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八千職をマスターした凡人が異世界で生活しなくてはいけなくなりました・・・  作者: 秋紅
第一章 異世界で生きなきゃいけなくなりました・・・
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二十二話 何が正解か分からない・・・

 アライはその後話が平行線だと、悟ったのだろうか。それ以上は、何も口にはしなかった。平行線にしたのは、俺なんだが、どうにも何も話せなかった。いや話す必要などないという自分がいて、そのせいだろうか。結局、自分が悪いのだが。






 アライはそのまま片方のベッドで不貞寝する様に、寝てしまっていた。寝息を立てており、熟睡している感じだった。俺はというと、何故か一切寝れなかった。ずっと眼を瞑って眠ろうとしても、どうにも眠れなかった。







 俺はベッドから起き上がり、音を立てず部屋から出て、外に行った。






 この村の端には、河川敷のようなものがあり夜風に当たるついでに、気分転換に川の音でも聴こうかなとした。






「寒ぃ」






 体を少し震わせて、ゆっくり辺りを眺めながら一歩ずつ地面を踏み締める。ホライさんの話ではそんなに遠くないという事だった。その川は村の名物だという。綺麗で、川魚も美味しいし、飲み水としても問題ないという。確かに俺が転移してから、すぐ川に向かって歩いたがとても綺麗だったな。それがこの村まで繋がっているのだろう。







 それにしても何が間違いだったのだろうか。俺にはよく分からなかった。ただ分かるのが、俺が話さない事で、アライが不機嫌になったという事実だ。彼女は最後涙を垂らしながら、「私の事、本当に信用ならないんだ」と言った。それ以降、何もアライは俺に話すという事をしなかった。ただ眼を虚にしながら、俺という存在を見る事もせずに。







「よく分からないな」







 俺は誰もいない中、村中が静寂の中、呟いた。辺りを見渡して見ても、辺りは暗くて、皆寝静まっている感じだった。ただ虫の鳴き声だけが、辺りを支配されていた。






 こういうのも悪くないな。さっきまで、ワイバーンの襲撃やよく分からん奴と戦った後とは思えないほど静かだった。平和だった。こんな日常を俺は過ごしたいな。ただ多分、それは兄貴達が許しはしないし、龍達も許してはくれないだろう。面倒くさい事この上ない。






本来の自分は、平凡に、普通に、何も争い事もなく、静かに生きたいだけなんだがね。それを邪魔するのは、誰だろうと許しはしないけど。







 そんな事を思いつつ、ゆっくり歩いていると河川敷に着いた。川のせせらぎが、静かに流れるように、月明かりに照らされながら、音を奏でていた。俺はゆっくりとりあえず、草むらの中、座り出す。







「本当にいいな。自然は本当に」







 だって何も考える必要もなく、何もすることもなく、ただ時に、流れに、身を任せるように、淡々と進んでいく。それがあくまで、世界の一部であるかのように、生態系として存在している。それだけで、星という存在の役に立っている。それがとても羨ましくすら感じてしまう。







 俺という存在が、その自然とは真逆な性質なせいで、余計そう思ってしまうのだろうな。







「本当にそうなの?」







 俺の隣に、俺の姿に似た人物がいた。それが誰かは分からないが、なんとなくであるが、この人物に対して感覚的に、分かってしまっている気がした。ただその人物も、俺自身をよく知っている奴なのは、確かだった。






「そうじゃねぇか。俺はこういう流れとは真逆に、生態系として、人間として、碌でなしの烙印を押されても文句ないだろ」






 俺はアライの最後の悲痛な顔を見て、自分は本当にどうしようもなく、救いようもなく、それでいて碌でなしなのを実感した。アライも『俺』という存在がいなければ、あんな思いをする必要なんてない話だった。






