十六話 ワイバーン軍団は面倒くさいようです・・・
そして中級のリーダー格のワイバーンが、けたたましく咆哮をあげると、下級のワイバーン共が俺の周りを旋回し始めた。
どうやらリーダーの指令だったようだ。グルグルと俺の周りを周って鬱陶しい事この上なかった。ようやくワイバーン共は臨戦態勢になって本気で俺を潰す気のようだ。
そしてリーダー格のワイバーンが俺の真上からブレスを放つと、周りのワイバーンも一斉にブレスを吐き出した。
周囲を塞いで、逃げないようにしてブレスで一気に仕留める考えか。成程ね。
野生らしい最もらしい動き方だな。しかしそれでも、知性があるとは言えないな。
「合技スキル 吸収天源」
属性特技や魔法を吸収して、自らの身体能力に還元するスキルだ。
俺の周りに淡い霧のようなものが立ち込める。それが一気にブレスを吸収する。
そして身体能力が上がる事を、自分で実感する。
そして俺はひとまず目の前にいた下級のワイバーンに瞬時に飛ぶ。
(上級スキル・痛天活脚)
そしてワイバーンの真横から、蹴りを繰り出す。その瞬間、下級のワイバーンが勢いよく森に激突し、気絶した。
「まず、一匹」
そう俺はボソッと言う。なかなか面倒くさい相手だが、対処法もしっかりあるのでそこまで苦戦はしないだろう。もう一度言うが、面倒くさい事には変わらないが。
それを見たリーダー格のワイバーンくんはキョトンとしだした。自分より一つ位の下だが、それでも一撃でワイバーンが沈んだというのは初めての現象だったようだ。
それに驚くのも無理はない。俺だって驚く。下級といえど、現代で言う所の戦闘機のようなものだ。それが一撃で、人の蹴り一つで沈んだなんて言っても信じないし、見たら見たで唖然として数秒、棒立ちするだろう。それが今、リーダーワイバーンくんに起こっている事なのだろう。
「お主――本当に、人間なのか?」
ワイバーンは唖然としながら、俺に言葉を発した。
人間には変わりないんだけどな。ただ強いだけで、ただ死にたくないような、ただの凡人なのだが。
「人間だよ。ただの凡人だ」
「お前のような凡人がいて、たまるかよーーーー!?」
ワイバーンは何故か俺が凡人である事を否定した。あれやこれや否定するのは、如何なものかと思うのだが。
そして下級のワイバーン君たちは、俺に接近してこの炎や氷を纏っている爪を、俺に振り下ろした。
なんかファンタジー系でよくある、めちゃかっこいいドラゴンの攻撃だな。それが今や、生で見られるなんて眼福だな。
(中級スキル・双蓮防壁・属性)
そして俺は、その二匹のワイバーンの爪を手で受け止めるかのようにかざす。そしたら正六角形が繋がった薄い防壁が二つ展開された。片方が赤くなっており、もう片方が青くなっていた。それぞれ火と氷の属性に耐性のある防壁である。
ワイバーン達は、爪が防壁の向こう側の俺に届かなかった。
そしてワイバーン達はまたその時、隙を見せたので横からまた今度は拳を突き出す。
「天拳」
正拳突きの要領で、ワイバーンに拳を出した。その瞬間、一匹のワイバーンが遠く吹き飛ばされて、森に落ちて行った。
「それで、まだやるか? 今なら見逃してやるぞ?」
俺はそれ以上ワイバーン達を殴ったり、蹴ったりするのが面倒くさくなってきたので、リーダー格のワイバーン君に逃走を促そうとした。
「下等生物が…………。調子に乗りやがって。我等には使命がある。逃げる事など許されない。使命が達成出来ないなら、ここで死んだって構わない!」
下等生物っておま……。俺より弱い癖に何ほざいてんですかね。細切れにしますよ。最悪。ワイバーンの肉とか美味しいのだろうか。でもなんかギチギチしてそうだが。
それと俺が一番気掛かりなのが、別にあった。俺が一番許されない事を、口にしやがった。
「お前――――何かを成し遂げる為に、死んだって構わないと言ったな。死んだらなんも残んないんだよ。生きて、生きまくるのが生物なんだよ。生きてる存在なんだよ。何かを成し遂げる事なんかより、生きる事が達成出来ればそれでいいんだよ。死ぬ事なんて許されない。あんたは最早弱者だ。死ぬ事しか前を見えない弱者だ。だからあんたのその考えは、間違っている」
