯が立たないくらいには途轍もない力量が備えられていた。




 霊老より遥かに格上であるのは、明白であろうか。流石、霊界第一層を取り仕切るものが住む場所である。その配下も遥か上の存在であるのだろう。





「霊神鬼様から伺っております。どうぞ、ご案内します」





 ムディナは恐怖する事がなかったが、二人は別だった。その鬼を見た時、逃げ出したいという生存本能が、身体中を駆け巡った。それ程までに目の前の存在が異常的だった。





 そしてその鬼からすると、三人というものはただ『数』でしかなかった。個体名というものではなく、ただ数えるだけの存在だったというものだ。矮小な存在であるものを、小さな虫をただ数える様に人を数えているに過ぎないという事であった。





「開門せよ。我が霊神への道を開かれよ」





 その案内役が朱色の扉に向かい、ドス黒い力と共に唱えると、巨大な扉がゴゴゴとけたたましい音を出しながら開かれる。





 ムディナは微かに眼にする。扉に装飾としてある、人の骨格の穴の空いた眼孔から微かに血のような涙が流れている事を。あれは生きている風にも、そんな風に思えてしまった。





 生命としての感知は反応ないし、魂を感知しても、その骸骨には反応がない。ただの気のせいにはしたくはなかった。だってあの骸骨の装飾は、涙を流していたのだから。

   




「なぁ………………あんた………………一つ質問はいいか?」





「あんたとは失礼……………………」





 そのように言葉が先には続かなかった。案内役の霊鬼が、それより先の言葉を許容することを目の前の存在は許さなかった。下手に言葉を紡げば、存在そのものを消し去っていた事であろうか。ただ運が良かった。そう思うしかない。





 そこには明らかな憎悪と憤怒によって、身を浸しているかのようなムディナがそこにはいた。それが闘龍気の力を解放しており、無限の力を可能な限りに解放していた。ムディナの手には無限の剣と龍王の剣が握られていた。





「どうした? それより先の言葉を許すぞ」





 ムディナの無限の眼は、霊鬼の全てが見えていた。霊鬼からすると、人とはご馳走であることを。人という高次元的であり、高魔力質である魂を食しているから、あれだけ強いのだ。





「もう一度言うぞ? それより先の言葉を許す」





 それより先の言葉を、霊鬼が発する事が出来なかった。確実にそれより先の言葉を言えば、消滅する事が確定してしまうからだ。目の前の存在は異常だったからだ。





 今まで見た事すらないような、人を、あらゆる存在を超越しているような、そんな存在が目の前にいるのだから。軽く彼が触れただけで、その全てが終わりそうな、そんな予感が脳裏が過っていく。




「飯の分際でと何故言えない? つまらないな。消え去れ」



 

 この男は最初から全てがお見通しだった。霊鬼はそれに気づいた時には、全て遅かった。ムディナは軽く目の前の存在である霊鬼を握り潰すように、手を握った。




 その瞬間、グシャリとそう嫌な鈍い音を鳴らしていく。トマトが潰れたように、赤い鮮血が朱色の扉前に広がっていた。




「それでは行きましょうか。霊老様」





 そしてムディナは憎悪と憤怒に彩られながら、ただ霊神宮の中へと進んでいった。

二百ノ七十九話、最後まで読んでくれてありがとうございます



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