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八千職をマスターした凡人が異世界で生活しなくてはいけなくなりました・・・  作者: 秋紅
第六章 闘技大会の選手になってしまいました・・・
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二百ノ三十七話 目覚めた先は・・・

 俺は眼を覚ました。そこは白い天井に白いベッド、清潔感溢れるような汚れ一つない空間にムディナはいた。一瞬であるが、天国に逝っちまったのかと若干思ってしまった自分がここにはいたが、手を握ったりなど感覚を確かめると現実なのだと分かった。






 とりあえず魔戦神を倒した後の出来事を思い起こすように、頭に手を当てる。






 闘技場に戻ってきたかと思えば、無限の力による魂そのものの消耗と毒に侵されていた事により、即座に気絶した。それ以降の記憶と言ったら、何もなかった筈だが。






 そう考えると、ここは病院であろうか。清潔感ある白一色の空間という事は紛れもなく、そういう事であるのだろう。





 ムディナは掛け布団を退けて、体を起こす。不調と言ったら、体が怠いくらいだった。毒に侵されたとは思えない程には、体にはそんなにおかしくなってなかった。







 暗かったので気づかなかったが、ムディナ自身が寝ているベッドに、一人だけ俯いて寝ている子がいた。それは黒髪の幼い少女であるミーニャだった。






 ミーニャはスースーと寝息を立てており、それなりに時間が経っていた。ミーニャの眼は腫れており、涙の痕があるように見える。どうやらムディナが気絶したという事で、心配させてしまったようであった。






「ミーニャに心配されるのは、これで何度目だろうかね」






 それなりに心配されないように気を遣っていたのだが、やはり駄目なようだ。入院されたのを聞かされて、即座に駆けつけたんだろうか。






 そんな風な事を思いながら、ミーニャの頭を愛おしそうに撫でる。心配させてしまう駄目な主人であり、兄貴ですまんな。そんな謝罪を受け入れているのか、ミーニャの口が開く。






「もう二度と、心配させないでくださいよ〜」






 恐らく、ただの寝言だろうな。それにしてもこのままだと、ミーニャが風邪を引いてしまいそうだな。俺の上着をミーニャに掛けて、俺は眠りにつこうとする。






 しかしそれを許さなかった人がいた。勢いよく扉が開かれて、そこには三人程であるが俺の病室に突撃した。光源魔道具を起動させて、その姿を現した。







 そこにはジェイとグレイ、ヒョウカの三人がそこにはいた。三人とも何処か悲しそうな表情をしていた。この三人にも心配されるのはしまったなと、ムディナは頭を抑えた。






「「「ムディナ!? 大丈夫だったか!?」」」






 三人とも同様の声を、ムディナに向かって投げた。ムディナはその大きな声で出すなと、仕草で伝えた。それにミーニャが寝ている事に気づいた三人は、即座に静かに動いた。






「全く、ミーニャが寝ているというのに」





 ムディナはミーニャを起こしてしまわないかと、心配になった。心配させて、いつも寝る時間を大幅に遅れてしまっていただろう。大声を出しても、寝ているのがいい証拠であった。





「しかしそんなに慌てるという事は、俺の事が心配だったんだな。ありがとうな」






 ムディナは和かな笑みを溢した。自分の事を心配してくれる存在がいる事が、何とも言えない幸福感を覚えていた。





 それを聞いた三人は、頬を赤らめて俯く。何か俺は変な事を言っただろうかと疑問になる。





「本当に心配したんだからね」





 ジェイは俯きながら、ボソッとそう呟いた。どうやら涙を流しているようであり、その雫は頬を伝って床に落ちる。

 そこまで心配させたのかと、ムディナは少しばかり後悔する。






「すまなかったな。本当に」





 しかしそれでも国を、自らの大事なものをきちんと守れたなら、自身が本気で戦った意味はしっかりとあるのだろう。





 それが今は目の前にあるのだから。その幸せが、今なら現実として実在している。それがなりよりもムディナが嬉しい話だった。





「そうだぞ。主がいなくなったら、我だって悲しくなるんだからな。気をつけてくれ……………………本当に気をつけて欲しい………………」





 グレイがそう拙く言い、涙を流している。グレイにまで泣かれると、余程に自身のしてしまった事の重大さを認識しまう事になる。





 狼人族という種族が涙を流すという事はない。それが自身の弱みでもあるからだ。そのような弱みを見せる事は邪魔であり、邪悪だとされている。だからこそこの種族の常識すら超えてまで、涙を流しているという事はよっぽどな話であった。