俺には理解が出来ない、考えだった。死ぬ事に自ら意味を見出す理由など、俺には分からなかった。
生きてなんぼの人生だ。死ぬくらいなら、生きろというのが、俺の座右の銘ですらある。
だって死んだら悲しむのは、周りなんだから。
「お主、我等をそこまで愚弄するか。いいだろう。貴様には、我直々に死を与えてやる」
こいつらはあれか?武士道精神でも備えているのか?理解に苦しむな。本当に。
なんかリーダー格のワイバーン君がやる気出し始めたし。より面倒くさいな。早くお帰り頂かないかな。
そう言いながら、リーダーワイバーン君はまるでジェット機のようなスピードで瞬時に俺との間合いを詰めた。
いやいやいやマッハレベルのスピードとか生物が出していいスピードじゃねぇよ。何考えてるんだよ。
でも流石、一つ位の上のワイバーンと言ったところか。
そしてそのリーダーワイバーンは爪を振り下ろした。俺には擦りもしない距離からだ。
しかし俺は炎に切り裂かれた。斜めから真っ二つに。
リーダーワイバーン君は、勝利の余韻に浸っていた。
「ふん! 他愛もない奴だったな。我等を愚弄したからだ。罰を受けろ」
「なぁ〜にが他愛も無いだ。きちんと見ろ。俺を」
流石のワイバーン君もキョトンとしていた。それもそうだろう。だってさっき実際に、斜めに炎の爪で切り裂かれたのだから。
痛かった。激痛だったよ。本当に。すぐ回復したけど。ていうかこの世界に初めて来てのダメージなのでは。受けたくなかったけど。リアルだから激痛だし。HPストックも一つ減ってしまったし。
「とりあえず、痛かったから。お返しだ」
俺はワイバーン君の頭に蹴りを一発ぶち込んだ。そしたら吹き飛ばされそうになるが、なんとかワイバーン君は堪えた。
流石だな。一発当てたのに、普通に耐えるなんて。余程、下級と中級では実力の格差があるようで。
しかし俺はまたワイバーンの頭に、五連撃の拳を叩き込んだ。
(五連烈弾)
これで気絶して欲しかったが、なんとかワイバーン君は意識を保ったようだ。
いやいや、お前はボクシングとかプロレスラーかよ。別に早く気絶しろよ。面倒くさいな。
しょうがないな。効くか分からないが、あれをしてみよう。話を聞く限り、ワイバーンの鱗とは、魔法などをある程度弾く性質があるようで。
だからこそあまり魔法は扱えなかった。
「精神奪取」
俺はワイバーンに向けて手を翳した。その瞬間、ワイバーンが、力を無くして森に落ちていった。
どうやら効いて安心した。これのスキルの効果は、MPを半分以上失わせて、気絶のバットステータスをもたらすもの。
しかし魔法の類であるので、効くのか少し心配してしまっていたが、ちゃんと効いたようだ。
そしてリーダー格のワイバーンが、気絶した事で、他のワイバーン達は萎縮して、すっかり震え上がっていた。
なんか俺が悪者みたいじゃん。やめてよ。それ。俺だってやりたくてやった訳じゃないのに。むしろ悪者はお前らだろ。
そして俺は他のワイバーン達が、このままだと逃げ出しそうなので、他も纏めて気絶させる事にした。
俺は大きく息を吸い、そして……
(響天隻滅)
俺は超音波のような甲高い音を声から出した。その瞬間、他のワイバーン達も気絶して皆落ちていった。
これは自分より、下の強さの存在を纏めて気絶させられるスキルである。しかし問題が、その下の強さという点で、俺はずっとまだワイバーンより下だとずっと思っていたが、中級ワイバーンを倒したので効くのでは無いかという確信を得たので、このスキルを行使した。
効いたようで、安堵して中級のワイバーンを起きるのを俺は待った。
十六話最後まで読んでくれてありがとうございます
『吸収天源』スキル一覧
「属性吸収」 その名の通り、属性を吸収する効果を付与する。
「源あるは、体の元に」吸収した分だけ、身体能力が向上する。
「吸い込みあれし限界無し」吸収する量を、超過させる事が可能。しかし超過した分は、吸収された分としてはカウントされない。
「その身に力と精神よ!」身体能力がより向上して、その分だけMPも上がり、精神耐性が強化される。
「守の宿りし霧」衝撃属性や弾属性の攻撃、属性の攻撃を霧散させる。
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