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八千職をマスターした凡人が異世界で生活しなくてはいけなくなりました・・・  作者: 秋紅
第七章 幽霊騒ぎに巻き込まれてしまいました・・・
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二百ノ五十六話 村人の中に混じる異質・・・

そしてグーティアに案内されるまま、村の中を歩くと中心部と思わしき場所に辿り着く。そこは噴水があり、黄金の樹木や草が生い茂る自然豊かな広場であった。ここでゆっくり、のんびり出来そうな雰囲気の場所で、心が落ち着いてくるようだった。




 本があれば、ずっとムディナはここで読んでいそうなくらいには最適なところのようにすら感じた。時間を忘れて、噴水の水の静かな涼しげな音を聞き、風のせせらぎにより、草木が揺れる自然の音を奏でながら、ムディナは本を読んでいる想像を浮かべる。





 ここが死の世界で、霊界でなければ、ムディナはそうしていた事であろうか。そもそも本のようなものを、ムディナ自身は持って来てすらいなかった。霊老のある自宅には、物語のような本は一切そこに存在しなかった。霊老の所にあった本は、様々な知識が詰め込まれた教本のようなものばかりであった。





 流石のムディナも興味がそそられない訳ではなかったが、サーデクスの方が眼をギラつかせていたのでここは譲る事にした。霊界の知識面での情報収集はサーデクスに任せる事にして、ムディナ自身は外で情報と交流を深める事を目的とした。





 ムディナ自身はコミュニケーションを得意としている訳ではないし、何ならコミュ障であり、知らない人と会話する事すら出来る事なら躊躇いたいくらいには人見知りですらあった。





 しかしムディナは大事な人達がいる現界に今すぐに戻りたいのだ。だからこそ躊躇う理由もないし、やらなきゃいけないという事実がムディナを奮起させていた。





「ここは中央広場だべ。何かしらのイベントや祭りがある時は、ここでやるんだべよ」





 確かにイベントや祭りをするには丁度いい立地と広大さである。むしろそのようなイベントをする為に作り出されたと言っても過言ではないだろう。それだけにピッタリとした広場だった。





噴水広場に座っている青年がそこにはいた。噴水の縁石に座りながら、理想的な過ごし方をしているようにムディナは思えた。この人も死人で、幽霊なんだろうかと若干同情紛いな感情をムディナは無意識に浮かべていく。





 こんなにもまだ先は長かっただろうにと思いながら、何故かその青年が気になり、話し掛ける。不遇な生き方をしたものが集う村であるこの場所は、若い人が比較的多いのだろうか。





 先が長いのに、まだ全然生きられたのに、それなのに不幸が重なったのか、それともそんな時代だったからなのか、結局、不遇で不幸な生い立ちというのは変わりはしなかった。





 ムディナは同年代に近しいようなその青年に、何かしらの親近感が湧いたのか、それとも話し易いかもしれないといった言いようのない感情があったので話す事にした。




「初めまして。ムディナと申します」





 そのような単調な自己挨拶をした。その青年はムスッとした表情をして、不機嫌そうな顔を浮かべて、読んでいた本を勢いよく閉じその場を立ち去った。





 荒れてるなぁ〜と不憫に思いつつ、何だあいつという怒りをムディナは覚えた。別に挨拶しているなら、挨拶仕返すのは万国共通認識というものであろうに。それを人と話したくないのか、不機嫌だったのか、ムディナには分からなかったが、それでも人としての礼儀というのは大切なものであるだろう。それをあんな風に極限まで無視と不機嫌を決め込むというのは、ムディナには理解出来ない事柄である。





「あいつもここ最近、来た奴でな。中々に皆と仲良くしてくれなくてな。困ってしまっているんだべよ」





 取り付く暇もなかったムディナはよく理解していた。会話という部分すら成り立たないというか、したくないのだから、そもそも意思疎通手段なんて限られてくるものである。




 仲良くしたくないというよりかは、そもそもこの村の住人を人として受け入れていないと言った感じである。自分が死んだという事実すら受け入れ難い、だからこそ死を受け入れてしまっているこの村の住人すら受け入れたくないというのが本心であるように、ムディナは思えて仕方ない。




「彼がきちんと現実を受け入れて、ここの村の人達と仲良くなるような意志がきちんと出てくるまで待つしかないですね」





 仲良くなる事を誰かに強制されるのは、それはそれで苦痛以外の何者でもないだろう。現実すら受け入れたくない、それでいてここの住人の過ごし方にしろ、彼の中で何かしらの考えが変わらない限り、ムディナ達がどうこう出来る事はない。





「でもよ〜、ムディナ達が来た事だし、歓迎祭をしたいというのがあってだな。ムディナ達と歳が近そうだったから、どうにか彼ともこの村の住人として仲良くしたいと思っていたんだべが、難しそうだったな」




 しかしそれにしてもそんなに一人が良いなら、この中央広場の噴水の縁石に座ってる必要性がないように思える。どんなに心地よくても、本を読むのに最適な場所でも、誰かに声を掛けられるという鬱陶しさに比べれば、天と地との差がある気がするように思えてしまう。





 部屋に引き篭もって、本を読んでいた方が幾分か気楽に読める筈なのになと疑問点が浮かんでくる。しかし何も証拠や事実的確信がない為に、それ以上に考察する材料がなかった。





「何とかして欲しいというお願いなら、喜んで私は受け付けます」





 グーティアの困っている表情に少しばかりの不安感を感じたムディナは、依頼という名目でこの村をきちんと本心から受け入て欲しいという話なら、喜んで引き受ける事にした。





 そういう身辺調査のような類いなども、冒険者時代に何度か引き受けたりはした事があるムディナにとっては経験のある依頼内容である。冒険者としての腕が試されるようなものである。





「自分、元冒険者なんでね。それも超一流だから、全部預ける事が如く私にお任せください」





 そんなムディナにしては、調子の良い事を言った。基本的に自意識過剰にならないように、自らを律している事が多いムディナであるが、今回は村ののどかで、賑やかな雰囲気にやられたのだろうか。そのせいでいつもとは違う言動をしてしまっていた。





 言った後にムディナは恥ずかしさのあまり、蹲りたくなっている自分がここにはいた。最早逃げ出したい程には、体温が上がり、頬を赤く染めていく。





「それじゃ、お願いしていいだべか?」





 グーティアは頭を深く下げて、お願いする。それはきちんとした礼儀であり、その背筋の真っ直ぐさには関心するものであった。村人のような田舎っぽい言動をしている割には、何処か騎士のような体幹のブレが一切なかった。





 元騎士だったり、軍隊に所属していたりしたのだろうか。勿論であるが、ただの観察であり、妄想に等しい話であるので口にするのはやめる事にした。





「お任せください。というよりかは、そもそもこの村で過ごすんです。助け合いの精神は、大事ですからね。やらせていただきますので」





 この村にどれくらい滞在するかは不明であるが、村人と仲良くするのは情報を得ると共に信頼関係構築は何かしらの役に立つからであった。だからこそ助け合うというのは、人と人との関係の中で、基本的な事柄である為に、任された以上、精一杯励んで、あの青年との信頼関係構築を成す事を強く心に決めるムディナだったりした。





「ありがとうだべ。この村は本当にいい村なんだべよ。だからあの子にも、それを分かって欲しいんだべよ」





 切実なグーティアの言葉が、ムディナをよりやる気にさせた。まず生い立ちなどの情報をある程度知らない事には、何も解決の糸口は掴めないであろう。

二百ノ五十六話、最後まで読んでくれてありがとうございます



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