十三話 朝食を食べに食堂に行くと何やら問題発生のようです・・・
俺達は朝食を食べようと、宿屋の食堂に行くと何やら騒がしい雰囲気になっていた。どうやら二十人弱の人集りが、密集しており何か会議のような物をやっていた。
その人集りはどうやら服装を見る限り、村人のような気がする。揉め事というより、何か問題が発生したような雰囲気だった。
どんな問題が発生したのか気になり、ホライさんに話を聞くか。
そんな事を思いながら、食堂の入り口にいるとホライさんから来てくれた。
「どうかしたんですか?」
俺はそう首を傾げながら、ホライさんに聞いた。ホライさんは素直に話をしてくれた。
「どうやら何故か下級のワイバーンの集団が、こちらに来てるらしくて、行商人の方が、それを目撃した人が話してくれまして……。どう対処しようかと思いまして今村の皆さんと話していました」
うん……。早く立ち去りたい……。そんな面倒ごとは引き受けたくない。それに異世界転移して、すぐ起こしていいイベントじゃねぇよ。何考えてんだ。頭沸いてんのかよ……。
いや今そんな事を愚痴っている暇などない。とりあえず退散しなければいけないな。
俺はそう面倒くさいような顔をしていた。
そして「お忙しいらしいので、少し部屋に行っていますね」と退散しようと声を出そうとしたら……
「その話、私達も参加していいですか?」
アライがそんな事を、口走った。うん……。何考えているんだろうね……。面倒ごとは、あまり引き受けたくない性分なんだがね。
しかしアライの眼には、真面目な眼で話していた。どうやらこの問題を引き受けたいようだ。俺は受けたくないが、アライがやる気なら渋々やらない訳にもいかなくてなった。
「どうするってんだよ。村長」
一人の男性が、ホライさんにそんな事を口走った。
ていうかホライさんって村長だったのかよ。なんで自己紹介の時、言ってくれなかったんだよ。それに村長が、宿屋経営してるなんて話聞いた事ないぞ。
「ホライさんって村長さんだったんですね」
俺が確認の為に、ホライさんに言った。
「お恥ずかしいながら、一応村長です。器ではないですがね」
そうホライさんは自虐混じりの苦笑をしていた。ホライさんはどうやら自己評価が、低いようだ。
「トーラス王国から、騎士軍が来てくれるのを待ってそれで考えましょう。その行商人には、前もって通達をしてくれと頼んでおりますので」
前もって頼んでいたようだった。意外とホライさんは、きちんと村長として対処している風に感じるが……。
しかし村人達は、そんな事を 鼻 → 端 から思ってないようにホライさんに問いかけた。
「その行商人に頼んでから、三日は経過している。いくらなんでも遅すぎるぞ! トーラス王国から、救援は来ないんじゃないのか?」
また一人の男性がそんな事を口走った。トーラス王国とは、そんなに遠いのかなと少し疑問に思ったので、隣にいるアライに聞く事にした。
「トーラス王国ってここからそんなに遠いの?」
「いやそんな三日も救援が来ないのはおかしいよ。せいぜい歩きで一日弱で、たどり着く距離だよ」
それでも一日弱でかよ。つまりその行商人に問題があったのか、それとも軍に一応報告はしたが、軍が結局対処しなくていいとか面倒くさいとかで救援はしない判断を、下したのかもしれないな。
つまり救援は来ないものとして、考えないといけないか。
しかしこの村人達は、多分対処が不可能だろう。理由は、ワイバーンという存在がどれくらいか知らないが、ゴブリンよりは確実に強い事だろう。それなのに、洞窟で女性達が連れ去られている事を認識しているのに、対処出来なかったという事はワイバーンなどには歯すら立たないだろう。
つまりこの空間にいる存在の中で、対処が出来そうなのは、俺と俺のスキル群を持っているアライくらいなものだろう。
うん……。絶望的だね……。諦めよう。こんな所で命落としてる場合じゃないしね。
この村を捨てるという判断は、出来ないのだろうか。この人達は。非情ではあるが、住む場所を失うのは最早仕方のない決断だと思うが。確かに衣食住のうち、住を失うのは手痛い問題だが、命あっての物種だしね。
