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八千職をマスターした凡人が異世界で生活しなくてはいけなくなりました・・・  作者: 秋紅
第七章 幽霊騒ぎに巻き込まれてしまいました・・・
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二百ノ四十話 休憩・・・

 試験勉強に打ち込み続けて、それなりに時間が過ぎ去った時だった。デーラィが突然、背伸びして息抜きする。それが少し脳内が限界である事を悟る。むしろ結構長い時間を勉強に打ち込んでいたので、そろそろ休憩していい気がしてきた。






「ヤーウィ、少し休憩しようか」






 俺はそう休憩を提案した。ヤーウィは頭に手を当てて、考え込む。確かに試験まで一ヶ月弱は迫っている。しかしこれ以上続けたところで、デーラィもガールデも頭には入ってこないだろう。






 それに頭から湯気でも出そうな程に、赤く熱っているしな。本当に勉強するという行為が、苦手なんだと見てとれた。ヤーウィも満更でもないような様子で、口が開く。






「数十分程度ですかね…………。いいですよ。ムディナの提案という事もありますからね」





 相変わらず俺を課題評価している気がする。ヤーウィからすると、俺はまだまだだと思うのだがな。その極端とも言えるほどの冷静さというのは、俺にはないものであるからな。そのような冷静さがあると、俺も少しはマシになる気がするからな。羨ましい限りである。






 冒険者時代に焦ったせいで、何度か死に掛けた事も多々あるからな。やはりどのような状況と言えど、冷静に物事を考えられるのは希少であり、魅力的に思えているのだ。





 それを聞き、二人は喜ぶ。やっと勉強地獄から解放されるのが余程解放感があるのだろう。ガールデなんか、ヤーウィの鬼畜勉強指導により、幾分か痩せこけているような錯覚すら覚えた。それ程にバシバシと勉強を教えられていたからな。よく頑張ったと言わざるを得ない。






「そういえばムディナ君、三人のうち、誰か一番好きなのだ?」






 隣にいるデーラィが、気になっていたであろう話題を提示した。三人って誰の事なのか、俺にはさっぱり意味が分からなかった。好きって事は、異性であろうか。






「三人ってなんだよ?」






 デーラィはムディナのその返答に、一瞬にして停止する。こいつ、マジで言っているのかみたいな、あり得ないものを見ている眼を向けないでくれ。マジで分からないんだよ。






「ジェイと、グレイと、ヒョウカ先輩でしょうに」





 あぁ、そのような話だったか。確かにその三人の面子とは、よく会話をしたりしているけどな。好きという感情は、誰にも当てはまらないな。あっちからすると好きであるのは伝わってくる時は、よくあるのだが、俺がそれに応えられるのか怖い部分があるからな。






「俺は別に誰も好きじゃないな」





 俺は下を向き、床を眺めていた。彼女らの好意は、嬉しく思う節があるのは確かだ。しかし俺は未だに何者なのか、分からないと言ったのがある。しこりがある内は、駄目な気がするからな。申し訳なく思う自分もいるし、その三人の好意にきちんと応えたいという自分がいる。






「いや…………これじゃ、語弊があるな。俺はまだ誰かを好きになっていい資格がないんだよ」






 俺のその冷淡とした言葉で、三人は何かしらあると察したのだろう。これ以上を踏み込むと不味いといった予感が三人には走る。





 ムディナとの付き合いは一ヶ月以上が過ぎているという事もあり、三人は地雷を踏み締めてしまう予感がしたら即座に回避するようにしている。ムディナは基本的に何にでも優しい部分があるが、触れてはいけない部分には敏感に反応を示すのを、三人は少なからずに予感として理解してきた。






「それはいいとして…………ムディナ、知っていますか? 貴方に好意のあるであろう三人にも少なからずファンがいましてね。特にジェイの人気と言ったら、凄まじいものがあるのですよ」






