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八千職をマスターした凡人が異世界で生活しなくてはいけなくなりました・・・  作者: 秋紅
第六章 闘技大会の選手になってしまいました・・・
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二百ノ二十八話 惨状に何を思う・・・

 俺はアライさんから、イコーリティが襲撃してくるという話を聞いていた為に警戒はしていた。しかし住宅街には、その惨状が密集していた。焦げている者、惨殺している者、犠牲者は後を絶たない。






 下卑た笑いを浮かべて、それを単純無垢に実行しているのがあり得ない事であった。何を生きていて、そんな事をしているのだろうか。何を持って、そんな平気で、嬉々としてやっているのだろうか。理解に苦しむところである。





 俺はただ、歩く。理解し難い光景を目の前にして、俺は憤りと怒りを募らせていく。それが無限の力を引き出すに至った。感覚的には第三ステージまで到達していた。余程俺はこんな惨状を受け入れられないようだ。





 犯罪者の一人が嬉々として、俺に剣を振るってきた。身のこなし的に手練れのような印象を受けており、確実に俺の喉元を狙う一撃であった。躊躇いのなさが、犯罪者として一級品だと悟っているかのようであった。





 俺はその犯罪者を一瞥した。その瞬間、犯罪者は停止したかと思えば、一瞬にして塵とかした。膨大なエネルギーを、その犯罪者にぶつけただけだ。それだけで犯罪者は凶刃を振る事もなく、何が起こったか理解する事も出来ずに生涯を終えた。





 犯罪者達はそれを見て、圧倒的な脅威を目の前にして逃げようとする。犯罪者というのは、本当にいつも逃げるのが判断が早いし、上手いよな。生きるという事にしがみつくのが、その根性が素晴らしく思ってしまう。





 殺した人達は、逃げようとしても、命乞いしても、許して貰えなかった筈なのに。何でお前らがそれが許されると思っているのか理解が出来ない話だ。





 俺は即座に移動する。俺がそこにいたという事象を無理やり引き出して、概念的な移動をする。そこは犯罪者の目の前であり、それに対して驚く。しかし追いつかれたと思ったのか、男は雷の剣を振るおうとした。





 流石のA級犯罪者だ。判断力が速い。どれだけの犠牲を積み重ねて、このような実力を培ったのだろうか。笑い話にしかならないな。






 俺はそれよりも早く、男に蹴りを繰り出した。男は何が起こったか理解する事も出来ずに、苦しみ出す。俺はそのまま指を鳴らした瞬間、男は霧になるかのように霧散した。





 膨大なエネルギーが物理的肉体に耐えきれずに、肉体としての形を失った結果がこれであった。素粒子レベルまで分解するまでに至る程にエネルギーを供給するとそうなる。





 何でいきなり、そんな大胆な行動を取るようになったのだろうか。そんな無差別な攻撃をするようになった。国民に何の恨みがある。無関係な人たちを殺すのに、何の意味がある。





 俺は憤りを募らせながら、ただ前に進んだ。恐らくイコーリティの密輸組織のリーダーは、闘技場内にいると思うからだ。俺は密輸組織のリーダーが誰かなのか分かっていた。





 ただとりあえず、ここら一体の害悪を取り払うとするか。これ以上に犠牲者を増やす結果になるのは、いたたまれるからな。速急的に終わりにした方が、俺の心もスッキリするからな。





 俺は指を鳴らした。それが空間内に、透明なドームが展開された。あまりにも術式を広げ過ぎると、制御が効かなくなるからな。これくらいが、丁度いいものだろう。






 そのドームには、あり得ないほどの力が詰まっていた。それが脈動するかのように、線のようなものが走っている。それがドームの中央に寄せられるように伸びていた。





 ドームは住宅街を全て飲み込むように展開されており、住民達もそれに恐怖していた。ただこれに関しては仕方ない事だ。信じられない光景を前にして、恐れない訳ないのだから。





