二十五話 ここが異世界という事を実感しました・・・
そして俺たちは、ゆっくり色々と雑談をしながら歩き続けて数時間は経過した頃だろう。少しお腹の虫が鳴ってしまい、空腹感が出てきた事を自覚し始めていた。
ホライさんが容量拡張と防腐の付与魔法がかかっている貴重なポーチをくれたのだった。朝食の終わり、すごく遠慮したのだが、「これくらいしか感謝の物をあげられなくてな。すまんな」と悲痛な顔で言われて、渋々貰ってしまったのだ。
そしてその中身はというと、簡易的なサンドイッチや携帯食料の類があり、わざわざ自分達で狩りという行為をしなくて済むんだと安堵した。
「そろそろ昼食、食べようか」
アライが俺のお腹が鳴った事に気づき、気を利かせてそんな事を言った。うん、本当にありがたい。めちゃくちゃ腹が減っているんだよ。
「うん。そうしよう」
俺達は、今薄暗くて、木々が鬱蒼としている森の中にいて、一際広い場所にいた。
アライの話によると、俺達は未だ、ヴィーザル大森林から抜け出していないらしい。ヴィーザル大森林というのは、比較的高い山に位置しており森林地帯全部を指すらしく、その高い山から平坦な道に行くとやっとヴィーザル大森林を抜けたという扱いらしい。
つまり俺は村から森というか、木々があまりないから森から出たというのは勘違いでこの世界での認識違いだったようだ。
アライの道案内の元、俺は安心をしながらその案内に従っているという訳だ。アライがいれば、森から絶対抜け出せると思うし。
そして俺達は、その広い地面に腰掛けながら、ポーチからサンドイッチを取り出した。卵やキャベツ、ハムや川魚のツナなどが挟んであった。ちなみに俺は、卵が無難で一番にサンドイッチの具の中で好きだ。
それを一番に俺は手に取った。アライにすら取られたくないという深層心理が働いたから仕方ない。大好物は、譲れないのだ。
しかしアライはキャベツとハムが挟んである奴を手に取った。
「アライって、肉が好きなの?」
なんか一緒に食べる時、肉の時だけ眼を輝させているような気がするからだ。好きなのか、それとも理由でもあるのだろうか。
「肉は全般、大好物だよ。特に牛の肉とかボア肉が好きかな。私の生まれた村って、農業ばっかりで、あまり牛や豚、鶏の類の畜産はやってなくてさ。ノウハウがないっていうの? だから貴重だったんだ。それに昔を重んじる村だから畜産なんてしたくないって言うしね。だからかな。肉が好きだったの」
成程、アライが産まれた村にも興味があるな。やはり村毎に文化圏の違いというのは、謙虚なのかな。まぁ〜ただやっぱり新しい事をやるより、昔ながらの事をやった方が安心して、安定して出来るもんな。そこら辺は仕方ないと思う。
八つほどあったサンドイッチが、すぐ無くなった。めちゃくちゃ美味かった。今度、ホライさんに会えたら、お礼を言わなきゃな。
そう思いながら、俺は立ち上がり、「そろそろ行くか」とアライに言った。
「そうだね」とアライも、俺に呼応するかのように立ち上がり、一緒に歩き出す。
「後どれくらいで、森を抜けられるの?」
俺は後どの位の時間で森を抜けられるのか知りたかった。というのも森を抜けたら、やっと半分以上は進んだという事の表れという風に言われたからだ。それに昼食も食べ終わったという事は、それなりには進んだという事なのだろう。
「う〜んとね」と、アライは自身のポーチから地図を広げた。その地図って俺が見て、距離感がおかしいって思ったやつじゃん。本当に、大丈夫なのかな。少し、心配になってしまうよ。
「その地図って大丈夫?」
俺はつい、口にしてアライに言ってしまった。
「あ〜アライってこの地図読んだの? 読みにくかったでしょ。私が描いたんだし」
え? まじで? その地図ってアライが描いたの? いやいやいやすげぇ読みにくかったけどさ。まじかよ。