 ヤーウィはそのような情報を提示してきた。何それ、初耳なんだが。またファンクラブの類いか。なんかこの学院は、そのような節がよくあるな。俺にもファンクラブのようなものが、あるのか気になるところである。





 こう言っちゃなんだが、若干で十五歳で国すら容易に救っているからな。国全体で絶大過ぎるくらいのファンがいても、不思議ではない。





「俺にもそのような、ファンクラブみたいなのあるのか?」






 俺は期待感に胸を膨らましながら、興奮気味にヤーウィに聞いてみた。ヤーウィは「う〜ん」と唸りながら、考え込む。まさかいないのか!? 俺にはそのようなファンがいてもいいじゃないか!? 別に国を救ったのは、そのような下賎な目的ではないけどさ。それでも俺は頑張ったからには、その結果があってもいい気がするんだがな。!? 何か泣きそうになってきた。






「ムディナはあのですね………………ファンクラブというよりかは、英雄視されるような傾向がありましてね。大悪霊事件、学院襲撃、そしてイコーリティの幹部との戦闘とね…………。憧れるという人が多く、目標が高すぎるらしくてですね」






 あぁ、ファンというのはあくまで偶像崇拝に近い者である。応援したいなどの気持ちが、そこには点在している。しかし英雄視というのは全くの別物である。そっちは応援などの気持ちは点在しておらずに、そこには手が一切届かない絶対領域が存在している。英雄は英雄である以上、その幻想は肥大化される傾向にある。





 確かに学院で何かしらの他生徒の距離を感じてはいたが、そのような理由だったのか。あれが仮面の英雄とかいう話も、少なからずに耳にはしていた。






「成る程なぁ〜………………はぁ〜〜……………………」






 俺は深いため息を吐く。結局な話の、俺の平凡な日常というのは何処に行ってしまったのか。明後日の方向を行き過ぎて、涙が出てきた。天井を眺めながら、俺は涙汲んでしまう。






「俺の平凡な学院生活は、何処に行ってしまったのか………………」





 俺は虚な眼をして、三人に向き直る。俺は波風とか立てずに、普通に、何でもない学院生でありたかったのだ。目立つというのは、俺の好むところではないしな。普通の、なんて事ない日常を生きたいんだよ。英雄になって、なりたくてなった訳じゃないんだよな。






 俺は凡人であり、普通のただの人間であるというのに。力さえなければ、そのような人間性なんだよ。自分は。






「そんなもん、最初から消えていただろうに。ほら? 入学試験で、既に実技でやらかしているじゃん」






 ガールデは俺にトドメとなる言葉を言い放った。確かに出だしから、間違ってしまったのは言うまでもない事だったな。あそこで試験に、普通に合格するくらいの行動を起こせば変わっていたという話だ。






 圧倒的過ぎる試験点数一位であり、首席レベルの事になったのなら普通の日常なんか、歩めないよな。あの試験は後悔してしまう箇所が数多くあったな。





「あれはな………………あれくらいしないと、合格出来ないもんだと思っていたんだよ。トーラス学院の入学試験って、難易度が高いって言われたからさ。確実に合格するくらいの基準が、欲しかったんだよ」






 百パーセントの確率で、合格したいのは誰だってそうである。だからこそあれくらいすれば、確実に点数が取れて合格間違いなしになると思っていたんだよ。それがやり過ぎだと気づいたのは、後の祭りだったけどな。





 三人はムディナに対して、憐れみの眼を向けていた。こいつに比べれば、自分達の方が普通の学院生活送っているんだなと心の奥底で三人は思いが一致した。






「それが、あの無双ぶりですか。やり過ぎにも程があるでしょうに」






 ヤーウィはため息を吐きながら、コーヒーを一口飲む。ヤーウィは今でも忘れていない。入学試験の時から、ムディナのあの強さに最初に恐らく憧れた人であるからだ。手を強く握りながら、その憧れに少しでも手が届く位置にいたいと今でも願っている。

二百ノ四十話、最後まで読んでくれてありがとうございます



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