二百ノ四十三話 風紀委員会にて・・・
風紀委員会室でムディナは書類仕事に勤しんでいた。闘技大会も終わり、暫くは何もない風紀委員会は何もなければ、暇を持て余していた。ここ一か月は変な事件などは発生していなく、せいぜい喧嘩したなどの些細な出来事の対処をすると言った事があったくらいだ。
ちなみにではあるが、ムディナが風紀委員会のメンバー間では英雄という話と羨望の眼差しがする事がある。それに関しては先輩と言えど、鬱陶しいなと思いつつ苦言を呈していた。
ムディナはただ自分の為に、行動を起こしただけだ。誰かを助けたいや、誰かの日常を守りたい。そんな殊勝で、大層な目的を持って、行動した訳ではない。ただ自分自身の日常を、周りを守りたかった。そんな身勝手極まりない、そんな何処にでもいる個人主義に基づいて、起こした行動でしかない。
そして風紀委員長であるルル・アクターナが風紀委員会室に来た。何やら教師に呼ばれていたらしく、それが遅れた理由であった。
「すまん、すまん、遅れてしまったな」
ルルの手元には、資料のような紙を手に持っていた。それが何かだと、上級生の先輩達は察したのか怠いような顔をしている。副委員長でありながら、真面目を一直線で貫くような男であるレスト・ルードラットですら、嫌そうな表情を浮かべていた。
何か始まるであろう前兆であるかのような雰囲気を、風紀委員会のメンバーである一年生は理解して、一度息を飲み込んで何か来るのかと、警戒を強めていく。
「二、三年は察した通りである。そろそろあの時期がやってくるのは、言うまでもないだろう。来月から、各国の学院の風紀委員会、生徒会の合同の交流会が開かれる。その選出メンバーを発表したいと思う」
一年生諸君であるムディナ達一行は、交流会そのものが何かが説明もないので、分からず仕舞いだった。ただ先輩達の反応を見る限りでは、結構なレベルでしんどいのだろうという事だけは、ムディナは考察してしまった。
「騎士団がいるとは言え、学院の守りは基本的に風紀委員会に一任している。だから残らなきゃいけないメンバーもいる事だろう。だから今回も、各学年一人ずつの選出にする事に決めた」
これがルルが遅れた最もな話の概要だった。つまり教師達に誰がいいかと、会議を行なっていたのだった。息が詰まりそうな変な空気を漂わせながら、ルルのメンバー発表をただ静かに待つ事になる。
外の強い風が、異様に響かせ、さっきまで気にも留めなかった筈なのに、よく聴こえてしまう。そしてルルは勢いよく深呼吸をして口が開かれ、緊張感あるこの場でメンバー発表が行われる。
「三年生からは、シューレナ・ローゲル、二年生はレスト・ルードラット。一年生は、ムディナ・アステーナだ」
それを聞いたシューレナは、「ニャァァァァァァ!?」と大声を上げて、テーブルに突っ伏して絶望に打ち拉がれた。その交流会がどれだけの酷い何かであるのかと、ムディナは若干であるが恐怖を覚えた。
レストはというと、ただただ静かに下を向いていた。しかしその眼は焦点が定まっておらず、動揺しているのが見てとれた。何がそんなにやばいのか、分からない一年生はただ困惑するしかなかった。
「そんなに交流会というのは、やばいんですか?」
ジェイは流石に先輩達の反応を見て、質問した。ルル風紀委員長は苦笑しながら、そのジェイの質問に答えた。
「こう言っちゃなんだが、選出メンバーには同情を禁じ得ない。あれは交流会とは名ばかりの地獄だ。ギスギスとした空気はまだいい。生徒会はきちんと交流会としての体をなしているのだが、風紀委員会は違う。地獄のような訓練の中で、ただただ自分との戦いを数日間強いられるだけだ。そこには慈悲も、何も発生などしない」
それを聞いたジェイは、自らの体を恐怖のあまりに震わせる。それに選出されなかった事に安堵する自分がここにはいた。飛躍しているように聞こえてしまう話だったが、むしろマイルドに優しく抑えていた。ルルはというと、一年生の頃に既に体験しているので、その厳しさは理解出来ている範疇となっている。
「それなら、無理に行かなくてもいいんじゃないですか?」
ムディナは極論のような話を切り出した。それだけ厳しい訓練が行われるという事なら、無理にする必要性が無さそうに思えたからだ。ただムディナ的には、少しばかり興味が湧いて出てくるような話だった。その訓練内容次第で、自分が成長出来る果実を手にする事が出来ると思うと、ワクワクとした期待感がそこには込められていた。
「開催されるのはな、魔術学院都市・アステルというところだ。学院という体を成す為には、アステルの許可証や指導、その他諸々は必要とされている。それがないと、そもそも学院として成立するのが難しくてな。だからこそ交流会というのは、必ず行かなきゃいけない事になっている」
何ともまぁ〜、面倒臭い理由なんだろうと、ムディナは白い眼をしてしまう。ただこの大陸最大であるとされている教育機関のアステルというのは行った事すらないので、ただ楽しみになっていた。
魔術学院都市アステルというのは、基本的に許可証が必要とされていて、一般人がまず入るというのが厳しくなっている。そこにいる生徒は、トーラス魔術学院並み、いやそれ以上の生徒が集まるとされている。そんな噂が聞いた事があるムディナからすると、龍神達に少しでも近づきたいが為に、実力を伸ばせるかもしれないアステルというのは魅力的に思えていた。
「何でこいつ、ワクワクしているんだよ。すげえな」
サーデクスが横目で、ムディナを見てドン引きしていた。サーデクスも交流会の存在は認識していたが、そんなにも厳しいものだとは知らなかった。ただサーデクスの父親が、その交流会に参加した事があるので、やばい認識だけは持っていた。内容を話す事すら、躊躇われる程に異常過ぎる訓練を課されていたという話だけは聞いていた。
「だって、そんなにもすげえ訓練があるんだろ? やらなきゃ損だろ!?」
龍神達に少しでも近づきたい。憧れである龍神達に近づけるなら、どんな訓練だってやり遂げられる気がするからだ。それも最高峰機関であるというレッテルが、ムディナの期待感を加速させている。
ムディナは拳を強く握りながら、期待感のあまりに口角が上がってしまう。逆境を目の前にして、逆に燃え上がるのはムディナの特性である。龍神達から追い詰められた時こそ、気分を上げろとよく言われていたからだ。
だからこそ憧れの存在がそのようにして本質を説いていたからこそ、ムディナは追い詰められても、逆に楽しんでしまうようになっていた。
「おっ………………おっ〜………………とりあえず、これが資料だ。よく眼に通してくれ」
ルルはそんなムディナに呆気に取られて、戸惑ってしまった。そしてルルは手に持っていた交流会の資料の束を、ムディナに手渡した。そんなに量が多くなく、せいぜい数枚程度の軽い概要であった。
ただそれ以上な内容であるのは、先輩達の反応でよく察せられてしまう。だからせいぜい日程などの確認くらいが、ルルの持ってきた資料の目的であった。
「馬車で数日は軽く掛かるからな。ただ出席扱いになるから、そこら辺は安心して構わない。存分に体験してくるがいい。恐らく、必ずと言っていい程に成長はするだろうから、我々居残り組は楽しみに待っている事にするよ。その時は」
レストとシューレナは絶望感に打ちひしがれながら、傍らで嬉々としているムディナがそこにはいた。
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