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八千職をマスターした凡人が異世界で生活しなくてはいけなくなりました・・・  作者: 秋紅
第六章 闘技大会の選手になってしまいました・・・
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百ノ九十九話 孤児院の病み

 ボロい教会のような建物が、目の前にある。恐らくそれが孤児院なのだと、即座に理解出来る。元々は本来なら教会であり、信心深い人が、管理者をしていたようである。






 とある教会の信徒がこの孤児院を作り、身寄りがなく、貧しい子供達を支援する目的で作られたらしい。教会を模しているのも、その影響である。






 そんなところが敵の組織の根城だとは、グレイには到底考えられない事であった。それに貧困街で、この孤児院は不可侵の領域として認知されている。ここは要するに貧困街の為に、貧困街を救う為に建てられた場所であるからだ。それを知っている貧困街の人々は、ここだけは不可侵の領域にしようという取り決めがされていた。






 だからこそ余計に不信感があった。何故に孤児院が組織の根城として、定義されているのか。どんな理由であり、どんな目的で、子供達を利用してくるのだろうか。






 そんな事をグレイは考えていると、一人の子供が孤児院から即座に出てくる。その表情は恐怖により歪んでおり、建物内で何かがあった証拠だった。






 すぐにグレイはその子供を認識したのを後悔する。……………………してしまったのだった。






 子供の姿が突如、歪んでいく。まるで肉体がもみくしゃにされて、肉体を再構成するかのようだった。そして子供だったものは、人の形は何とか保ってはいるものの、赤い肌に黒い角、眼が充血しているかのように赤く染まっており、そして後ろには尻尾のようなものがあった。






 奇妙な子供だった生物は、二人を認識する。そうするとその眼は、獲物を見つけたかのような嬉々とした表情を浮かべて、口からは涎が垂れていた。それは二人を食べ物、若しくは餌のようなものと認識したのだろう。






「ギギギギ、ギャキャキャギャ」






 子供だったものは、不快な鳴き声を発する。それは何か意味を伝えようとしているわけではなく、ただただ喜んでいるだけだった。その子供だったものは、悪魔のようであった。






「構えろ!?」






 闇神龍様は、グレイにそう忠告する。悪魔は、あり得ない速度でグレイに飛びかかった。しかしグレイからすると、普通に認識出来るような速度であり、余裕で回避する。






 雷の魔力を脚に集中させて、悪魔の横腹を思いっきり蹴る。そして横に飛んでいき、悪魔は黒い血を吐く。それは間違いなく、人という存在からかけ離れてしまった悪魔だった。







「ギー! ぎ!? ギギギギギギギギギギギギギギ!?」






 悪魔は自身が傷ついたにも関わらず、笑いが止まらなかった。興奮が抑えられなかった。悪魔は踊るかのように、地団駄を踏んで喜んでいた。





 悪魔は高密度に魔力を圧縮させる。それを口からビームのように放出した。赤く輝く極太のこの熱気の一撃は、後方にある建物を全て、焼け野原に変えていく。二人は身を屈めて、何とか回避した。







「ギ〜!?」と建物が炎に包まれていくのが、どうやら心地いいようだ。いい景色に見えるようである。何つう危ない生物だよと、グレイは唖然とする。







 人とは完全に相容れない生物が、生命体がそこにはあった。何がどうやって、こんな生物を作ってしまったのか定かでは無い。ただ言えるのは、この孤児院の子供達は既にやばいという現実であり、組織に対する敵意を強める結果となる。子供を実験体に使い、悪魔化をさせていたという事になる。






 人という存在を変えて、悪魔という害悪に変えた。それがどれだけの非業であり、非情であろうか。グレイは怒りのあまり、唇を噛み締めて、雷の魔力を迸らせていた。







「闇神龍様、人族って、こんな許されざる行いをする奴もいるのか?」






 グレイは部族の隔絶された空間に身を置いていた。だからこそ人族という存在が、どのような悪行を行った事があるのか、聞かされているくらいであった。しかし聞くのと見るのとでは、まるっきり何もかも違う。







