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八千職をマスターした凡人が異世界で生活しなくてはいけなくなりました・・・  作者: 秋紅
第六章 闘技大会の選手になってしまいました・・・
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二百ノ九話 貧民借金屑冒険者・・・

 ジェイはようやく目的地に辿り着く。それなりに迷いながらも、辿り着いた事に安堵する。ジェイが貧民街に来た時には、それなりに橙色の夕暮れの空だった筈なのに、既に辺りは真っ暗であった。夜闇で何も見えない暗黒の世界であり、光源魔道具がありにはあるが、機能していなかった。







 恐らくであるが、魔道具士がここまで整備が行き届いていないのだろう。それが貧民街という所以であり、ここまで整備を行き届かせる金も余裕もこの国はないのだろう。それに貧民街というのがより差別化をを加速させていて、そもそもする必要性がないのだろうとすら考えている輩も多いとは思われる。






 そのような現実をジェイは突きつけられる。どうにかしたいと考えてしまう。貧民街という事が、ジェイの心の奥底に響かせるのだ。どうにかしなければいけない。どうにかして、貧民街を一種の街にしたいと。こんな日常の中でも、今もなを苦しんでいる人だって大勢いるのだから。







 明かりが無い世界は怖いだろう。明かりが無い世界は震えるだろう。ここに住んでいる子ども達を思うと、ジェイの胸がズキズキと痛みが走ってくる。自身が幼少期、このような暗闇に住んでいたからこそよく分かってしまう。だからこそそんな人達を出来るだけ救いたい。傲慢と言われたっていい。自己中心的と言われたって構わない。






 とは言っても今すぐにどうにかしたい思いを奥底に引っ込めて、眼前の目的を果たそうとは思う。そうしないとこの国すら駄目になって、日常が破綻してしまうからであった。






 そこには店名が書かれていて、バー・エリルという名前であった。地下に繋がっており階段があり、どうやらそこが店なのだろうとすぐ分かる。






 ジェイはその地下に行く階段を歩く。薄暗いながらも、チカチカと途切れそうな光源魔道具がチラチラと見える。それが逆に雰囲気を感じてしまう。





 そのまま地下に行くと、木のボロボロとしているドアであり、鉄のドアノブが錆びていた。ジェイがゆっくりと慎重にドアノブに触れて、ドアを開けようとする。ギシギシと嫌な音を鳴らしながらも、ドアノブはしっかりと回りドアが開く。






 そこはボロい木製のテーブルに椅子、カウンター、酒棚、弱い光を放つ光源魔道具があった。よくあるボロい酒屋でありながら、ジェイはそれなりに凄いと感心してしまう。






 そして客層は柄が悪そうな人達が大半であった。マスターも額や手に無数の切り傷や焼け跡があり、見るに歴戦のような雰囲気を感じる。






 ジェイが店内に来たからだろうか。歳若く、垢が抜けてなさそうな女性が店内の足場を踏みしめようとする。それが自身の領域を侵されたかのように思ったからだろうか。柄の悪い人達が、怪訝な顔をする。それをジェイは察しながらも、そのまま目的の人物の近くまで歩く。







 その男性は魔物にやられたような傷痕があったり、剣でやられたような傷痕が目立つ。それも結構な数であり、場数を踏んでいる印象を受けている。






 男性はテーブルで静かにエールを呑んでいるが、酔っている感じではなかった。会話をする予定ではあるので、ジェイは安心する。きちんと記憶に残しておいて貰わないと困ってしまうからである。






 男性はエールを飲みながら、女性が目の前に来た事に気づく。男性はなぜ、自分がここに来たのか怪しいなと思いながらも口を開く。






「えらい別嬪さんが来たな。何か用かい? 嬢ちゃん」






 その男性は警戒を強めていた。それがジェイにとっては、期待値が高まる。普通の貧民街の連中なら、警戒するよりまず先に手を出そうとするからだ。





 だからこそその男性はまず自分に来た事に対して、警戒をする。普通なら知り合いでもないのに、わざわざ行き付けの酒場まで突き止めて来たという事になる。それが不信感を強めて、警戒心が高まってくるのだった。






