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八千職をマスターした凡人が異世界で生活しなくてはいけなくなりました・・・  作者: 秋紅
第六章 闘技大会の選手になってしまいました・・・
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百ノ八十一話 頂点に向かう戦い

熟練とした剣士と、重武装に身を包んでいる男性、対するはレイピア使いの女性騎士と精霊術師という珍しい力を扱う精霊騎士であった。






 こんなに興味のそそられるような戦いが、そこにはあった。妙な緊張感をお互い走らせながら、黒鳥の開始の合図を待っている。そして開始の合図をした瞬間、彼等はすぐさま行動に移す事だろう。






 息を詰まらせながら、冷や汗を垂らしている。それが彼等には異様な空気を、より加速させる。そして観客席にいる皆が、戦いの火蓋が切って落とされる時を、今か今かと待ち遠しくしていた。息を飲みながら、会場にいる四人を観ていた。






「それでは闘技大会、第一戦!? 開始!?」






 黒鳥がそう手を上から下に振り下ろして、それが開始の合図となった。大歓声が、観客席から響き渡る。それが興奮となり、直に肌から脳に痺れるように染み渡る。やはりこの空気は、いつもとは違う感覚であった。





 まず最初に飛び出したのは、刀を持っている剣士であった。鞘に一旦、刀を納めると神速の速度で、レイピア使いに突撃する。剣士は、そのまま鞘から刀を滑らすように抜くと、神速の居合いとして飛び出した。確実に戦闘不能になるほどの一撃が、そこに凝縮されていた。






 しかしレイピア使いは、なんて事ないといった様子であった。そのままレイピアを突き出した。可憐であり、優雅な戦いがそこにあった。レイピアと刀がぶつかり合う。それは刀の渾身の一撃の威力を、レイピア一つで完全に相殺する。剣士はそのまま息を吸いながら、下右斜めから斬りあげる。それも完全に、レイピアで相殺する。







 精霊術師はそのまま、手を前に掲げる。そうすると風が刃の形に形成されていく。






「ウィンド・ブレイド」





 それが無数に生成されて、剣士に風の暴力として襲い掛かる。重騎士が魔力を込めて、地面を思いっきり踏み締める。その瞬間、地面が剣士の目の前に周囲に囲む様に護る。それが風の刃を完全に防ぐ結果となった。






 剣士はそのまま土の壁を飛び上がるように跳ねて、刀に気を込める。レイピア使いに狙いを定める。






「気刀・水蓮」






 音も何も無く、風を斬る音だけがそこにあった。まるで水面に何一つ、揺らぎがないような静けさであった。気で形成された斬撃がレイピア使いに無音の中、飛び出していった。






 レイピア使いも、レイピアに火の魔力を込める。それが豪炎となり、レイピアでその斬撃を焼き尽くすかのように振り払う。そして精霊術師は、特大の魔力を解き放つ。風の精霊が主人であるその女性を、助けるように寄り添っていた。







「ヒート・ヘイズ・ハリケーン」






 レイピア使いの残っている炎の力を利用して、特大の竜巻がその場に形成されて、砂塵を巻いていく。それは暴風であり、身を焦がすような熱風が、会場を釘付けにしていく。







 剣士は強く刀を握り締めて、目の前の竜巻だけの対処を見据える。刀を鞘に納めながら、腰を低くする。そして自らの手から流れるように気を溜める。







「気刀・絶風」





 刀が鞘から解き放たれた瞬間、竜巻は斬り裂かれるように霧散していく。あの規模の竜巻を意図も簡単に、斬り裂く芸当に会場は歓声に包まれていく。 






 そしてそれに集中していたからか、重騎士が後方にはいなかった。いつの間にか精霊術師の所にいて、巨大な槍を携えていた。





巨岩の突槍グレイト・ロック・スピア






 槍には巨大な岩が巻きつくかのように纏っており、それが精霊術師に巨大な岩石の槍となりて重騎士は振るう。精霊術師は間合いに詰められた事に驚きながらも、冷静に魔法式を構築する。手を前に掲げながら、眼を閉じる。






「冷切なる風を・しらべときなるに伝い・今その場に・暴風となりて・巨砲となりて・眼前にいる巨岩を裂き砕け!? シュトゥルムヴィント・カノーネ」





 膨大な風の魔力が手に集中して、そしてそれは重騎士に襲いかかってきた。暴風が地面を削りながら、ただ一直線に大砲のように重騎士に向かっていく。しかし巨岩は打ち砕けずに、そのまま重騎士は突撃していく。






