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八千職をマスターした凡人が異世界で生活しなくてはいけなくなりました・・・  作者: 秋紅
第七章 幽霊騒ぎに巻き込まれてしまいました・・・
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二百ノ六十話 災害の使徒の運命・・・

 これは儚くて、無垢な少女の思い出話。とても悲痛的で、苦痛的なただただ不幸的なお話でもある。





 少女こと、サーデクス・アテナ・ラーウェクスは、公爵家に産まれた実質的な貴族階級の出身であった。六歳までは、本当に幸せな家族生活であったような気がする。優しくて、厳格な父親と、とても家族想いな子供の事を第一に考えられる母親、サーデクスの事を気にかけてくれる優しい兄、そんな平凡的な理想的な、何の不自由のない暮らしをしていた。





 それはいつか崩れてしまうのは言うまでもなかった。その時のサーデクス自身は、そんな束の間の幸せを享受していたに過ぎないのだと気づくのは、後になってからである。






 それはいつも通りに、師範による王国式の剣術を学んでいた時のことである。ただの広い庭の中、芝生が入り乱れる中、涼しい風が心地よくて、照らし続ける太陽の姿が今も眼に浮かぶようである。





 いつもと剣に込める手応えが違っていた。今までにないような力の込め方をしているような、違和感があった。それが妙に力強く感じたので、自分も成長したんだとそう錯覚していた。





 その師範に向けて、剣を振るった。その時、サーデクス自身は間違いだったのを気づきもしなかった。それは属性の力の解放と同義であったからだ。





 つまりサーデクスの中に眠っている災害の力を呼び覚ましていたのだ。その覚醒の力を自身で認識すら出来てなかったからだ。





 ただ横薙ぎに一文字のように振るったに過ぎなかった。一直線に横に振るっただけだった。師範に向けて、見せるような形で離れている位置での攻撃だった。





 その一撃は暴風雨を産み、その剣の一撃は鋭い風と雨の一撃となりて、師範に襲いかかった。その師範には大変、世話になった筈だった。何かお返ししたい時であった。大体、王国式の剣術を学んできた次第であった。天才だと、師範にはそのように言われた。頭を優しく撫でられた。とてもよく褒められた。とてもわかりやすくて、私の事を考えてくださる方であった。





 その師範は眼前で立っていた。しかしその眼は生気を失い、口からは血を垂れ流して事切れていた。まるで魂そのものが抜け落ちたかのように。






 その師範は父上と親友の間柄であったらしい。目の前にいる師範は胴体が綺麗に真っ二つに裂かれていた。まるで強烈な風と水の一撃が交互に押し寄せたかのようだった。





 自分にある剣を確認する。湿った魔力が、そこに篭っていた。まさか、自分がそれをやってしまったのかと。まさか自分が師範を殺してしまったんだと。





 剣を持った手が段々と震えてくる。目の前にはあり得ない光景を、それを現実として受け止めるだけの精神は備えてなかった。膝から崩れ落ちながら、虚な眼をしていた。




 とても激しい物音に、使用人達が自分達を心配してくれたのを覚えている。しかし師範のそのような姿を見た瞬間、私を恐れた顔をよく覚えている。化け物、魔物かのような激情がそこにあった。






 父上の激しい怒りと悲しみの顔を覚えている。それから私に対して、冷たい態度をするようになった。恐るように、外に出る事も禁じられていた。





 そして後悔と涙が、自分の力に呼応するように暴風雨となる。それはあり得ない形で数週間は続けただろうか。国全土が、それのせいで何千人程が犠牲になったのか。それに気がついたのは、後になってからである。





 災害の使徒という伝承がある。災害の力を持つ少女がそこにはいた。その少女のその災害の力に苦悩して、最後には処刑されたと。災害の使徒と揶揄されたそれは、今の悲劇的な話として伝わっている。





