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八千職をマスターした凡人が異世界で生活しなくてはいけなくなりました・・・  作者: 秋紅
第五章 風紀委員会の仕事は、思った以上に大変でした・・・
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百ノ二十九話 ハクテイ寮の大浴場・・・

 俺は脱衣所なる場所へと辿り着く。そこは風呂の湯気が立ち込めて、蒸し暑い場所であった。それに微量の硫黄の酸っぱいような匂いが、俺の鼻をつく。それが妙に、温泉なんだなという風に感じる。







 木製の棚に、着替えを入れるであろう籠が複数置いてあった。東洋の温泉街の宿屋というのは、こういう物なのだろうかと考え深くなってくる。恐らくヒキさんが、東洋の出身だからであろうかと思ってしまう。後で聞いてみる事にしよう。






 俺は着ている制服を脱ぎ、全裸になる。あられもない俺の肉体が、ここにあった。腹筋が六つに割れており、上腕の筋肉が肥大化していた。我ながら、いい肉体だと思う。だが俺の親である龍達には未だ敵わないだろうな。俺の肉体なんて、一瞬で吹き飛ぶ事だろう。まだまだ鍛錬が必要だなと、ため息を吐いてしまう。






 そして引き戸を開けると、そこには広い大衆浴場がそこにはあった。脱衣所で漏れていた温泉の匂いが、ここで引き戸を開けた瞬間、一気に鼻に来た。それと同時に温度が上昇したのを肌で感じる。






 シャワーに、大きな温泉、それはかの東洋の温泉を彷彿としていた。行った事はないが、東洋の事が書かれている書物によって知っていた。







 中に入ると、湯気が一気に俺の全身に注ぐかのように来る。これは疲れが取れそうだな。それと一緒に精神的疲労が軽減出来そうだと確信する。







 とりあえずマナー的に最初に体を洗うんだっけか。まっ確かに体を清潔にしてから、温泉入らないといけないよな。一応皆が入る温泉なんだしな。






 シャワーの所には、頭と体を洗う洗剤が置いてあった。洗剤の類いを持参しなくていいというのは、限りなくいい事だろう。学生の中では、金があまりないという人も多いからだろう話も聞いている。そういう人に対しての配慮で、大浴場が設備されているのかもしれないな。







 全身が洗い終わると、すぐさま立つ。全身を洗った事で、綺麗になったと同時にスッキリする。精神的に体が楽になった気がする。






 そして念願の温泉へと足を運ぶ。それで全身を浸かれば、さぞかし気持ちいい事だろう。貸し切りのような状態の温泉の中で、ただ一人で温泉に足から入る。






 足が浸かっただけで、気持ちよさが全身に駆け巡る。それだけで疲れがぶっ飛びそうだな。いい気分だな。

 そして全身が浸かると、ゆったりとした気分になる。温泉の効能ってどんなものなのだろう。何か美肌効果とか、疲労軽減とか、本に書いてあったような気がするな。







 確かに温泉に入ると、この効果があるのも納得がいく。確かに効果がありそうな感じがするな。







 温泉でゆったりと浸かっていると、大浴場の引き戸が開かれるような音が聞こえた。誰か入ってきたのだろうかと俺は大浴場の入り口の方を見る。






 そこには俺と同じくらいの背丈がある、筋肉質な男性が入ってきた。その人物には何か覚えがある気がしたが、誰なのか湯気のせいで分からなかった。







 まっどうでもいいか。誰だろうが、今は温泉でゆったりとしていたい。そんな風に気にも止めなかった。そう思いながら、俺は眼を瞑る。触覚という感覚のみで、温泉の温度、湿度、硫黄の香り、全てを感じる。完全に意識が、温泉に溶け消えていきそうだな。







「ん? 主か。こんな時間に利用か。珍しいな」






 確かに午後九時を回っており、温泉に入るような時間帯では決してないだろう。しかし色々事情が込みで、遅くなったから仕方ないからな。ヒキさんには、事前に許可は取っているしな。






 というか俺に声を掛けてきたのは、生徒会長であった。て、え? 生徒会長かよ。マジか。俺の極楽の時間に異物が侵入しやがった。







 ていうか生徒会長がいるという事は、まさか幽体化しているミーニャがいるという事になる。マジか。俺の裸体が、ミーニャに見られていると思うと、あれな感じがする。でもミーニャは子供だしな。気にしなくてもいい事だろう。そうだ、気にすると嫌な気がする。考えないように、俺はした。