「そうだね。あんたは碌でなしだし、どうしようもない人だね。それはあんたが一番分かっている事だ」







 そうだな。それは俺以外分からない。いや俺にしか理解にすら苦しむだろう。だから『誰か』に話す必要など皆無に等しい。







「そんじゃなんでお前は出てきたんだ? 分かっているなら要らないだろ」







 それなら『そいつ』は出てくる必要なんてないだろう。分かっていると肯定してくれるなら、そもそも必要なんてないだろ。






「あんたの事は、僕も同じくらいに理解できる。だからこそさっきのは『間違い』だとは分かっているんだろう?」






 確かに間違いだったのは確かだ。ただ何が、正解だったのか、俺には分からなかった。だからあんな対応しか、アライには出来なかった。だからアライはあんなに不機嫌になってしまった。理解はしているつもりだが、それ以上俺は何をすればいいのか分からない。







「分かっているつもりだ。ただ何が『正解』、最適解なのか、分からなくてな」







 俺はそいつに相談した。その『相談』という行為も、そいつだから出来た事だった。だってそいつは俺の事を俺以上に知っているはずだから。






「あんたの本心を話せば、それで済む事だろう?」






 そいつは俺に無理難題を言った。俺にそもそも本心なんて無いはずなんだが。しかしそいつが言っているという事は、俺にも本心があるのだろうか。俺は深く考え込む。






「あんたが、『そういう奴で、どうしようもなくて、それでいて碌でなしで、それがとても苦しい』事だよ」






 それを話せば一番楽なのかもしれない。相棒すら信用できない俺の事を認めてくれるだろうか。俺がどうしようもない奴なのを理解してくれるだろうか。幻滅されないだろうか。離れないだろうか。それがとても――――







「怖いんだろう。分からなくはないが、結局、話す、話さないでも変わらないだろ。これは賭けだ。話したいという気持ちは無くはないだろ? 話さなきゃなというのも理解している頃だろうしな。だから僕が、出てきたんだし」







 あんたの言う通りだ。結局、話さなきゃいけないのはそうだろう。いつかは話す事だった事だろうしな。今更、モジモジとして話さないという選択肢の方が、愚かといったものだ。無駄な事だろうしな。






「あんたはそれで、周りを失った。そんな存在だから、他が恐ろしくなり、理解が出来なくなり、離れてしまった。だからいい人の『道化』を演じるようになった。それは兄貴に言われた言葉が、深く突き刺さっているからだ。お前の根本に深くね。たださ。少しは、一番近くに居たい存在くらいは、認めてあげようよ。僕が言うのもなんだが」







 あんたの言う通りだ。そんな事も理解できない俺は本当に駄目な奴だな。






「そんな駄目な所もきっとアライは認めてくれる筈だ」






 そうだな。アライならきっと――――きっと大丈夫な筈だ。怖がる必要なんてない。






 そう俺は意気込み、勢いよく立ち上がる。そして『そいつ』に顔が向く。






「ありがとうな」





 俺はそいつにお礼を言った。俺という存在をなによりも理解して、認めてくれていて、それでいて俺以上に分かっている存在だから。






「どういたしまして。あんたは本当に、手が掛かるんだからな。少しは僕という存在がいなくても、うまくしろよ」






「それは無理な話だ。俺が人並みに、うまく関われたらそれこそ、『俺』じゃなくなるだろ?」






「確かにな。それこそあんたじゃ無くなるからな」






 そいつは苦笑気味に笑いながら、俺にそんな事を言った。






「それじゃ戻るわ。じゃぁな」






 俺はそいつに軽く手を振った。しかしそいつは何か分かっていたかの風な顔をしていた。






「戻る必要はないみたいだ。どうやらあんたのお姫様は、そっちから来たようだよ」






 俺が後ろを振り返ると、アライがそこにはいた。そこにいたアライは何処か物憂げとした表情をしながら、誰か、いや俺を探していた。






 どうやら深く寝ていたが、ふと眼を覚ますと、俺がいない事に気付いたのだろうか。そんな所だろう。





 そして俺が居た事に気づき、近づいてきた。

二十二話最後まで読んでくれてありがとうございます



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