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八千職をマスターした凡人が異世界で生活しなくてはいけなくなりました・・・  作者: 秋紅
第七章 幽霊騒ぎに巻き込まれてしまいました・・・
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二百ノ五十三話 霊界とは・・・

 客室と言ってもこじんまりとしていて、簡易的な一人用のソファがテーブルを挟み込むようにして、四つ並んでいるくらいである。ただそのソファも特殊であり、動物などの皮などを使われている様子はなかった。





 そもそもこの霊界に、動物のようなものがいるのかすら怪しい。ムディナ達が歩いている道中には、一切なのだがそのような生物を察知する事が出来なかった。むしろ生きとし生きているものがいないというのは、それなりに不気味にすら感じてしまう事であろうか。





「やはり気になりますか? こちらは木材を錬成により、木から革に変換しているのですよ」





 霊老である彼女は、ムディナが気になっている事を察して、そのようにソファについて説明した。錬成魔法というのは高難易度の魔法としてある。何故かというと、それはつまり簡単だ。物質の性質そのものを変えるからだ。





 金を銀に、銀を黒曜石に、そのようにして物質の絶対数を変えるというのは、文字通り禁忌とすらされる程の異常な魔法とされている。錬金魔法ならムディナも扱えるが、あれは錬成魔法の下位互換のようなものであり、持続時間という制約を行い行使している。一時的な変換なら何とかなるが、永遠に物質を変えるというのは数万倍くらいに魔力消費量が段違いに変わってくる。




 要するに世の中は、そんなに甘くないという事なのである。





「錬成魔法ですか。それにしては、状態を維持してますね」





 ムディナは関心するかのように、興味深くしながら言った。魔法も完璧な異能のようなものではない。状態を維持する為には、術式をそれに沿うようにしないといけない。性質、状態維持、その他諸々と魔法式を創るのは、人が成せる所業ではないだろう。





 ちなみにサーデクスは既に客室にて、じっと座っていた。退屈だったようであり、客室にある適当な本を読み漁っていた。ムディナは気絶してしまった事は勿論の事、長話をしてしまった事で申し訳なさがあった。





「すまん、待たせた」





 ムディナはそうやって、サーデクスに謝る。サーデクスは、「ん」とだけ言い、本を集中していた。ムディナは物語系の本が好きであるが、サーデクスは知識欲が凄まじいのである。だからこそそのような本を読む事が、多々ある。





 サーデクスは小難しそうな本を集中して、興味深くして読んでいた。こんなに集中して本を読むというのは、ムディナが会ってから一度もなかった様子であった。





「あまり気にしていないようで、安心した。とりあえず霊老が来たから、本を読むのを止めような」





 サーデクスはそれを聞き、ムスッとしたような顔をして、納得はするが不満そうな表情を浮かべて本を閉じて前を向く。霊老は姿勢良く、ムディナとサーデクスの向かい側に座る。





「それでは改めまして……私は霊老と申します。この村の統括をしております。以後お見知り置きを」




 そのように淡々とした自己紹介をする。そこにある眼は異質とされるようなものであろう。霊老という自己紹介には、確かな悪寒が二人に走る。




 敵対視とも違い、確実な人とは明らかに違う別種の何かであるのは、2人は理解できるだろう。





「驚かせてしまいましたね。いつもは人のレベルに、合わせておりますので。しかし貴方は、人とも明らかに別の存在ですけどね」





 そう霊老はムディナを見ながら、そのように呟く。それは暗に龍達に育てられたという意味なのか、それとも魂そのものが欠けているからなのか、それはムディナでさえ不確かな事であった。





「貴方がた、霊老や霊神鬼様というのはどのような存在なのですか?」





 サーデクスはそのように気になっていた事を口にした。そもそもであるが、二人は未だにその世界に対して右も左も分からないのが現状だ。





 だからこそ何にでも、情報を得るのは最重要な事柄である。サーデクスはそれを理解しており、この霊界の事が詳しい霊老ならある程度の必要性のある情報を得れると考えていた。





「我々は人を見定める霊鬼であるので、人のレベルに、人の営みを、人の感情を、あらゆる人という存在そのものを学ばないといけないのですよ」





 霊鬼という種族は、ムディナが知る限りに現界には存在しない種族である。霊鬼というからには、鬼の種族であるのは確かであり、鬼というのは現界では魔族に属しており、それでいて人に害ある存在だ。





「それは誰が定めたのですか?」





 そもそも霊界というのは、あらゆる存在の魂を輪廻へと導く為に創られた場所だとされている。それは誰がという定義は、聖都にある聖書に纏められている。それは神であるという風な記述であった。





 しかしサーデクス自身は現実主義者であるので、リアリストであるから、見た事すらない不確かな存在である神を信じられなかった。





「神です。いや正確に言うなら、冥界神が定めた世界です」





 冥界神ワデス、またの名をハーデスト。冥界という深界と呼ばれる極限の世界にいる暗闇が全てを支配する場所で、冥界神はそこにいる。





 ムディナは龍達に、その名だけは口にするのは良くないと言われている。それに加えて、冥界に必ず連れて行かれるという忠告を受けている。





「その名を口にしても、問題ないのですか?」





 ムディナはそのように恐ろしくなり、霊老に質問した。





 冥界神は自らの領域である冥界の名すら、現界では口にされるのを嫌がるのだ。冥界という名そのものが、神の力そのものである為に、口にした時に冥界神と魂上の繋がりが出来てしまう。




「ここは霊界ですよ。冥界神が魂の集積地として創り出された世界ですので、その名や冥界の事を口にしても、何ら問題はないです」




 冥界そのものが忌み名であるので、聖書にも、何もその記述は存在しない。





 霊界そのものを創った理由は、至極簡単な話だ。魂が、生きとし生きるものが多くなり過ぎていったからだ。だから冥界神は、冥界がこのままでは壊れる事を懸念して、創ったらしい。




「だから霊鬼という種族は、冥界神様に創り出された存在でもあるのです」




 冥界神の力というのは、途轍もなさがあるのかもしれない。霊鬼という種族ですら、ムディナを軽く超える程の力を有している。そんな明らかに魂の格そのものが別格である存在を生み出した冥界神は、悪魔神と並んで、異常的な存在であるだろう。





「私の質問に答えてくださり、ありがとうございます」





 サーデクスは霊老に頭を下げる。霊界という未知は不安に思うと同時に、興味がそそられる事であろう。未だ見た事すらない、現界とはまるっきり違う世界に知識欲が凄まじいサーデクスには、霊界に迷い込んだ訳でなかったのならば、興奮が抑えられなくなっていた事であろうか。





 そしてムディナは話を区切ったと思い、ようやく本題を切り出す。それが第一目標であり、本来ならこのような霊界にいるのは、おかしな事であるからだ。





「現界には戻れるのですか?」




 ムディナはそのように真剣な眼差しを、霊老に向ける。ムディナ達は戻らないといけない。戻る事が、現界にいなきゃいけないのだ。大事なもの達を残して、霊界に留まる訳にはいかないのだ。





 ムディナも、サーデクスも、現界にはまだまだやらなきゃいけない事が山積みなのだ。




「そうですね………………そもそも貴方がたのような存在自体が来る事は、初めてですので」





 それもそうかとムディナは納得する。そのようなイレギュラーが起きる事が、まずあり得ないのだ。魂だけが来れるであろう場所に、肉体そのものがあるムディナ達が来れるのがおかしかった。

二百ノ五十三話、最後まで読んでくれてありがとうございます



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