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八千職をマスターした凡人が異世界で生活しなくてはいけなくなりました・・・  作者: 秋紅
第五章 風紀委員会の仕事は、思った以上に大変でした・・・
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百ノ四十四話 死という概念を持つ者・・・

死の力を持った鎌が、勢いよく振り下ろされる。俺は虚無の力を剣に纏わせて、それがぶつかり合う。エネルギー波により、結界にヒビが入る。





 あっやべ、ガチで威力が強すぎた。いや死の力が。さっきより増大してやがる。恐らく死に近くなっている影響だろう。よく半身が骸骨なのに、平然としてやがるな。死そのものとか怖過ぎるんだが。






 少し掠っただけで死んでしまうという事だからな。普通なら逃走の二文字が頭を過るところだが。ミーニャを助けないといけないし、それに生徒会長の無念を、いや俺の怒りをぶつけないといけない。







「今度は破壊のエネルギーかと思ったが、今度は虚無か。それだけのエネルギーを許容しているとは、普通ではないな。しかし転生者という感じではないしな」






 転生者というのは、異世界人という事か。ていうか異世界人というのは、人だから寿命とかで死んでいるのではないのか。それか元の世界に帰っていたりとか思っていたんだが。






 それにしてもこれだけの強さ。死の力の扱い方、普通の人にはどうしても見えない。他種族にも思えないという事は、転生者なのか。こいつ。







「あんた………………転生者か?」






 俺は話が通じないというのに、対話をしてしまった。しかし緑髪の男は現在冷静なように見えている為に、情報を収集する目的でも会話をしなきゃいけないような気がした。







 何故にこんな凶行に及んだのか。俺は何故か知らなきゃいけないような気がした。心の奥底、魂の深層まで、俺は何故かそんな気がした。十一歳前の記憶が、魂が、そうさせているのだろうか。







「ふむ、それだけの力の持ち主だしな…………。言っても問題ないか。ただこの世界の人たちが、世界そのものが目障りだからだ。だからぶっ壊す! ぶっ壊して、殺して、潰して、滅ぼす!! 滅ぼしてスッキリさせる」







 そこには今まで見た事ないような、狂気がそこにあった。狂気の笑みが、男がそこにあった。鎌を持ち、死の力を強引に感情もなく振り下ろす男が、まともではないとは思っている。だからってそこまで狂気に満ちているとは思えなかった。






 あの眼は本気である。本気だからこそ、ここまでの惨状を気持ちよく行えるのだ。







「お前が、お前らが!お前ら、お前らお前がお前らお前がお前らが!!!!! 余計な事をしなかったら、何の苦労もなく目的を達成出来るのに!!!! うざい、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!!」







 膨大すぎる殺気が、緑髪の男を中心に広がり続ける。それと同時に死の力が、また段々と増大していく。そして既にそこに人としての姿がなかった。そこにはスケルトンがいた。魔物として、この世に縛られている怨念そのものであるスケルトンに同様の骸骨がそこに居た。







 そこには魔力と気力に満ちている存在そのものがいる。普通ならスケルトンと言えど、魔力は持っていても気力は持っていない。気力というのは生命力そのものである。死の存在であるスケルトンには、気力という概念が存在していない。しかし気力を感じているという事は、スケルトンという死の存在ではなく、もっと別の何かである事が確定している。







 ドス黒い雷が、その男から発生する。眼孔の奥に見える狂気が、見えてしまい俺が一歩後退してしまう。俺が恐れているだと。俺の怒りが可愛く見える程に、そこには歪な絶望が垣間見えた。







 雷の魔力に、死の力を付与しているのか。それ程強力で、強大な組み合わせはないわな。雷による攻撃速度と威力と、拡散、攻撃範囲、どれをとってもトップクラスだろう。それに死の力を付与しているという事は、それが完全に回避不可能即死攻撃の鬼畜なものになる。







 鎌を強く薙ぎ払った。広い斬撃の剣圧と共に死の雷が、降り注ぐ。普通の結界だと、死の力によりすぐ防がれる。なら聖魔法の力を使わないといけないのか。








『浄化・聖印結界』







 神々しく光り輝く聖なる結界が、俺を囲むように展開される。これは死の力、邪なる力を防ぐ結界である。しかしそれは甘い考えだった。







 俺が思った以上に、死の力が強かった。雷と斬撃の威力が桁違いであると同時に死の力の膨大さが、簡単に俺の結界を突破する。聖なる力だけでは、単純に足りなかった。







 しかし俺は冷静に術式を再構築する。右手に魔力を集中させて、無限の理を引き出す。俺の肉体に薄い膜のようなものが形成されていく。







 [無限の理]『防護』






 これは単純な結界ではない。何ならこの世で、これを突破出来る力なんて存在しない。それ程の結界が、そこにあった。それは最早必ず防ぐという可能性を、摘み取った代物である。運命そのものが、必ず防がれると定義されているのだ。