 さてと犯罪者を一蹴するとしよう。国内全体から、そのドームは姿が見えた。そのドームの力を感知できるものは、それを発動する者を知っている者もいた。






 グレイも、ジェイも、そのドームの力を感知した時に理解出来た。どうやらムディナが、本気で対処するのだろうという安堵がそこにあった。





 それは規格外、異次元の領域の力の正体だ。とくと害悪の眼を持って、刻み込み、消滅してしまえ。





「カタストロフィ・レクイエム」






 それは命の選別だった。人間にとっては、酷く傲慢な行いだった。しかしそれが人間のエゴのようなものに他ならないのだから。






 鎮魂歌のような歌が耳に響き渡った。しかしそれが聞こえたものは、聞こえたと認識した瞬間にドーム内にエネルギーそのものになって吸収された。それは犯罪者としての罪を精算する為の、舞台装置のようなものだ。 





 害悪はきちんとそのドーム内で終わりを迎える事になる。魂は等しくエネルギーへと変わり、吸収される。害悪な犯罪者も、エネルギーとして変われば、それは罪を清算したも同義だろうか。





 だからこその鎮魂歌(レクイエム)だ。魂を鎮めて、エネルギーとして変われば、罪人はきちんと罪を重ねる事を辞められるだろうからな。






 犯罪者は恐怖のあまり、聞こえないように耳を塞ぐ者もいた。しかしそんな事は関係もなかった。魂に直接識別して、ドームのエネルギーを送り込んでいるのだから。物理的な部分など関係ない。魂に直接作用するのだから、魂を操作したりするものでもいない限り、これを防ぐ手段などないだろう。






 そしてドームが収縮して、俺にエネルギーとして吸収された。どうやら犯罪者を、ここら一帯にいる存在は処罰したようだ。人が簡単にエネルギーとして変わる姿を認識した一般人は、恐怖を覚える。発狂しかねないような光景だろうか。






 人間はこんなにも脆い物なのだと、それを理解したものはただただ震えていた。そしてそんなものを意図も容易く放った仮面の男に、一般人は震えながら口にした。






「化け物」とそう揶揄された。俺もそこら辺は理解していた。こんな事を行う所業をするものが、普通である筈もない。精神的に異常だからこそ、成し得てしまった事だからだ。化け物と言われても、致し方ない話だ。






 だからこそこれも、俺の罪だ。この惨状を作り上げた俺の罪を、俺は認識する。だからこそ、一般人に、誰かに何かを言われた所で意味はない。






 だって自覚して、それを行ったのだから。今更誰かに言われたところで、何を思う事がある。






「化け物だから、何だと言うのだ? 人など、皆が悪を起点にしているではないか」






 悪とは何か。正義とは何か。ムディナにとっては、そんな抽象的な事はどうでもいい事だった。だってムディナが、人間界に来た時に最初に感じたのが、悪いとそう感じざるを得なかったのだから。






 悪があるから、正義が成り立つ。行きすぎた正義は、簡単に悪へと転じる。そんな小難しいようで、簡単過ぎる答えを知ってしまっているムディナは、正直誰かに化け物と揶揄されたところでどうでもいい。






「それに俺はただ、大切なこの場所を護りたいだけだ。それ以外は心底、どうでもいいからよ」






 だからこそ護る為なら、俺はどんな事だってする。俺の日常を破壊する害悪を排除する為なら、どんな苦渋だって舐めてやる。そうして俺が日常を生きて、凡人のようになって、日々幸せに生きれるのなら、俺はそれで充分なのだから。






 仮面の男は、即座に姿を消した。ある者は男を厄災だと言った。ある者は男を、救済者だと言った。ある者は男を、選別者だと言った。ある者は男を、非情者だと言った。






 それは仮面の男であるムディナが初めて、本気で力を発揮した事で起こった噂話としてなった。ムディナにとって、名も知らぬ存在に対して、どんな噂話をされていようが関係はないだろう。






 ムディナはただ日常を護りたい為に、足掻いているだけの凡人なのだから。

二百ノ二十八話、最後まで読んでくれてありがとうございます



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