 今の私も、同じようなものだと理解する。感情の起伏により、どんな災害だって引き起こす事が可能であると。意図してその力を行使することも可能であると。





 だから私は悲しくても、怒り狂っても、喜んでも、楽しんでも、辛くも、愛しても、全ての喜怒哀楽を許しはしないのだろうと理解する。それをきちんと飲み込んだ翌日、空が晴れたのを思い出す。





 数週間、暗くて太陽を覆い隠した空がはっきりと見えて輝いていた。自分が感情をはっきりと出さない限り、皆はこの太陽をきちんと輝いて拝めるなんだと。





 いつから感情を出さなくなったかというと、六歳からであったのはきちんと記憶している。父親は相変わらず冷たい眼差しを私に向けていた。





 廊下で連れ違う度に、離れるようにして、私を見てくる。あんなに優しかった父親は何処にいったんだと、悲しく思いながら、大事な親友を失わせた悪魔を家に置いている事に感謝するようになった。





 贅沢な悩みだからだ。父親の愛をきちんと、また欲しいなんて思うこと自体が間違いだからだ。





 母親は相変わらず、私を愛してくれた。それだけは本当に感謝した。しかしそれも悲しく感じた。私がこんな力を持ったが為に、母親も父親も苦悩に満ちているのだと。師範殺害事件の後、優しく抱きしめてくれた。しかしそれでも、悲しい顔をしている母上がそこにいたからだ。





「大丈夫!? 大丈夫だから!?」





 そのように母上が、抱きしめながら、泣きながら言ってくれた。しかしそれに対して、私は何も口にする事が出来なかった。出来る筈もなかった。





 本当に自暴自棄になるくらいに笑える話だと。そのように吹っ切れるくらいしかなかった。






 そして数年が経ったある日、母上が未知の病気により、死去した。それからより一層、父上が、私に当たるようになってきた。親にあるまじきと思う人もいるだろう。





 しかし私はそれをも受け入れるしかなかった。だって、幸せの全てを壊したのは私自身なんだから。父上が私に当たる理由だって、分かってくる。自分は不幸の導き手であり、災害と不幸を司る存在なんだから。






 それから母上が死去してから、数ヶ月もしないうちに父上もいつの間にか亡くなった。





 最早、笑えるだろうか!? 笑うしかないだろう!? 笑えるくらいしかどうしようもないでしょ!? こんな腐っている運命の中、生きていくなんて、間違っているだろう!?






 そして私が入学してから、数日もしないうちに兄上が意識不明の状態になった。大悪霊を解き放った犯人は未だ見つからないが、許しはしなかった。いや不幸を呼び寄せる自分のせいでもあるかもしれないという可能性を、本能的に自分は排除していたのかもしれない。






「なぁ!? 私のあんな運命が、最初から決められていたってのかよ!?」






 サーデクスの激しく、マグマのように激っていく怒りが熱となって、ムディナに伝わってくる。彼女にとって、絶望的な人生しか歩んでなかっただろうか。






「教えてくれよ!? 私は人を関わって駄目なのかよ!?」





 誰かと関わるから、誰かが不幸になる。誰かが死んでしまう。あんなに優しかった父上が豹変した。母上が、不明の病がいつの間にか死んでしまった。兄上も、私のせいで意識不明の状態である。





 使用人の不幸話が、段々と聞こえてきていた。それで辞める人も数多くいた。災害と不幸の使徒とは、よく言ったものである。





 霊老に向かい、激昂しているサーデクスがそこにはいた。霊老はその少女を見て、淡々とした様子をしていた。それは悲しい眼と同情を浮かべていた。





「貴女は、そのような運命を決められているんです。自らを肯定も出来ない逃げるだけの弱い人間なんて、私の一番嫌いな者です」





「弱いのも人間なんだよ!? 化け物に、()を否定するんじゃねぇ!?」




 私はずっと弱かった。弱くなるしか、生き残る術がなかったからだ。不幸を呼び寄せる私は、弱くならないといけなかった。そうするしか、そんな悲劇ばかりだったからだ。

二百ノ六十話、最後まで読んでくれてありがとうございます



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