十八話 悪役組織ってどの物語もいるらしい・・・
そして俺は村へと戻ると、村長が村の入り口で待っているのが遠くから見えた。俺が手を振ると、返してくれた。やはり優しい村長だなと俺は思った。
俺が村長さんに近づいたその時、俺は違和感を感じた。なんかワイバーンの所に行く前の村長さんとは、なんか違っているような気がした。どうにも眼がなんか違うような、行動が、感覚的にそんな気がする。
「なんだ…………この違和感」
そんな事を思いながら、村長に近づいた。実力的にも、信頼していた相手だし世話になった人だし、気のせいという事で大丈夫だろう。
「ありがとう。この村を救ってくれて」
そんな事を村長は言いながら、手を差し伸べてきた。やはり変わらない村長だなと思い、俺も手を差し出して手を合わせて握手する。
「いえいえ、頼まれただけなので」
実際、村の危機というのは、本音で言うとそれなりにどうでもいい気がした。しかし村長さんがあんな感じだったという事もあり、つい言ってしまっただけである。意図しない頼まれ事というより意図しない感じで自ら言ってしまっただけだ。自業自得なので、必死に対処しただけだしな。
「ではありがとうの気持ちで、死んでください」
村長は左手にナイフを持ちながら、俺に振り下ろしてきた。
そのナイフは大事にしていた料理の道具でしょうに。こんな汚い使い方する為の物じゃないですよ。
操られているというより、精神汚染の状態異常な気がするな。
確かアースガルドだと、味方、敵関係なしに無差別に色んなスキルで攻撃されるものだったっけ。この世界でもこの効果なのか、わからない所だが。
そんな状態な気がする。なんていうか狂気に苛まれているような言動もさっきしていたし。
すみませんが、村長さん眠っていてください。
「反撃麻痺」
ナイフを振り下ろすと、俺に届く事はなかった。だってその前に、村長さんは麻痺して気絶して倒れてしまった。
さてと、どうしようかね。この精神汚染をした奴を探さないといけない。
う〜むと俺は首を傾げながら、考え込んでしまう。
あっそういえばあのスキルがあった。
「合技スキル 解析探知」
解析という中級スキルと探知を合わせたスキルだ。
解析というのは、アースガルドでは相手や敵対者の所有スキルや能力などの情報を、読み取る事が出来る。一見相手の全てが分かるような汎用性高いスキルに思われるが、致命的な弱点があり、それは自らに嘘の情報を流されやすいというのがある。例えば、反射情報や嘘の報告がある。
要するに相手がどれくらい解析に対してのカウンタースキルを使っているのか定かじゃないので、そもそもそれに対してもカウンタースキルを使うリソースを使うより、情報を推測する方が、俺の性に合っていた。
今回は、なぜそんなデメリットのあるようなスキルを使ったかというと、炙り出す為だ。
俺の予想だと、スキル行使が出来るということはカウンター系のスキルも使っている可能性があるからだ。それに使ってない場合でも、情報を把握する事が可能ので見つける事が出来る。
おそらくこれを起こしたのは、一人か複数人かも把握する事は、可能だ。それにカウンター系スキルを事前に発動していたら、PC。つまりアースガルドの人間である可能性も出てくる。事前に発動するのは、アースガルドの定石な手段であるからだ。
さて探知出来る範囲は、数千メートルに及ぶ。しかし今回はそこまで遠くに行ってない事も見越して、数百メートル圏内にした。理由は探知範囲を広げる度に、MPを消費してしまうからだ。リソースを今削るのは、下策だろうと考えた。
「いたな」
普通にこの元凶の原因が家に居座っていた。それもカウンタースキルを発動せずに。PCの可能性は低い事だろう。
「超級スキル・幻狼」
このスキルは、探知したり、位置が分かっている敵対存在の所に、瞬時に移動するスキルである。確か、職業は超級職業、影暗狼という奴だった気がする。
そしてワープしたら、呑気に飲み物を飲んでいる奴がいた。どうするか。捉えた方が賢明だろうか。情報も不足気味だし、尋問しよう。うん。
