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八千職をマスターした凡人が異世界で生活しなくてはいけなくなりました・・・  作者: 秋紅
第六章 闘技大会の選手になってしまいました・・・
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二百ノ十話 クラウンギルティの長

 ジェイは数人のハントリストに載っている人達の特徴を記した資料を、その男性に手渡す。男性はそのハントリストに載っているメンツを見て、驚愕して口が閉じなくなる。





「おい!? これって!?」






 そこには賞金首レベルB級からS級の面々であった。それだけならよくあるものであるが、それは組織として徒党を組んでいる一大の犯罪者組織の賞金首達であったのだ。ハントリストを専門にしているクラウンも、その組織には手を焼いており、頭を抱えるような事態になっていた。むしろこのクラウンが出来たからこそ、この犯罪組織が拡大したと言っても過言ではない程であるのだ。







「……………………そう。これはイコーリティの面々です。貴方には、いや貴方達が率いるクラウンは、その面子の犯罪者を捕らえるか殺害をしてほしいのです」






 男は冷や汗を掻きながら、考え込む。それは今まで不透明だった犯罪組織であったイコーリティを捕らえる絶好のチャンスなのだと。そして男性個人の話であるが、密輸組織という点がより男性にやる気をもたらしていた。






 しかしそこで男性には、疑問に感じる部分がある。今まで動向すら不明だった犯罪組織の情報を持っている目の前の嬢ちゃんは一体何者なんだと。もしかしたら自身のクラウンを、嵌めるための罠の可能性だって大いにあるのだ。その考えに至った男性はより警戒心を強めて、右側の腰に備えてある短剣に手を添えながら口を開く。






「質問はいいか? 場所、日時は? それと何故、君のような嬢ちゃんがそれを知っているのか? 答えてもらおう」






 当然の話であった。そもそも不透明で、根拠に乏しい話で信用性がないのだ。事細かく相手の情報を知っているからこそ、目の前の女性は話しているのだと男性は思っている。






 ジェイからしても、根拠のある話であり、信用を得る為に元々きちんと話すつもりではいた。そうでなければ、クラウンのメンバーが簡単に戦死してしまう可能性があるからだ。






「場所は、学院内闘技大会中の明日の午後に異変が起こる。その時の対応を冒険者である『クラウンギルティ』にお願いしたいと思います。情報源については、教える事は出来ません。情報源との約束ですので」





「ふむ………………」と男性は暫く悩むこむ。ここまできちんと日時を指定しているという事は、根拠のある話なのだと推論出来る。その女性の眼は真実を物語っており、嘘偽りがない事をその男性は理解する。






 ただ一級の犯罪者集団である為に、メンバーを危険に晒したくないという部分もある。しかしこのチャンスを逃せば、二度と足取りを追える可能性が無くなる事だってあり得る。だからこそ男性は思い悩みながら、口を開く。






「クラウンリーダーを話し合ってから決めます。この場では、やはり了承する事が難しいので」







 そもそも大陸中に広がる巨大犯罪者組織であるイコーリティの面子の実力は、計り知れないだろうというのはよく知っている事だった。イコーリティにクラウンのメンツがそれなりにやられており、その強さは男性の耳にまで情報は及んでいた。







 だからこそその集団的行動の中、クラウンを動かすというのは男性からすると心配な部分があった。トーラス国にいる人員は、百人弱程いるがその全員の出動を兼ねてようやく本腰を入れて対処に、依頼に当たれるだろうという風に男性は考えていた。







「その必要性はありませんよ」






 ジェイは淡々と口にした。男性は意味が分からずに、駄々を捏ねている餓鬼なんだと再度であるが女性を認識してしまう。我儘な貴族お嬢様、そのような印象がやはり強めだっただからだろうか。







