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八千職をマスターした凡人が異世界で生活しなくてはいけなくなりました・・・  作者: 秋紅
第六章 闘技大会の選手になってしまいました・・・
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百ノ七十四話 選手による開会式・・・

 そんな話をアデリ先輩としていると、シャンデリアの照明が暗くなる。光源魔道具が故障した訳ではないようだ。どうやら開会式が始まる合図のようだ。






 そして大広間の奥の壇上が照らされていく。そこには青髪の騎士がいて、どうやら彼が司会進行のようである。何というか糸目であるせいで、それにあまり表情が胡散臭く感じるのは、何というか物語の読み過ぎによる固定概念であろうか。それに実力は相当高いのは、見て分かる。






 まるで見定めるかのように見渡した後、口を開く。それにこの広さでも、この騎士にとっては攻撃範囲のようだ。それなりに広い間合いを持っている人物は、それだけで強い。






「初めまして、今日は闘技大会にお集まりくださり、ありがとうございます。ワタクシ、リスー・テプスと申します。以後お見知りおきを。一応は、トーラス騎士団第二軍、軍団長をやらせてもらっております」






 どうやら軍団長だったようだ。だからこんなに圧が強くて、実力も強そうに見えたのか。納得のいく話である。真隣にいるアデリ先輩が驚いた様子で、リスーさんを見ていた。







「どうしたんですか?」






 俺は気になり、アデリ先輩に聞いてみた。見た様子だとこのような場所にあの人がいる事が、珍しいといった話だろうか。確かにそういう賑やかな所にいそうな感じの人ではないな。







「こんな所にリスー軍団長がいるなんて………………!? 久しぶりに見た気がするな」






 どうやらアデリ先輩でも、見るのは久しぶりのようだ。それだけ長年、表舞台に出るような人ではないようだ。それにあのアデリ先輩の眼は、煌びやかであり、憧れに似た何かを抱いていた。






「へぇ〜、確かにこういう所は苦手そうな人ではありそうですね」






 そんな風に話していると、敵意と殺意の重圧に似た視線を感じる。俺はその視線の方向を振り向くと、リスーさんが俺を一瞥していた。俺何か、この軍団長に悪い事でもしただろうか。いやこの感じは、もっと別の何かだろうな。






「何で俺の方向を凝視してんだよ。こぇ〜よ」





 俺はその恐怖の視線のあまり、顔を反らしてしまう。何であんな殺意を発しているんだよ。騎士が出していいオーラじゃないのであるが。俺は会った事すらないし、面識はない筈なのだが。





 そうすると冒険者時代の俺を知っているか、それともトーラス王辺りから俺の事でも見聞きしたのだろうか。だからって殺意を抱かれるような心覚えは一切皆無なのだが。






「俺が何をしたって言うんだ………………」






 俺は白い眼をしながら、そう呟く。それを聞いたアデリ先輩は、口を開く。






「あの軍団長って、あぁ見えて、戦闘狂らしくてな。だからじゃないか。一回スイッチ入っちゃうと、戦いの手をやめられないらしいぞ」






 だからか。トーラス王やアライさん辺りから聞いてしまって、俺に興味と戦闘の欲求が上がってしまったのだろうか。だからって殺意まで、俺に向ける必要性が何処にあるというのだ。






「随分、詳しいですね」






 俺自身が世間知らずな部分があるにはあるが、それにしてもアデリ先輩が詳しいような気がした。将来はトーラス騎士団団長でも目指しているのだろうか。






「トーラス国の騎士団って、特に軍団長って強者揃いだからさ。俺の戦闘のヒントにでもなるかなって思ってね。調べ尽くしたんだ」







 アデリ先輩の尋常ではなさそうな努力の背景には、トーラス騎士団の情報まで収集していたようである。本当に才能があまり無く絶望に浸る事なく、努力を続けた精神力を見習いたいものだ。






「それではトーラス騎士団団長アライ・ルナク様、お言葉を頂戴します」





 リスー軍団長が壇上の端の方に移動して、アライさんが壇上の近くの扉を開けて歩いてくる。本当にアライさんって、強者揃いの騎士団の中でも最強に位置している人物なんだなと、これを見ると思ってしまう。