「私の名前はスピリットとでも呼んでください。貴方が犯罪者・賞金首(ハント)専門のクラウンを束ねる冒険者だと見込んでの頼みがあります」






 クラウンというのは十人以上の冒険者集団を束ねていて、集まりの事を言う。十人以上の徒党を組む場合、クラウン申請というのが必要になる。それはギルドに叛逆しないと同時に、ギルドに対して有益な事を示す事を条件に結成される。






 そしてそのハントを専門とするクラウンは、総勢万単位を超える人以上を束ねるクラウンの中でも歴とした伝説のSランク冒険者の一角である。そのクラウン結成には当初は問題視されていたが、クラウンのお陰でハントリストの三割、四割が捕まるか殺害された。それが国としても喜ばしい事であり、犯罪率が格段に減少したという。





 彼らのモットーは別に犯罪者を悪と断じて処罰する訳ではない。悪も善も平等であり、どちらにも転じる。悪という概念が形作る異常性を問う事が、このクラウンを結成した理由だという。






 何を持って『悪』とするのか、何を持って『善』と定義するのか。その境目を見極める目的で、このクラウンが設立されていて、いつのまにか万にも昇る一大のクラウンとなった。






 そしてその男性はAランク冒険者で、このトーラス国のクラウンを取り仕切る役目を担った人であった。






「そういうのは俺に通すんじゃなくて、ギルドに直接問い合わせてくれ。それが決まりだしな。嬢ちゃん、依頼する方法を間違えているよ」






 それは冒険者に依頼する人なら誰でも知っている常識だった。特にクラウンに依頼するような人なら、よりその冒険者依頼事項というものをよく分かっていた。





 だからこそジェイのその発言について不信感が生まれてしまう。そのような事すら知らずに、自身に接触して来た理由がよく分からなかった。男性は呑む手を止めて、真面目な警戒心と野生の眼をジェイに向けていた。






「それは知っています。しかし私は貴方にお願いしてます」






 ジェイはその事について、きちんと知っていた。知っていて尚且つ、男性に対して個人的な契約依頼をしようとしているのだ。






 それを聞き、男性の顔が歪む。舐められた、もしくは侮られたと感じたのだろう。普通はきちんとギルドに依頼しなきゃいけない事なのに、男性に直接依頼するという奇怪な事をする輩に怒りを覚えてきてしまった。






「嬢ちゃん………………それ以上、我儘を突き通そうとするなら懲らしめてやるぞ?」







 その熟練とした冒険者の威圧が、バーを包み込んでしまう。それに恐れを抱く半人前の実力の人は震えるが、熟練とした客はそのまま酒を余裕で嗜む。





「その程度の圧で、私が恐れ慄く訳ないでしょ」






 ジェイは余裕で、真正面から男性を見ていた。自身の威圧で余裕で立ち尽くす女性に、段々と興味が湧いたのか真剣な眼をして会話を再開する。






「実力はそれなりにあるようだ。いいだろう…………話だけは聞いてやるぞ。やるかやらないかはリーダーに連絡してから決める」






 クラウンに依頼する中でギルドに基本を通すのが普通であるが、例外的な依頼が存在する。それはリーダーに直接指示されたり、了承を貰った場合にのみその依頼はクラウンが率いて行なっていいという裁定がある。






 その男性はクラウンリーダーに連絡して、その女性の依頼に対して内容次第では了承を貰う手筈をしてくれるようであった。それにジェイは、話を聞いてくれるような事に安堵して、依頼内容を話そうとする。






「ただ期待はするな。うちのリーダーは基本的に忙しい身だ。今日中に連絡がつかなった場合は、諦めてもらう。駄々を捏ねようが、我儘を言おうが、決まりは決まりだ。これを破ると、クラウンの信用問題になるからな」






 それについてはジェイはよく知っていた。しかし依頼する内容とかは関係なく、了承は確実に貰えるだろうとジェイは何故か確信していた。

二百ノ九話、最後まで読んでくれてありがとうございます



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