二十六話 二人での野宿をしました・・・
俺達がヴィーザル大森林から、抜け出すと周りはすっかり暗くなっていて、明かりがあるとすれば、月の光だけが俺達を照らしていた。
夜風が草木が揺れる音を奏でながら、俺達の皮膚に当たり、冷たくて身震いする。
それに俺の脚もそろそろ限界なのか、段々と少しずつ痛くなってきた。半分以上は進んで、目的地まで後少しという事で、そろそろ休憩する事を切り出そうと俺はした。
というか俺はそろそろ脚を休めたい。めちゃくちゃ痛いんだよね。疲労感が全て、脚に蓄積していっている感じである。
「そろそろアライ、休憩しよう」
俺は前にて先導しているアライに向かって疲れたような声を出した。
「そうだね。もう真っ暗になってしまったし」
それを聞いた俺は内心歓喜した。ようやく休めるんだという風に思った。
俺はすぐさま休む準備をしようと、事前に集めていた焚き火の元になりそうな枝を一箇所に集める。
「合技スキル 栄華の炎」
俺は手をその枝に向かって掲げてから、スキルを発動した。そしたら手の先から、火の玉が飛び出して枝を燃やして焚き火を完成させた。
それを見たアライは、ふと違和感を感じた。
「そういえばさ。アライの魔法って不思議だよね。なんか」
この世界には、基本的にスキルという概念は存在しないらしい。俺がスキルと認識するものは、この世界の住人からしてみれば、魔法という風に捉えられるようだ。
「魔法じゃなくてスキルだよ。アライ」
何回かアライに魔法じゃなくてこれはスキルだよと教えてはいるものの中々頭には入ってこないようだ。
「スキルで言うんだっけ? アライの世界では」
そういう訳じゃないんだがな。なんて説明すれば、正解なんだろうか。俺の世界では、そもそもこんな不可思議な力なんてもの自体、存在しない、空想上の代物だからな。
俺がこの世界に来て初めてスキルというものを扱った訳だしな。
「この世界に来て初めて、使えるようになったんだ。元の世界では、そもそもスキルも魔法も何もかもなくて、空想だと言われていた世界なんだよ」
だからこの世界に来て、初めてスキルを使った時は本当に驚いた。だって俺が長年、やっていた思い出深いゲームが、まさか体感出来るとは夢にも思わなかった。いやむしろ今も夢なのではないだろうかそんな違和感が未だに俺の中で、燻り続けているのは変わらなかった。
ただ現実なのも理解している。だって目の前にアライと楽しく会話しているのが良い証拠だろう。アライのこの笑顔が嘘だなんて俺は信じたくないから。
「へぇー、それじゃアディはこの世界に来て初めてスキルっていうのは使ったんだ。それにしては熟練とした使い方してない?」
それに関しては俺はスキルを使う際、いつも疑問に思っている事だった。
そもそも俺がスキルを使う時、予め使い方や扱い方、動き方などなど、まるで最初から全部見知っていて理解しているかのようなそんな動きが出来ていた。普通なら『現実』という訳だし、スキルの扱い方などは練習して初めて扱えると思うのだが、頭に体に直接入ってるように動ける。それが俺には不思議な感覚と共に疑問になっていた事だ。
「それは俺も分からん。ただなんとなくだけどこう動けば、こう出来るっていう事が分かるんだ」
本当にこの世界の常識というか仕組みが、俺の世界とは何もかもかけ離れているせいか現実離れなせいか、どれも理屈という言葉から完全に遠ざかっていた。ただこれがこうだからという知ったかぶりな感じで納得するしかなかった。
「そうなんだ。私も使えるのかな?」
多分アライの場合、元々この世界の住人なせいでスキルの扱い方というのが自然には分からないのだろうか。つまり練習する事でやっと俺と同様にスキルの使用が出来る可能性は高い。
「アライでは、どんな感じで魔物と戦っていたの?」
スキルというのがないという事は、魔法というのがこの世界での基本的な戦闘手段なのだろうか。それさえ分かれば、ワンチャン兄貴が扱った不思議な力の手掛かりにもなる気がする。
「基本的には、剣術と魔法だよ。と言っても私は身体強化の魔法しか扱えないけど」
身体強化の魔法というとどんな感じだろうか。スキルでは色んな身体強化のスキルがあるせいで少し感覚的によく分からないな。
「身体強化って言っても超人並みのスピードとか筋力が出せるって訳じゃないよ。あくまで基本的な身体能力を元に合わせてるようなもんだよ」
という事は、つまり自らの身体能力を元に、+αという形で、身体強化の魔法が上乗せさせると言った感じか。しかしその理論で行くと、基本的な身体能力を底上げしまくれば、身体強化の魔法がその分かかるといった仕組みなのか。
「他にも色々な魔法があるし、上級の冒険者や熟練の兵士などは魔法を駆使したりするよ。後は使える人は、限られるけど魂術という不可思議な技術も存在するよ」
魂術? また聞き慣れない言葉だな。魂という事は魂に関連したものなのだろうか。
「私は扱えないから分からないけど、魔力を扱わずにあらゆる事象を引き起こせるらしいよ。ときには永遠に消えない霧を残したり、ときには魔物という存在を産み落としたり、と言ったこの世界のあらゆる不可思議な事象の六割以上は、その魂術というもののせいらしい」
それは羨ましい限りですな。俺には多分、その魂術は扱えないだろうしね。それに規模がおかしいな。その魂術というのは。
ていうか今、聞き捨でならない事が聞こえた気がする。
「え? 魔物って人が産み出したの?」
俺はそもそも魔物というのは、この世界特有の生物で、人を襲う邪悪な存在という認識でいた。しかしそれは違くて、魔物という存在は元々いなくて、人によって産み出されたとアライは言った。
「そうらしいよ。私も逸話位にしか聞いた事がないし、だいぶ昔のだしね」
つまり魔物という代物は、人間が作り出した異物という事か。なかなかよくあんな代物を作り出したものだ。あそこまで邪悪な所業を、本能でしてて、人間に完全に害悪とも言うべきものが。よほどその人間は、『人間』が嫌いだったんだろう。いやそれだけでは説明できないな。それどころか憎悪すら抱いてそうだな。
「それが血族まで続いて、魔王として君臨し続けたそうよ。勇者様が倒したらしいけどね」
なかなか興味深いような話だった。つまり魔王は、この世界での莫大な加害者という訳だな。そうじゃなきゃ魔物というもので、どれだけの人が殺されたか計り知れないだろう。
それにしてもそこまで出来る魂術とはどのようなものなのか。事象すら、世界の法則すら塗り替えるそんな強大な力が存在しているというのは、最早世界として、生物としてバグのようなものじゃなかろうか。
俺がそう考えていると、大きく口を開けて、ふと欠伸をしてしまう。それと同時に眠気が押し寄せてきた。もう俺の脳が、体が、休みたいという風に危険信号を発しているのだろうか。それもそうか。朝からずっと休まず歩いていたら疲れないと言った方が無理があるな。
そんな眠そうな俺に気づいたのか、アライが近づいてきた。
「今日も隣で寝ていい?」
わざわざ確認を取らなくても良い気がするがね。事情は分かっているし。
「いいよ」
俺はそう一言だけ気恥ずかしそうに言った。
俺は満天の星空をただ見上げた。それはとても美しく、壮大で、綺麗な、星達だった。そして隣にはアライがいて、まるで俺を抱き枕のように抱きしめてきた。子供の体温が心地いいのだろうか。
そんな中、俺は眼を閉じた。
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