「闘技大会に参加される皆様、こんにちは。今日は晴天であり、気持ちのいい日を迎えました。このような催しに参加される皆様は、大なり小なり実力を認められた猛者であります。切磋琢磨し、尋常ならざる研鑽を積み、それだけでは飽き足らずに強さを追い続けている人達です。私もそれに関しては同様です。そしてその実力をこの場所で、切磋琢磨した事実を、『現実』として観客に見せつけてください。皆様はその資格、権利を得ました。研鑽された事実を披露するキップを、掴んだのです。だから頑張ってください。以上です」







 それは力強く、そして説得力のある人物の言葉であった。アライさんがどれだけの研鑽を積んだのかが、この言動で少なからず見えてきたようであった。トーラス騎士団の団長になるくらいに、実力を高めてきたのだろう。







「ありがとうございます。それでは、参加者代表のお言葉、ムディナ・アステーナ様お願いします」






 ん? ん? 何か聞こえてはいけないような名前の人物が聞こえた気がするぞ。どうやら同名の人がいるのだろう。俺では一切ないんだ。そうに違いない。






 というかもし俺だったら、事前連絡が必ずいく筈だしな。そこら辺、手抜きするようなものじゃないだろう。だからその名前は、違う人物である。






「もう一度言います。ムディナ・アステーナ様、宜しくお願いします」






 リスー軍団長の声色が一瞬にして、豹変した。マジで殺気を放ちながら、俺の事を凝視している。うん、ガチでどうやら俺のようだ。







 事前連絡無しに、代表の言葉をここに言えってか。鬼畜だな。トーラス王かアリテリス先生の仕業か。いや二人ともなんだかんだ言って、人情のある人間であるのは確かである。だから可能性があるのは、トーラス王の右腕である黒鳥か。またあの爺さんの仕業か。最早俺に何か恨みでもあるのだろうか。







 俺は渋々と歩きながら、壇上へと上がる。上がりたくないという気持ちを押し退けて、壇上の中心へと足を運ぶ。リスー軍団長の殺意のある視線があるせいで、反抗する気すら起きない。マジで糸目が怖いんだよな。何であんな濃密な殺気を放てるんだよ。何人、殺害しているんだよ。






「え〜と………………う〜んと………………」






 何も言葉の準備をしていなかったのだから、言葉が詰まるのは仕方のない現象である。むしろ壇上へと上がっただけ、俺は凄いと思うんだ。自画自賛しても、誰にも文句言われないと思うんだ。






 いいや………………もう吹っ切れよう。そうした方が、幾分か肩が楽になる。






 俺はここで、龍剣をゆっくり引き抜く。そして大広間にいる参加者全員に、剣先を向ける。それが対峙を意味する仕草だと、勘の良い実力者は気づくだろう。






「この龍の剣に誓って、俺は誰にも負ける事を許さない。ただそれだけの事だ」






 俺は魔力と気力を全開まで解放して、殺意と敵意を大広間全体に発する。それだけであるが、それが部屋全体をまるで振動するかのように錯覚するくらいの重圧を俺は発する。






 俺のその重圧に、文句を言える存在は皆無だった。たった負けない、それだけのシンプルな言葉である筈なのに、それを鵜呑みにするしかないような実力者がここにはいた。






「以上です。これでいいですよね?」






 そもそも無理矢理な事を自覚してほしいものだ。それ以外の言葉を絞り出すのは、俺には厳しいものがあるしな。出来れば飲み込んで、俺を壇上から下ろしてくれ。






「ありがとうございます。それではトーラス王直々から、闘技大会のルール説明とお言葉を頂戴します」






 俺はホッと胸を撫で下ろして、壇上から急いで降りる。何か吹っ切れて、途轍もない事を口走ってしまった。そうすると重圧が消えたようであり、大広間全体の空気が一斉に和らいだ。

百ノ七十四話、最後まで読んでくれてありがとうございます



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