「本当に申し訳ないな。許して欲しい」






 ヒョウカはただただ苦虫を噛むような顔をしていた。何処か不安的であり、納得がいってない。そんな顔をしていた。







「あんたが私を助けてくれたんだ。君は優しいんだ。優しい人間なのに、何で自分を大切にしないんだよ。私が言うのも何だが、もっと自分を大切にしてくれ。だから二度と、そんな目に遭わないと誓えよ!?」






 それはムディナの優しさに触れて、立ち直ってヒョウカだからこそ言える言葉であった。ムディナ自身は、優しい人間だと一度も思った事はない。






 しかしヒョウカは強く拳を握りながら、ムディナは優しいと豪語した。ムディナの優しさがあったからこそ、ヒョウカは今はここに立っているのだ。






「すまないな。もう少し、自分を大切にするよ」





 そんな話をしていると、ミーニャは眼を擦りながら顔を上げる。そこにはムディナが目の前にいた。






 主人であり、何よりも大切な義理であるが兄であり、そして救い人であったムディナがミーニャの眼の先で起きていた。






 もう駄目なのかもしれないと、もう二度と起き上がってこないものだと、そんな可能性すら思案していた。でもきちんと生きている。きちんと眼を開けていた。




 これが嬉しくて、嬉しすぎて、ミーニャは涙が溢れ出てくる。






「ムディナお兄様……………………ムディナお兄様ーーーーーーーーー!?」







 ミーニャは勢いよく、ムディナに突撃するように抱き締める。勢いよく流れてくる涙で、ムディナの服は湿ってしまう。





 そんな事は関係なく、ムディナはミーニャを静かに抱き締めた。ミーニャにこんなに泣かれてしまうとは思わなかったようである。






 だから戸惑いながらも、とりあえず抱き締めないといけないと考えた。





「本当にすまんな。ミーニャ」





 ハクテイ寮にいる人も心配しているだろうし、ミーニャのこんな調子という事は後ほどにコッテリと寮長のヒキさんに搾られるだろうなと、背中に寒気を覚えていく。






 しかしそれでもきちんと日常が、この通りに守れたという事実がある。悲しい想いをさせてしまったという部分は反省しないといけない事ではある。






 それでも救えなかった存在はいる。それはイレス・レパードであり、魔薬密売組織のトップの人物であり、そしてムディナの、俺の命を救ってくれた人である。





 その心が優しすぎるあまりに、他者に絶望して、国に絶望して、世界にすら絶望してしまった。そんな悲しい存在がいるのに、ムディナは救えなかった。






 救う事が出来ずに、命を終えてしまった。このような後悔とちょっとした絶望は、しっかりとムディナの心にしこりとして残ってしまうだろう。






 しかしそれは、傲慢でもある。誰も彼もが救いを求めている訳ではなく、誰でも救える訳もない。それはムディナも重々理解している。






 ただそれでも目の前の救えたかもしれない存在を手放してしまった自分が、心底憎くなっているのは事実だった。






 だからムディナはそれからも絶望してしまった目の前の存在は、出来るだけ救わないといけないと決意を固める。






 命を終えてまで守ってくれたイレス・レパードがいる事に。イレスの本来の願いである絶望している人を救いたい、そんな願いをムディナは胸に秘めて歩む事を決めた。






 それがイレスさんが俺を守ってくれた恩返しになるような気がするからだった。

二百ノ三十七話最後まで読んでくれてありがとうございます



だいぶ投稿が遅れて、本当に申し訳ありません。理由としましては、六章のこのような終わりで本当にいいのかなという葛藤がありまして、ずっと悩む結果となってました。しかし終わりに良いも悪いもないなと吹っ切れて考えて、結局こういう章の区切りになりました。



だいぶ長引いた六章ですが、これにて終わりとなります。第七章のタイトルは、『幽霊騒ぎに巻き込まれてしまいました・・・』


次章はそれなりに学院に関しての、ほのぼの回になりますのでお楽しみください。



それでは少しでも面白いと感じたら、いいねやブックマーク登録お願いします。また次の話もよければよろしくお願いします。

誤字、脱字などありましたら、報告お待ちしております。それと何か設定や諸々の違和感があれば、感想にてお待ちしております。

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