二百話 孤児院の管理者・・・
孤児院の中にグレイ達はいた。意外と教会をモチーフにしているだけにそこまで部屋数は少ない。ここに来るまでに悪魔と化してしまった子供達を葬っていた。普通なら発狂しかねないような辛い現実であるが一人は狼人族である為に、この程度の惨劇は別に何ともなかった。精神耐性とでも形容出来るような意志の強さがそこにはあった。
そして闇神龍様の方は概念的な存在である為に、精神的な摩耗という事自体が存在しない。精神がすり減ったり、肉体が疲れるといった抽象的な現象は、龍神となった龍達には関係がなかった。
しかしそれでも気分の悪さは変わらない。子供達を未だこの世に生を受けてから、そんなに時が経ってないのにこの終わりは許されるものではないだろう。悪魔を倒していく度に、グレイの顔色が曇っていってしまう。
「悪魔しかいないですね」
グレイは戦闘状態である雷獣形態を解かずに、闇神龍様に問い掛けた。グレイがずっと気配察知を、感覚を尖らせているが、人がいるような気配はなかった。
もしかしたら移動している可能性もあるとは思うが、そんな簡単に拠点を投げ捨てるものだろうかという疑問が生じる。しかし孤児院には既に子供達がいない。子供だったものの成れの果てならわんさか湧くように現れる。それが要するにここはもう用済みだったという事も推察出来る。
一体どれだけの子供達を実験に費やしたのか怖くもなる。何を目的にここまで子供達を使ったのか、信じられなくはなる。どうしてという感情と許せないという感情が行き来していた。
「そうだな。恐らくではあるが、隠し部屋若しくは地下室があるのだろう。悪魔の数を見る限り、孤児院にいるであろう数より遥かに多かった。つまり収容出来るような環境、空間がある筈だ」
グレイは持ち前の感覚で、匂いを吸う。そして子供の匂い、悪魔の匂い、来客者の匂い、管理者の匂いがあった。そしてほんの数時間前に大勢がここに出入りしているような匂いがあった。
「こっちですね」
そう管理者のニオイを辿るように、グレイが歩く。闇神龍様は、グレイのその行動に驚きを示す。それは最早、普通の狼人族の行うような感覚ではなかったからだ。それはむしろ幻狼族が行うような感覚の鋭さであった。
「グレイ、主は今はどれくらいまで匂いを遡れる?」
そんな奇妙な質問が、闇神龍様の口から発される。グレイはう〜んと頷きながら、確かめた事がない為に分からなかった。グレイ自身がここまで感覚が鋭くなったのは、初めての事である為に試すような場面もなかった。
「ここまで感覚が鋭くなった事がないので」
「ふむ」と闇神龍様は何やら考えを巡らしていた。このままグレイが成長をするとなると、かの最強種族の一角としてあった、幻狼族をも超えるような力が身につくのではないかと思っていた。
グレイが匂いを辿ると、そこは管理者部屋と書かれている場所に辿り着いた。そこの扉を開くともぬけの殻であった。ただ少なくともここに人が数時間前にはいたというような痕跡がある。
本棚が複数あり、窓の前には机だったりがある為にそこで書類整理などを行っていたのが分かる。それくらいの質素な空間であり、来客用に整備されていると言った様子はなかった。
グレイはそのまま本棚の前に行く。そしてまずは紫色の本を取り出す。そうするとカチッという音が鳴る。それが仕掛けが作動したという事を示した。次に赤色の本を取り出すのではなく、押していく。そうすると次の仕掛けが作動したかのように大きな歯車が回ったかのような音が鳴る。
次に部屋の窓側の東側の床を踏み締める。そうすると床にしていた木の板が下に動き出す。大仰な仕掛けに、グレイは驚きを隠せずにはいられなかった。これだけの仕掛けを作製するのに、どれだけの時間を費やしたのだろうか。
そして最後に机の引き出しを開ける。そこに光り輝くような魔石があった。その魔石は備え付けられているものであり、ただの装飾のような印象を受ける。しかしその魔石に魔力をグレイは込める。
