百ノ四十七話 死と無限の戦い
緊迫した空間、息が詰まるような海に入ったかのような感覚に侵されていた。目の前には死という原初の概念を持っているヨハネという青年がそこにいた。
龍神様達は、ただただ強者同士の戦いを見守った。最早あれは生物、生命が踏み込んでいい領域を超えているからであろう。ただ見守るしかない歯痒さを抱えながら、俺の戦いの行く末を見ていた。
うわぁ〜、めっちゃ面倒くさい。何あの、死という概念存在は。死神とはよくもまぁ〜、当時の人は敬称したものだ。死の神というのは、あれを見て分かるからな。
ヨハネは軽く踏み込む。この瞬間、地面は紙切れのように砕け、一気に俺との間合いを詰める。
「死の回転」
ヨハネは軽く鎌を横に薙ぎ払う。とんでもない死の風が吹き荒れながら、斬撃が飛んでくる。俺は軽く指を鳴らす。膨大なエネルギーが一瞬にして解き放たれる。
[無限の理]『書き消えよ』
斬撃と死の風を、俺のエネルギーに包まれるようにして掻き消えた。それは描いたものを、消すかのような現象に思えた。ヨハネはすぐさま背後に回り、鎌を俺を一刀両断するかのように、ただ縦に、真上から振り下ろした。
「死断」――――――――死のエネルギーが鎌に集中しながら、地面を裂きながら斬撃が進み続ける。俺は前に手を掲げながら、唱え始める。
「浄化の力をこの手に数多の光と共に集え・我が無限の理を持って、悪しき者ノ浄化を果たさん・『浄化せしその身を染め』」
俺の右手から神々しく、眩いほどの聖なる光が解き放たれる。それは軽く死の斬撃を打ち消し、ヨハネを聖なる力に身を染める。しかしヨハネは死の力を、滅びの力として、意図も簡単に掻き消した。
やはりこの程度の攻撃では、意味をなさないか。それもそうか。自身の弱点というのは、それなりの対応力を持っているだろう。それに相手は数千年も生きている実戦経験が異次元の存在だ。そんな簡単に終わったら、それこそあり得なく感じるしな。
俺は軽く左手に持っている龍剣を強く握りしめる。無限の力をその剣に集約する。そして俺は前を、ただただ標的に狙いを定める。
「神速・絶突」
無限に加速を続ける力を、剣に付与して異次元の速度の刺突をヨハネという標的に向かい、行う。威力が龍剣内で無限に加速させていた影響で、それを地面にでも放った瞬間、世界は滅亡を迎えるだろう。
ヨハネは左手を前に掲げて、ドス黒い力を壁のように展開する。死の力というのは、効果発動するまでコンマレベルでの誤差が生じている。だから異次元の速度による斬撃というのは、簡単に防げるものではない。
しかしそれはヨハネ自身も、自らの弱点として理解していた。だから壁を多重にして、効果時間まで防ぎきったのである。そしてヨハネはそのまま、左手を上に指すように上げる。
その瞬間、ドス黒い壁が荊の形状へと変わり、それが無数に俺に襲ってくる。あれだけの手数と攻撃速度は防ぎ切れないな。
一発でも当たった瞬間、即死案件だしな。どうするのが正解だろうか。いや考えている暇なんてないな。
俺の身体は加速する。死の茨の追跡を、自らの肉体のみで完全に回避する。
何なんだよ。あの追尾性能は。物凄い恐怖だったんだが。
しかしヨハネは即座に鎌を回転するように振るう。ヨハネを起点に死の竜巻がその場に発生する。それは大規模な広範囲攻撃だった。それ一つで軍隊や国を滅ぼしかねないような範囲だった。
俺は集中力を高める。ただ竜巻という標的だけを目視していた。一度龍剣を鞘にしまい、腰を低くする。
「龍天百花剣・天爪」
黄金の力が鞘から漏れ出ており、それが浄化の力を宿している聖属性の力なのだと分かる。
鞘の中でエネルギーを無限に循環させており、それが威力をとんでもない程に高めていた。