 鎌の斬撃はかき消え、ドス黒い死の雷が、意味を成さずに防がれる。緑髪の男は、それを見て唖然とする。恐らく想定していなかっただろう。害虫という風に思っている奴が、簡単に渾身の本気の一撃が防がれたのだ。それは驚愕するしかないだろう。







「何で何で何で何で何で何で何で!!!!!! 死ねよ!! 害虫のように、踏み潰されろよ!!!! 何生きているんだよ!!! 人の成りぞこないが!!! 人を舐めるなよ!!! 害虫が生きていていい訳がないだろ!!! この世界に巣食う害虫は潰さないといけないんだよ!!!」






 だから俺はだし、この世界の人間は害虫じゃなんだけどな。何で害虫のように、人を定義しているのだろうか、あの眼は、人として見てる感じじゃないな。やはり虫のように、人が見えているのかな。まっそうじゃなければ、精神的に病んでなければ、ここまで異常性が際立たないわな。







「三叉ノ三扇」






 死の雷の鎌を、地面に向かい下から上に振り上げる、その瞬間、斬撃が三つに分かれて、地面を裂きながら俺を襲う。そして斬撃の風圧が、死の力と共に三つに分かれ進んでいく。






 攻撃速度が、えげつないな。雷だけじゃなくて風の魔力も扱えるのか。多属性使いか。これはこれで厄介だな。







 流石に魔力も残り少ない。無限の理を内から、魂から引き出すのには足りなくなっていた。そもそも本来なら人が扱っていい力ではない。無限の理など、魂の根幹を引き出すというのはやっていいものじゃない。それをする度に、世界が段々と歪みが強くなるからだ。世界そのものが、理が、段々と歪みが強くなり、最後には世界が滅んでしまう。それが無限の理である。






 一つ当たるだけで、死の概念が体を蝕み、死んでしまう。即死攻撃を平然と扱っているこいつは、よくも魔力を保っているな。何か仕掛けがあるのだろうか。






「龍天百花術・帝炎」






 俺は紅の焔を右手に作り出して、それを振り払う。その瞬間、壁を作るように激る焔が俺の目の前に形成される。死の風が、死の斬撃が、紅の焔に遮られていく。






 その焔は普通の炎ではなく、浄化の力を持つ焔である。炎神龍様が、よく扱っていた炎の力の一つである。俺もそれに習い、よくアンデットに向かって扱う力の一つである。そしてその聖なる焔は、熱を伝い邪悪を燃やし尽くす。邪悪が、燃料になるのだ。






 緑髪の男は、その熱を受けてしまう。その瞬間、紅の焔が広がっていく。途轍もない程に一気に全身に広がった。それは邪悪そのものであり、死の力というものが膨大であるが故に焔が広がったのだろう。それは勢いを増しながら、緑髪の男を燃やしていく。






「熱い熱い熱い熱い!!!! クソがクソがクソがクソがクソがクソが!!!! 何で俺が、こんな目に合うんだよ!!! ふざけるなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんな!!!」






 男は地面に転がりながら、怨嗟の声が、絶叫が、伝わってくる。そんな声すら意味を成す訳もなく、緑髪の男を燃やし続けていく。焔がこの男を完全に邪悪だと定義したのだろう。だから男の魂が燃え尽きるまで、炎が消える事はないだろう。






「邪悪よ――――消え失せろ」






 俺は冷たい眼差しで、燃えている男に吐き捨てるようにそう言った。男はやっと俺を凝視して、きちんと姿を捉えていく。身体が燃え続けながら、その眼はしっかりと俺を見ていた。






「お前は!!!! お前ははははははははははははははぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁ!!!!! クソがーーーーーーーーーーー!?」






 男は俺をきちんと見て、何かに気づいたのだろうか。俺自身は、この男との面識はない筈なんだがな。男の方は何か俺について知っているのだろうか。俺が記憶を失う前を知っているのか。いや俺自身が、こんなキチガイと面識があったなんて信じられないし、信じたくないな。それに気づいたとしても、何かより怨みが強くなったような気がするし、俺とこの男は敵対していたような感じだしな。答えてくれるとは思えないから、そのまま燃え尽きてろ。






 緑髪の男は紅の炎に包まれながら、ただただ絶叫しながら苦痛を味わっていた。

百ノ四十四話、最後まで読んでくれてありがとうございます



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