 勢いを強めようと、魔力をそれでもかと言うほど込めて威力を高めていく。しかしその巨岩の槍が、壊れる事などなかった。そのまま重騎士は、巨岩の槍が精霊術師に当たった。精霊術師は何とか風の護りにて威力を弱めたが、それでも盛大に吹き飛び意識を手放した。






 それに驚いたレイピア使いは呆気に取られてしまう。その隙を剣士が見逃すなど、ある筈もなかった。






「気刀一文字・白羽」






 静かであり、無音に横に一直線に斬り裂く。レイピア使いは何とか爆炎を左手に形成して、振り払うかのように炎を繰り出す。






「バーニング・ウォール」






 剣士はそのまま後方に下がり、爆炎を避けるかに思えた。しかしそんな事はなかった。






「気刀一文字・断峰」






 剣士は刀を両手に持ち、天高く掲げるように刀を上げる。そして右脚を大きく一歩踏みながら、刀は地面に向かって、振り下ろされていく。それは山を真っ二つにする一撃であるかのようであった。






 巨大な斬撃が無音のままに爆炎の壁を難なく斬り裂き、レイピア使いに山を斬り裂く一撃が襲いかかってくる。レイピア使いは息を飲みながら、レイピアを強く立ち向かうかのように前に突き出した。






 しかしそれでも威力が足りなかったのだろう。レイピア使いはそのまま吹き飛んでしまい、壁に激突して意識を失った。






「勝者!? アデリド・ウォール、ジロウ・スナガ!?」






 黒鳥が前に出て、勝者の宣言を行った。お互いに一歩も引かない激闘に、俺は息を飲むしかなかった。それが闘技大会なのだと、今まさにこの激闘を観て、実感するしかなかった。






「何か、凄かったですね………………」






 俺は隣にいるイレスさんに問いかけるようにして言った。どうやらこの興奮はイレスさんも同様であり、口元が少し緩んでいた。冷静そうなイレスさんでも、やはりあの激闘には何か魅せられるようなものがあったのだろうか。






「そうだな。ここまでハイレベルな戦いだとは、思いもしなかった。これじゃ、簡単に勝つのは難しそうだな」






 それはそれで激戦を繰り広げられるから、楽しみが増えて仕方ないな。その一戦を観て、俺の闘技大会というイベントに対する期待は上がっていった。






 それにしてもイレスさんは、何が目的で闘技大会に参加しているのだろうか。行商人だから国の為の栄誉とか、そういうのは関係なさそうだしな。それに名声を得るような感じでもないし、何かあるのだろうか。






「そういえば、イレスさんは何で闘技大会に参加されたんですか?」






「ん?俺か? 俺はだな………………」






 何か考え込むようにしながら、イレスさんは頭を抱える。何か言い難い事なのだろうか。行商人としての信頼を、この闘技大会でも勝ち取りたいとか、そういうのだろうかとも考えていたんだが。






「優勝者には宝物庫の中から一つ、好きな物を貰えるらしいんだ」






 マジ? そんな話、一つも聞いてないんだが。いや俺が聞かなかっただけの可能性があるか。確かに名誉だったりなどのそういうのだけだと、ここまで集まる訳もないもんな。物欲あっても人間である。







 ただイレスさんからしたら、物欲に負けて参加してしまったというのが言いにくかったのだろうか。それはそれで、仕方ない気がするんだがな。






「それで俺が欲しいのがあってな。天人神(あまびとかみ)戦杯(いくさはい)というものなんだ」






 確かオーパーツの一つとして、有名な代物だっけか。仕組みも、仕掛けも一切分からない、奇妙な代物であるんだっけか。金の杯の形をしているが、その実は天人神という神の一族が作り上げた劇物だとされてらしい。災いを起こすとも、願いを叶うとも、身を滅ぼすとも、色々な伝承があるものである。といっても仕組み一つも分からないし、魔術的仕掛けも複雑怪奇過ぎて、ただの杯とされているのが昨今の定説となっている。






「オーパーツ収集が、趣味なんですか?」






 イレスさんの見た目からは、あまり想像出来ない趣味であった。やはりこういうのでは、見た目からは予想出来ないものであるな。オーパーツ収集とは、また奇異な趣味だよな。







「そうだな。行商人をしているうちに、そういう不確かな代物を集めるのにハマってしまってな」







 あ〜、仕事をして色々と周っているうちに、好きになってしまった感じか。俺は意外なイレスさんの趣味を聞いたところで、第二戦が始まろうとしていた。

話百ノ八十一話、最後まで読んでくれてありがとうございます



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