そしたら……
「上級スキル・縄縛鎖」
MPを使い、鎖が縄の様に絡み合っているものが出来、それを相手に縛るように拘束しようとした。
俺がいる事をやっと察知したのか、危機感を覚えて、移動最上級スキル・特定転移を使った。これは特定の設定した場所に瞬時に移動するスキルである。そしてMPの消費も移動系スキルの中で、一番低い。つまりPCである可能性があるという事だ。
しかしそれはそれとして初心者の奴がする事だな。
「上級スキル・離脱脱却」
こいつの家の周辺の移動転移系のスキルは封じた。逃げられたら面倒臭いからな。
そしてその男の風貌は、朱色の髪色で、朝ご飯の時に、最後列にいた男性だった。それのだいぶ年若い男性だった。
「何をするんだ!?」
彼の両手、両足はさっきの拘束スキルで拘束させてもらった。
「お前、スキルを使おうとしたな」
男はキョトンとした顔をしながら、とぼけた。少し苛ついたので、一発殴った。その衝撃で、男の歯が一本折れた。俺が無感情で殴ったのを、少しビビった様だった。
「本当に……本当に、なんも知らないんだ!?」
白々しいな。俺は言葉を発する事もなく、もう一発殴る事にした。さっきは右頬だったから、今度は左頬にしよう。バランスを考えるなんて、俺はなんて優しいのでしょう。
それにより、歯が何本も折れた。少し加減をミスってしまったようだ。反省する所だな。とりあえずこいつが『喋る気』になるまで、殴ろう。
世話になっていた人を操作するなんて碌でもないからな。碌でなしなこいつは早めに対処しよう。
しかしこいつに数十回殴っても、何も喋らなかった。尋問の訓練でも、してるのかよ。
もう面倒臭いので、直接情報をスキルにより開示してもらおう。
「上級スキル・情報吸収」
俺は男の額に、手を当てようとした瞬間、男の様子が変わった。空間から、突如本のようなものが現れる。
「第三節・裁きの槍刹」
おいおいおい! なんつうスキルを行使しようとしてるんだよ。その本から、神々しく、それでいて圧倒されそうな槍が飛び出す。それ、神級スキルだぞ。村どころか、この森一帯消す気がこいつ!?
「合技スキル・神々しく華やかな壁」
俺とこの家全体に強力無比な結界を構築した。これは、神聖属性スキルを、極限まで威力を弱めるスキルだ。
「私の神聖書を、防ぎましたか。別に私が肉体的に死ぬのは、構わないですが記憶を見られるのは好きではないですね。私が関与せずに、神の子の回収をしたいと考えていたのですが、難しそうです」
神の子とは、俺のことか。いやPC全体の事を、この世界ではそう言う可能性がある。それにあの本は、異能力保存書か。しかしあれは、直接スキルを行使するもんじゃなくて、あくまで使う事で、自らのスキルにするだけの使い捨ての代物だろうが。ただこの世界では、また変質してそんなアイテムになってしまったのか。分からないが。
「私達の組織は、神の身技を回収することが目的でしてね。その為にも死んでくれたら、好きになれそうです」
神の身技ってスキルの事か。つまりさっきから使っていたスキルは、別のPCから強奪したスキルか。人が苦労を重ねたスキルを、使いやがって。
それにしても組織って事は。要するに、アニメとか漫画とかのバトル系の奴によくある悪役組織ですか。いざ目の前にすると、腹立つ事この上ないな。
「第二節・辛き鐘」
精神異常を引き起こすスキルだな。原因はこれか。最上級スキルの一つで、男の頭上に、大きな鐘が形成される。それが鳴ると、衝撃波と共に、脳内に嫌な感覚が渡る。
ただ俺には、スキルを使わなくても関係なかった。
「なぜ!? 何故、貴方は効かないんですか!?」
男は動揺した。防護系スキルを使った痕跡がないから、余計そう見えるようだ。
「だって俺は、精神異常者だからね」
そして俺の眼は黒く染まった。
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