「生徒会長、こんばんは。生徒会長もこんな時間に大浴場に来るんですね」







 生徒会長は忙しい身であるから、こんな時間に風呂に入るのも仕方ない事なんだろう。だとしても何故に、大浴場なんだろうか。自身の部屋にある風呂に入ればいいものを。






 俺は少し生徒会長を恨めしい眼で見た。俺の極楽の至福の時間を邪魔しやがってという恨みである。







「色々生徒会の業務が忙しくてな。そういう時は、予約無くても大浴場を、利用してもいいというヒキさんの許可があってな。久方ぶりに、大浴場に入ろうかと思ってな」







 要するに遅くなって、疲労しているから利用してもなんら問題がないという事か。事前予約しなくていいというのは、それはそれで羨ましいな。こっちは予約しないと、大浴場を利用出来ないというのに。







 いや生徒会長自体が多忙であるから、あまり愚痴を言える訳もないか。逆に一人でゆったりとしてくれというヒキさんの配慮だろうな。






「俺は王城に呼ばれて、それで遅くなったんです」







 恐らくルルさんが知っているという事は、生徒会長も知っている話だろうな。むしろ生徒会長から風紀委員長の通達があったという可能性があるな。







「あれか。大悪霊に対処した功績を讃えてか。どうだ? 貴族の位は貰ったか?」







 あ〜未だ実感のない話の事か。俺が貴族なんて柄じゃないんだけどな。こちとら、ただの龍に育てられた一般人だと言うのに。







「伯爵の位を頂きました。俺が貴族なんて言うのも、おかしな話ですけどね」







 俺は苦笑する様に、自暴自棄になって言った。伯爵なんて、上から数えて三番目の位だぞ。本当にトーラス王は、何を考えているのやら。信じられないような話だ。






「いんやむしろ、もっと上でもいいくらいの偉業だよ。主のお陰でこの国は救われたと言っても過言ではないからな」







 確かにあの大悪霊は、異常な強さであった。神龍様レベルの実力は確かにあった。そんな奴に、人という者が太刀打ち出来る筈もなかったからな。








 俺が無限の力を使わなかったら、この国は確実に滅びていた事だろう。







「そうですか? 生徒会長が言うなら、そうなんでしょうね」







「それで主は何を褒美として言ったんだ?」






 あ〜生徒会長が聞きたい事は、そっちだったか。確かに普通に考えて、貴族の位より興味がそそられるのは褒美の方だろうな。俺は白い眼をしながら、そんな事を思った。






「禁ノ地の立ち入り許可を貰いました」







 それを聞き、生徒会長の表情が固まった。まっそうなるわな。褒美として、禁ノ地の立ち入り許可を貰うような愚考をするのは、俺くらいなもんだろうな。流石の生徒会長も予想外だっただろう。一本取ったな。







「マジでか?」と驚愕した表情を浮かべながら、俺に質問してきた。







「マジですよ。大悪霊が封印されていたのは、禁ノ地だと言うので、俺なりに調べてみようかなと」







 生徒会長は俺の発言を聞き、何処か納得する様な顔をしていた。






「これ以上の災厄はごめんだからな。むしろ犯人を捕まえて、未然に防ぐのが適切だろうな」






 そういう事である。流石、すぐさま理解してくれて嬉しい限りだ。この学校が被害にあったのは事実だ。きちんと犯人に落とし前をつけないと、俺の気が済まないしな。







「なので生徒会長も、犯人調査に協力頂けますか?」







 生徒会長が味方だったら、心強い限りである。俺より、よっぽど頭がいいだろうしな。





「俺なりに尽力しよう。何か見つけたら、主に知らせよう」






 恐らく生徒会長は多忙であるが為に積極的な調査は出来ないだろうが、生徒会長という学院のネットワークによる情報収集は俺には出来ない事だ。






 そろそろのぼせてきたのか、頭がクラクラとしてきた。あがらないとな。







「ありがとうございます。俺はそれじゃ、あがりますね」







 そう俺は温泉からあがる。体が軽くなったような気がしていた。






「――――――――――ムディナ」






 間を置いて俺を名前で呼ぶなんて、珍しい事だな。何かあるのだろうか。







「なんですか?」と俺は、生徒会長に振り向く。







「君の行動原理とはなんだね?」






 何か変な質問だな。何か生徒会長にあったのだろうか。俺の行動原理など、最初から決まっている。






「大事な人を守る。それだけです」





 そう言いながら、俺は大浴場を後にした。

百ノ二十九話、最後まで読んでくれてありがとうございます



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