そんな事を俺は考えていると、ホライさんが口を開いた。
「この村を捨てる判断をしないといけないと私は思います」
そんな苦虫を噛みながら、苦渋の決断をホライさんが村人達に言った。
妥当な決断であった。ホライさんとは気が合いそうだ。
しかしそんな決断をしたホライさんを再度村人が問い詰めかける。
「あんたはそれでも村長かよ! 失望した!」
そんな大声を村人は出した。そしてそれに乗っかるかのように、村人全員で野次馬のように、よってたかってホライさんを罵倒し始めた。
うん……。イライラするな……。ホライさんだって苦渋の決断なのは、村の人達も分かっているはずだ。それなのに、集団でよって集って問いつけるのはおかしいだろ。
むしろ自分の命くらい他人に委ねるなよ。他人に決断を求めるなよ。それに決断したらしたで、ただ否定する事しかしないのはおかしいだろ。それなら自らの判断で、頑張れよって話なんだが。
そんな悪意に満ちたこの空間に、俺は限界だった。
ホライさんはというと、顔には最早光はなく、生気すらなく青ざめていた。それもそうだろう。それしか手段はないんだから。それしか道はないのだから。
多分ホライさんは、こうなる事を分かって言ったのだろう。村人の悪意に晒されすぎて、辛くなっていたんだろう。だからさっきも昨日もわざと、自分の事を一度も村長だと言わなかった。言えなかったが正しいのだろう。
だってこの悪意に晒されたら、誰だってやる気を無くすし、絶望するだろう。
しかし彼の責任感が、村長という立場を捨てるという行為が出来ずにいた感じか。なんともまぁ〜皮肉で、悲痛な話なのだろうか。
多分怖いのだろうか。その責任感すら捨てたら、自分が自分を許せなくなる気がしている、ずっと亡霊のように、引っ付いているように罪悪感がのしかかる事が恐怖であるので、その責任感だけはどうしても捨てられないのだろうか。
ホライさんは本当に優しいんだな。そんな事になってまで、自分より他人の事を思えるなんて。それなのに、彼ら――村人達はそれが分からず、ただただ野次を飛ばしている。
しかしこんな状態で、こんな空気の中どうしようか。
現状ワイバーンとは、どんな存在かも分からず、どんな強さなのかも不明のまま。それが集団で、こっちに向かっている。
しかし五月蝿いな。もう黙らせていいかな。
そんな俺のイライラが、頂点に達した時、隣にいたアライだけは俺の怒りが分かっていた。
しかしアライは何も俺に口を挟めなかった。だってもう遅いと踏んだのだろう。
「俺達二人が対処する……。だからお前らは、もうホライさんに口を出すな……」
俺の冷たい声が、食堂中に響き渡った。その瞬間、野次の対象がホライさんから俺に移った。
「なんだ……。このガキは。ガキは大人しく、黙っていろ!」
こんな怒声を村人の一人が、俺に放った。
「あんたこそ、『黙れ』。ホライさんはホライさんで頑張っているんだから。お前らのような悪意しかない存在は大嫌いだよ。俺は」
「このガキが!」
その村人の屈強な男性の拳が俺に向かった。そして顔面に直撃した。
痛いな。しかし吹き飛びも、何もなかった。軽いな。なんでだろうか。しかしやられたからには、どうしようかね。
「あんた…………。今、俺を殴ったな。つまりあんたは、俺の敵でいいんだよな。やられても文句言うなよ……」
その冷たい警告を俺は村人に放った。
そして俺は椅子から立ち上がる。その眼には、しっかりと殺意があった。まるで虫ケラのようなその眼に男性は恐怖した。その眼を見た男性は、萎縮してしまい何も口には出せなかった。
何故か男性の動悸が激しくなる。だって目の前にいる存在は、恐怖でしかないんだから。
「それでいいよ。黙るのは、いい事だ。静かでいいね」
「それじゃ村の人達もそれでいいよね? 解散!」
俺がそう手を叩くと、村の人達はぞろぞろと外に出て行った。
それは俺という存在そのものに恐怖と畏怖を与えてしまったようだった。
「アディ……あんた怖いよ……」
隣にいたアライがそんな事を口走った。
「ごめんごめん。ついイラついてしまったからさ」
とりあえずワイバーン達の対処を、俺たちで考えようかと俺は思った。