そうすると机が動き出して、下に隠し階段が現れていく。グレイ自身はロマン好きである為に、こんな仕掛けがあるのは少しだけ嬉しくなってしまう。
グレイ達は暗い階段を降りると、そこは広い通路があった。扉が複数あり、どうやらここが組織が隠れ蓑にしていたが所のようである。空間接続魔法の類いであり、どこからでもこの拠点に行けるような仕組みのようである。
「結界より報告――――――――C区画で侵入者を検知。C構成員は即座に排除してください」
それにグレイは驚きながら、音響魔法で通路に響かせていく。その放送があるが、誰一人として騒ぎが起こる事がなかった。恐らく何かしらの大規模な作戦をしているようである。
それなら孤児院の管理者に聞くしかないようである。
そのままグレイは管理者の匂いの道を辿っていく。そうすると実験室を書かれている扉の前に来た。
グレイの気配察知からこの奥に人がいるのが分かる。それも一人だけであり、何かを待っているようであった。
その扉を開けると、そこには一人の男性がいた。若々しさがある二十代後半くらいの背の大きい緑の髪をした白衣を着た男がそこにはいた。
そこには血に塗れた手術台のようなものがあり、それで子供達を実験していたのはよく分かる。
手術台を取り囲むかのように鉄格子があり、そこには小さな悪魔達が複数収容されていた。
そして一番奇妙だったのが、この一室の全部の床に描かれている魔法陣である黒色の魔法陣であり、とても不気味な雰囲気を纏っていた。
「ようこそ、我が実験室へ。我が愛しい子達を踏み潰すかのように殺した鬼畜野郎どもよ」
愛しい子達ってこいつは何を言っているんだと、グレイは怪訝な顔をする。自身で悪魔に変えておきながら、それが愛しいという目の前の人物の狂気性をグレイは認識してしまった。
人が人でなくなって、悪魔として他者に害を為すように作り変えた目の前の存在は、グレイには理解が出来ない話だった。
「お前は、子供達をあんな姿にしているというのに愛しているという妄言を吐くのかよ」
グレイは怒りを交えて、毒を吐くようにしながら目の前の狂気の男に向かって言った。
男は意味が分かっていないかのように首を傾げながら口が開く。
「何を怒っている。愛しい無垢なる子達が、悪魔という神秘性を加えたいと思うのは、親心のようなものだろう。それの何処に間違いがあるというのだ」
その男はさも当然のような口ぶりで、グレイの質問に淡々と答えた。
その眼は真実しか語っていない事を、グレイは分かっていた。つまり本心からそれを口にしているのだ。それが当たり前だと。この男は、そう語っているのだ。それがこの男の常識であるのだ。
グレイは怒りのあまり、手を握る力を強めたばっかりに血が床に滴り落ちる。
「それの何処に親としての愛があるってんだよ。何処に子供達に救いがあるんだよ。悪魔にしてるのが正解みたいに言ってんだよ!?」
グレイは激昂していた。纏っている雷がバチバチと放電し始める。こいつには何を言っても無駄だと分かっていた。しかし言わないとグレイの気がすまなかった。
「救いなど必要なかろう。人など皆、悪なのだから。なら子供の無垢なる内に、悪魔という神秘的悪を付け加えた方が私は愛する事が出来るのだよ。その方が私も安心出来るからね」
グレイは電光石火の速度で、その男に拳を振るう。それには極限の魔力が込められていて、『雷神拳・ケラウノス』であった。
男はただ手を前に出すと、それを受け止めた。グレイの自慢の一撃を、意図も簡単に止めた。「は?」とグレイは驚きのあまり、停止してしまった。
「何を驚いている? 止める事なぞ造作もないぞ。ただの雷の一撃など、私には通用しない」
「そうそう。お近づきの印に、名前でも覚えて死んで貰おうか。私の名前は、デビス。デビス・デメラだ」
そう男は余裕の表情で、頭を下げて自身の名前を言ったのだった。
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