それを居合の要領で、一気に引き抜く。そして一瞬、視界が白く染まった。見ていた景色そのものが、白へと塗り替えられていた。
そして白は消え去り、その場に視界が、景色に色が戻る。そして眼前にあった竜巻は、いつの間にか消えており、ヨハネは右半身が完全に消し飛んでいた。
「よくもまぁ〜…………やってくれたな! ただ俺はこの程度では滅びないがな。半身が吹き飛んだ事なんて、何千年ぶりだろうか」
そう懐かしむような表情を浮かべながら、瞬時に肉体を再生する。やはり死の概念存在は、そんな安い攻撃一つじゃ意味をなさないか。
ヨハネという青年は、またドス黒い巨大な鎌を形成していく。まるでマッチポンプである。無限ループである。キリがないというのは、こういう事を言うのだろうか。
「もうやめにしないか?」
そもそもキリがない戦いに意味などない。騎士達を皆殺しにしたのは許せないが、俺の目的は元々ミーニャである。
深傷を負って、無理な戦いをする必要性など皆無だろう。ミーニャさえ諦めてくれるなら、俺も自ずと引き返す。
「それは出来ない相談だ。お前の目的は、この少女だろう? 俺もこの少女を取り込まないといけない事情があるのだよ」
青年ヨハネはそう淡々と言ってきた。この男の目的は最初からミーニャなのは分かっている事だ。それもここまで大規模な事をしているという事は、ヨハネにとって重要案件だろう。
結局交渉決裂かよ。無意味な会話だったな。
「無意味だったな……………………」
俺はボソッと諦めるように、ため息を吐きながら言った。
ヨハネは呆れたような顔をして、俺を見ていた。
「最初から無意味な質問をするな。無駄な事は、俺は嫌いだからな。それにここまで俺を傷つけてくれたんだ。お前が死ぬまで付き合って貰うぞ!!?!!?」
ヨハネは興奮するような、激情に駆られるような表情を浮かべて、地割れを起こして地を思いっきり蹴り、俺との距離を詰めようとする。
俺が指を鳴らす。魔力が拡散して、剣を形成する。
「無剣・掃討」
剣が数え切れないレベルで、生成させる。そしてそれのどれもがあらゆる効果を付与しており、それだけで簡単に世界を滅ぼせるだろう。
しかしそんな事は今は関係なかった。龍神様達が、結界の維持に集中してくれているおかげで、俺は全力を放てるのだ。
剣魔法という得意な属性を扱う生徒会長の力を、無限の力で模倣したのだ。そして剣という概念がある限り、この力は無限に成長するだろう。
そして俺はヨハネに指差した。無数の剣が、一瞬にしてヨハネに、濁流のように降り注ぐ。
流石にヨハネもやばいと認識したのだろう。死の力を完全開放して、地面を全て黒く染める。
そして地面から黒い剣が姿を現す。それは俺が生成した数と変わらない数であった。
「地獄・無縁仏」
それは普通の死の力ではなかった。それは赤子の怨念のようなものを俺は感じた。悍ましいとすら思えてしまうその力の本質を、ようやく理解出来た気がした。
何つう人道に反している力だよ。怨念を死の力として転化しているのか。だからこそ無尽蔵な死の力を扱えるのか。
そして俺が生成した剣と黒き力を持つ剣が、無数にぶつかり合う。それは火花も何も散らす事なく、ただエネルギーがぶつかり合い、音もなく無数に霧散した。
それは綺麗な星のようにすら感じていた。無数に降り注ぐ光が、ただ意味もなす事もなく流れ星のように落ちていく。
よくも簡単にあの無数の攻撃を防げたな。やはり戦闘経験の異常さが、ここでも際立つな。
「流石の俺も、少し大人気なかったか?」
そう余裕と言った表情を見せているヨハネという異常者の姿を、俺は視界に収める。
俺は苦虫を噛むような思いをしながら、次の攻撃手段を模索する。
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