 それを見てしまい、それが現実として認識してしまった。それがグレイにとって、人族は同族でもこんな有り得ない悪行を行えるヤバい存在もいるんだと、再認識する事になる。






「………………あぁ、人族というのはな、目的の為なら手段を選ばない奴も多い。ここの孤児院の管理者は、本当にいい趣味をしているな」






 闇神龍様もその光景に怒りのあまり、膨大な龍の魔力がそこら中に広がっていく。しかし悪魔は怖気付く事もなく、強い者がいるという事で喜んでいた。






 知能と呼ばれるような感覚はその悪魔にはなくて、ただ本能にのみ動かされているようである。普通なら力量の差を、認識する筈であるが、それがその悪魔にはなかった。どんな生物でも龍種の怒りを認識したなら、逃げ出す事だろう。





 しかしその悪魔はそんな事がない。つまり知能なき本能は、ただ強い者が来たとして喜ぶしかないのだった。







「……………………悲しいな。本当に悲しいですね」





 本当に何故、こんな事が行う事が出来るのか。理解すら苦しむ現象に、ただグレイは憐れむしかなかった。同族をそんな簡単に、自身の目的で利用出来る事の低度の低さに苦笑するしかない。






 グレイは雷獣形態になる。雷を身に纏い、獣のような形を取る。二足歩行から、四足歩行へと変わり、手を地面に付ける。そして脚に力を込める。







 グレイはそのまま電光石火の速度で、悪魔に近づく。悪魔はそれを認識する事が出来なかった。グレイの右手に雷の魔力が込められていく。それは雷の爪を形成して、それが悪魔に縦に振り下ろされた。







「ギ? ……………………ギ…………………………ギ………………ギ…………………………」






 悪魔は何が起こった事すら、認識出来ずに意識が絶たれていく。そこにあったのは虚な眼をしている悪魔の眼の姿であった。グレイは無表情で、ただこう呟く。






「すまない」







 ただその一言に、決意のようなものがあった。恐らくそのまま野放しにしていたら、貧困街が終わりを迎えてしまいかねない。だからこそこれは最善策であり、子供だったものにとっては救いとしてなるだろう。






 しかしそれはグレイの自己満足であり、ただの罪悪感に苛まれない為の自己暗示に他ならない。子供だったものを殺したという事実は変わらない。悪魔に変わろうと、幼き命を手に掛けた事実は変わらない。






 グレイはそう考えると首を振りながら、即座にさっきの考えを切り捨てる。そして幼き命を手に掛けたという事実を再認識して、その罪を背負う事にする。






 これをやらかした組織を潰す決意が、きちんと固まっていく。組織を潰して、この子供の罪滅ぼしであり、贖罪になればと思った。






 悪魔は地面に倒れると、霧散する様に消えていく。恐らく魂を変質させて、魔力体へと変えた影響であろう。魔力により再構築された肉体は命が潰えると、霧散して魔素へと変わる。






 孤児院から続々と、悪魔へと変質した子供達が飛び出てくる。そこにあったのは地獄そのものとすら、思えるようなそんな眼を覆いたくなる光景であった。






「大丈夫か?」






 闇神龍様は、グレイの精神面を心配する。普通に考えれば、心がやられていくような出来事である。一般的な感覚なら、発狂しかねない事である。






 しかしグレイのその怒りに満ちている顔をして、闇神龍様は即座に察する。これなら心配いらないだろうと。むしろ逆に志がきちんと固まってしまった事で、グレイは感覚が今までより遥かに鋭くなる。






 今まで感じた事のないような、感覚が出てくる。それは未来予知のような特殊能力とすら思えるような感覚であり、それがグレイを突き動かしていく。







「すまないな。この罪は背負っていく。ずっと、生涯を掛けて」






 ただ淡々とその言葉が、グレイという存在を紡いでいく。

百ノ九十九話最後まで読んでくれてありがとうございます



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