「あのなぁ………………さっきも言ったが、クラウンリーダーの了承がないとこっちは動けねぇんだよ。わからねぇのか? 貴族のお嬢さんよ!?」






 その男性は怒りの声を発する。先程きちんと説明した筈の事であるのに、理解する事が出来ない貴族のようなその女性に対して、軽蔑の眼差しをジェイに向けていた。







 しかしジェイの先程の返答は別に、我儘でも、理解する事が出来なかったでもなかった。ジェイは徐に仮面を取り出す。






「おい…………あんた………………まさか………………いや、そんな筈は………………」






 男性はその仮面を見て、眼を真開きながら動揺する。普通ならあり得ない仮面を所持しており、その仮面には男性は覚えがあった。






 ジェイはその仮面を付けながら、とある証明書のようなものを男性に提示する。その男性はその証明書のようなものを手に取り、間近で観察する。その証明書には偽装がないか、どこか不備がないかをきちんと観察する。







「偽装の確認は済みましたか? だから言ったでしょう。その必要性はありません………………と」






 それは冒険証であり、ジェイが冒険者だった証明書だった。そしてその冒険証には、Sランク冒険者、クラウンギルティリーダー精霊騎士ヴィヴィアンと記されていた。






「本当に…………貴方様なのですか………………クラウンリーダーヴィヴィアン様」







 男性はあまりの衝撃に、思考が固まってしまう。ジェイからしたら、この男性はトーラス国という一大国家のクラウンを任せた人物である。







 男性は涙を流しながら、左手を強く握る。男性からすると、クラウンリーダーは大恩人であり、底辺であった自分の価値を見出してくれた人物だった。






「本当に久しぶりだね。ガルタ。あれから四年位は経過しているか」






 ガルタはただただ嬉し涙を流している。久しぶりに再開したリーダーのお姿をこの眼にしっかりと収めているのだ。それがどれほど幸福な事であろうか。それは最早、一種の信仰とすら思えるようなレベルでの感動であった。





「しかしガルタ、君は初見で私の事を見破れなかったのはどういう了見かな?」





 ジェイは怒りの圧を強めて、ガルタに苛々とした言葉の圧を放った。ガルタはそれに震えて、後悔しながら弁明の言葉を口にする。






「いやヴィヴィアン様の仮面は、魔力偽装の仮面じゃないですか。魔力感知でも、魔力の質が違うので分かる訳ないじゃないですか」






 そういえばジェイ自身は自分の名前や姿を偽る為に、仮面を着けているのを思い出した。冒険者として活動する時は、常に仮面を装着してから恐らくクラウンメンバー誰一人として見抜けなあ可能性が高い。ただ唯一であるが、クラウン副リーダーだけは見破れそうだなと思案する。






 ガルタは冷や汗を掻きながら、必死に弁解した。それにジェイは納得して、うんうんと頷く。







「そうだったね。気づかれないのは、仕方ない事だね」






 ジェイのその言葉に、ガルタはホッと胸を撫で下ろす。このまま怒りを強めているジェイがいたら、ガルタの命は無かった事だろう。それか精神的に酷い目に遭っていた可能性すらある。だからこそガルタは、安堵していた。







「それにしてもガルタ、君は相変わらず借金をしているようだね。それも今回は、密輸組織であり、犯罪組織のイコーリティに」






 ガルタは散財家であり、賭け事が好きな賭博野郎である。だからこそ常に金欠であり、貧民街でしか飲み食いが出来ないような生活を送っているのだった。






「後から裏に密輸組織が絡んでいたと、知ったんですよ。だからクラウンギルティの規律には、反しておりません」






 クラウンギルティの規律の一つに、犯罪者や賞金首に接触、同情は一切しない事。それはハントする上で必ず邪魔になるような要素であるからだ。






「まぁ…………騙された君も君だ。やってくれるね?」






 ガルタはそれを聞き、すぐさま考えを巡らす必要もなく口を開いた。そもそもクラウンリーダーの指示である以上、断るような理由などないのだから。






「マイ・リーダー、この指令(オーダー)、了承しました」






 ガルタはそう真剣な表情で、人差し指と中指を自身の胸元に突き立てるようにした。それは心臓、命を賭してリーダーの指令に従う意思であり、犯罪者、賞金首を必ず対処するという表れであった。




その構えはクラウンギルティのリーダーの指示に同意したという証であり、クラウンギルティだけの敬礼のようなものであった。

二百ノ十話、最後まで読んでくれてありがとうございます



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