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八千職をマスターした凡人が異世界で生活しなくてはいけなくなりました・・・  作者: 秋紅
第七章 幽霊騒ぎに巻き込まれてしまいました・・・
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二百ノ六十七話 復讐者とは・・・

「俺に構う必要ないだろ?」





 そんな不貞腐れるように吐き捨てるような感じでラーウォが言った。構って欲しくないというか、構ったところで無駄である事を悟っていた。




 恐らくラーウォは理解しているのだろう。ムディナが構う理由というのは、この村を受け入れないからである事を。





 しかし誰に、何を言われようと、考えは変わらない。自分の復讐の精神を忘れてしまったら、二度と自分が自分じゃいられなくなりそうだからだ。それに今話しかけている存在の眼は、何処か幸せそうな嬉々としている眼である。




 そんな奴に何かを言われる筋合いはない。





「俺には個人的には構う理由なんてないけどな。世話になっている人に頼まれたら、断れない性分でな」




 ムディナはそのように飄々とした物言いで、事情を説明した。実際、ムディナにはラーウォに構う理由そのものはありはしない。ただグーディアに依頼された関係上、冒険者として遂行しないといけない問題がある。要するに冒険者としてのプライドのようなものがあるって訳だ。




「村の案内役のあいつか。そういえば最初に会った時も、お前と一緒にいたな」




 そう昨日の事を思い出すようにしていた。本を読んでいたのと、気分が悪くなっていた事に意識が向いていたので、あまりラーウォは記憶に残ってないだろう。




 それにしてもムディナは疑問に思った。それは未だ自分と話しているという事実である。ムディナが思っていたのは、また話掛けたところですぐさま中央広場を後にするというものだった。そのような予想が常に頭の隅にあったので、驚愕するしかなかった。何かしらの理由がラーウォにはあるからこそ、今もムディナと会話しているのだろう。




「それに俺も村で暮らすんだ。側からそんな、しけた面されてちゃ、暮らし難いったらないだろうがよ」





 これはムディナにとっては建前に過ぎない。本当は目の前にいる絶望しているラーウォを助けたいというのが、本当にムディナが成したい事だった。




 その顔は何処か昔の自分を見ているようで、気分が悪かったからだ。全部に意味が無くて、全部に絶望している、そしてしまいには何も行動しない。出来ないと心の奥底で理解してしまっている。




 ムディナが唯一、龍神達に本気で殺されそうになる勢いで怒られた時を思い出すからだ。それと同様の考えを、今のラーウォは持っていると確信すら出来るくらいだ。だって中央広場で、ずっと座って本を読んでいるのがいい証拠だった。




「それはあんたの事情だろうがよ。そもそも、俺はこんな村に居たいって、一度も思ったりしてねぇしな」





 それはあり得ない事だった。霊老が言うには、この黄金平原で区別される魂達の行き着く村には、それぞれの願いにも呼応しているという。つまり絶望しているというのも事実であるが、それより何かしらの願いを持って、無意識なのかもしれないがこの村に辿り着いているだろう。





 そしてここの村の本質は、孤独の浄化。不遇な生い立ちをしてしまった人の魂が行き着く場所であり、孤独という辛い事を、誰かがそばに居て欲しいという願望が持つものが集う場所であった。





「それはあり得ないな。お前の眼は、誰かがいて欲しいという眼をしている。だから中央広場にいるんだろ? 誰かが本気で、俺の孤独を救って欲しいという願望がな」




 そもそも本当に一人がいいなら、ずっと家に居たらいい。そしたら誰にも構われる事はないし、むしろ心が楽になるだろう。そうしなくて、ずっと噴水の塀に座って本を読んでいるのは非合理的な話だ。