「冒険者や、兵士やその他諸々、基本的に自らで地図を書き起こすんだ。それも皆、独自で、独特な、地図の書き方もする人もいるんだよ。何故かというと、地図に書き起こさないといざという時や何か洞窟などの所在を迷わない様にする為だったり理由は色々だね。それに頭の良い人は、暗号化して貴重な何かだったりしたり、機密な物だったりと、書き起こす人もいるらしいよ」
それがこの世界の常識のようだ。つまり『地図』という代物は、個人それぞれが書き起こして持っているものらしい。それの方が、安心感が強いというのも事実だろう。それに自分で書いた方が、分かりやすいというのも理由なのだろうかね。
それに暗号化という点も気になる所だ。つまり暗号化する事で、解読した人だけが分かるような物が眠っているとか、宝の地図とかファンタジーかよ。いやきちんと異世界なんですけどね。
「そろそろ抜け出せるね。大丈夫だよ」
そう言いながら、アライは地面を登っていく。どうやら登りきった後は、降りたらすぐ抜け出せるようだった。
そしたら不意に眩しさを感じた。それは今まで数時間は、薄暗い森の中にいたせいだろうか。木々の奥から、明るさが俺の眼を刺激した。
明るさの向こう側へと行くと、崖のようなもので眺めが最高だった。そして左側には、降りれそうな道があり、そこを進んでいくと分かる。
「これがこの世界なんだ――――」
俺は驚愕で言葉を失った。俺はやっと本当の意味で異世界に来たんだなと実感を改めて感じた。いや、異世界に来たというのは前々から理解していたが、この景色は異常だった。
見渡す限り、変な形状に隆起している山脈があったり、島そのものが、まるで間欠泉のようなものによってずっと押し上げられていたり、しまいには、島そのもの、いや遺跡のような物が浮いていたり、それに雲が常時、形を変えているのはなんだろうか。生物のようで、それでいてよく分かんない奴もいる。俺の体長の何千倍あるんだろうか。
「そういえば、アディはこれらを観るのは初めてか。どう?」
俺の眼が輝いているので、なんとなくアライは理解しているのだろうか。
「本当に凄いよ!!!」
俺は大きな声をあげた。だって俺の、いや前の世界の常識では計れないような得体の知れない事象の数々、それに全部、全部、不可思議でそれでいて、とても美しい。
それが異世界なんだ。俺は初めて視覚、聴覚、触覚、嗅覚と味覚以外の全てを持って初めて、実感をした。
「とりあえず、あの隆起した山って何なの?」
なんか遠くから見る感じ、大きな羽が生えていてそれでいて鱗があるから、ワイバーンのような物が見えるが。
「あれは多分、龍甲山だね。龍達の強い力ので地脈に及ぼして、あんな山の形状になったらしいよ」
やはり前から言っていた龍甲山だったのか。あんな歪な山の形状なんて普通は起きる筈ないもんな。無自覚で、あそこを昔からの住処にしている結果、強い力で山が歪に長い年月を掛けて、形を変えていったのだろう。地脈にまで影響を及ぼす龍達とは、そんなに強いのだろうか。やっぱり、気にはなるっちゃう気にはなるな。
「そろそろ、行くよ。暗くなる前に森から抜け出したいしね」
それもそうだな。暗い中の森が一番、危険だからな。早めに森には抜け出した。
「分かった。今度、詳しく色々聞かせてね」
この世界のことを色々と聞きたい。だってこんなに不可思議な世界なんだから。
俺はこの景色を二度と忘れる事はないだろう。この素晴らしいまでの感動を覚えさせてくれたこの景色を。
俺は眼にこの崖の景色を、焼き付けながらそんな事を思った。
二十五話最後まで読んでくれてありがとうございます。
今回から第二章が始まります。ここからだんだんと物語が進行して行きますので今後とも宜しくお願いします。
少しでも面白いと感じたら、いいねやブックマーク登録お願いします。また次の話もよければよろしくお願いします。