 だからラーウォも誰かがいて欲しい、誰かと共に話したい、関わりたい、もう一人は嫌だ。それがラーウォという偽の孤独の青年の本質で、本心であった。





「あんたの眼は腐っているか? 俺はこの噴水が好きでな。昔、心焦がれた人がな、噴水で本を読んでいてな。その日常が好きって言ってな」




 それは奴隷にされてしまった恋をした人の別大陸の帝国の話だろうか。噴水で待っていれば、その愛する人が来てくれるとでも思っているのだろうか。そんな非現実で、非理想的ものでもない気がする。ラーウォは逆に、むしろ死を受け入れきっている。その割り切りは、そんな理想に縋ったりするものでもないだろう。




 むしろこんなに、早くここに来て欲しくないというのが本音に聞こえてくる。噴水でずっと待っているのは、恐らくここに最初に恋人はここに来るだろうという事で、待っているに過ぎない。




「だから俺はここで待っているに過ぎない。死んでいるんだからな。ここで座っているだけの、止まっている日常を過ごしても問題ないだろう」




 彼は諦めていた。死んでいるという事実が、むしろ彼は諦めさせてくれた。もうあんなに絶望した事をしたくない。だから絶望したくないから、誰かと関わりたくない。この噴水で、ただ停滞した時を生きているだけで構わない。だって死んでいるんだから、どうする事も出来ないからだ。




 その言葉が、ムディナを怒りに触れる事になった。闘龍気が黄金の光となりて、ムディナの周囲を包み込もうとする。その怒りが、ラーウォにも伝わってくる。何かしら変な事を言っただろうかと、疑問に感じる。




 いつの間にかラーウォが認識すら出来ずに、いきなり目の前にムディナが現れた。そのムディナの表情は怒り狂っており、そのラーウォの顔面を力強く握り締める。そのまま紙切れのように、ラーウォを手に持つ。




「ちょっと、こっちこい」





そのままムディナは飛び跳ねた。その速度は光の速度を超えており、速度という概念すら超越しそうであった。これでもムディナからすると、軽く飛んでいるに過ぎない。本気で、闘龍気を扱えるようになれば、その数倍の速度は軽く叩き出せそうである。




 空から眺める人は、彼らを流星と例えるであろう。ラーウォは恐怖心に顔を歪んでいき、そのままムディナに為されるがままだった。





 そしてムディナはラーウォを連れて、村の外に連れ出した。そもそも中央広場という、人が多い場所がいると中々話すものも出来ないからであった。





 それに加えて、ムディナが一番に嫌悪する事を言ったからだ。それがもう諦めた様子で、自暴自棄に停滞を望んでいるからだ。




 そのままラーウォを投げ捨てるように、地面に激突させていく。それによりクレーターが出来て、不老不死の草が散っていく。普通なら、ラーウォはそのまま木っ端微塵に吹き飛ばされているだろう。しかし今のラーウォは死んでいるのだから。物理体である肉体を捨て去り、精神体存在化しているのだ。





 だから魂に直接攻撃するようなものじゃなければ、ある程度の攻撃は意味を成さない。ラーウォは「何するんだよ」と言いながら、立ち上がる。




 そして眼前にいるムディナを見た。その姿にラーウォは戦慄した。そこにいるのは、人ではなかった。




 かの風神龍様の姿を見た事が一度だけある。それも圧が異常であり、どう足掻いたところで意味がないと悟ったくらいだ。ただ目の前にいる存在は、その風神龍を軽く超えるくらいに圧力が段違いに違った。その威圧が、形を成していく。





 ラーウォはようやくムディナを認識した気がした。後方には、巨躯を超えて、そこに世界があるような気がした。龍として、それは形を成していて、ラーウォを恐怖させた。




「誰もいねえから、話し易いな」




 ムディナは指を鳴らしながら、怒り狂う龍としてそこに存在していた。かの龍王は世界を守護する以外は、気まぐれだったという。過去に龍王が怒り狂ったその姿は、龍神達にすら手が追えなかったそうだ。





 まさに今のムディナがそうであるように………………。

二百ノ六十七話、最後まで読んでくれてありがとうございます



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