十一話 起きたら夕食の時間になってました・・・
俺はそんな悪夢というべきものを見た後、目が覚めて、宿屋の部屋の天井を、ただただ眺めていた。
少し俺は寝てしまっていたようだ。多分、極限まで疲労していただろう。
それに昨日は寝ると言っても、土の上だったので眠りが浅かったのかもしれない。
あのよく分からない夢はなんだったのだろうか。妙にリアルな夢で、まるで実体験のような実感があるくらいだった。
しかし夢は夢だろうと納得するしかないが、どうにも俺と同じ顔という事が気になる。
もしかしたらこの体は、転移した時に作られたものではなく、元々の体の持ち主が死になんらかの原因で俺が入ったと。
何も証拠がないのでなんともいえないが。
しかしそうしたら緑野郎とか俺が言ったのは、この体の何処かに記憶として残っててそれに引っ張られたという可能性も考えられる。
そしたらこの体の元の持ち主の所在も、調べた方がいい気がするな。
そんな風な事を、俺は寝ながら考えていると部屋のドアが開く。
そこにはアライがいた。髪は濡れており、顔は赤くなっていた。
「おっ起きたんだ。先に風呂入っていたよ」
どうやら俺が寝ている間、風呂に入っていたようだ。
それにしても髪を洗ったせいか艶が増している気がする。部屋のランタンの光が、髪に反射して少し眩しく感じるな。
「どうして泣いているんだ? 何か嫌な夢でも見たか?」
俺はアライに指摘されて初めて泣いていた事に気づき、急いで涙を拭う。
どうして泣いていると言われても、俺が聞きたい位だ。原因は分かっているが、あれはあくまでも『夢』に過ぎないはずなのだ。
「本当に――――どうしてなんだろうな…………」
そう俺は明後日の方向を眺めていた。何故が自身に問いかけてしまった。
俺の内にあるものが凄くモヤモヤとした感覚だけがあった。とても辛く、とても悲しく、とても痛い、そんなものだった。
そんな事を思っていると、いきなりアライが抱きしめてきた。え!? え!? え!? なんで!? 唐突にやるのやめてくださいよ!?
「どうしたんですか?」
こんな時も冷静に対応してしまう自分が、本当に憎い。本当は心の中は、めっちゃテンパってます。凄く驚いています。
「いや私は辛かったあの時も、アディがこんな形で優しくしてくれたから。そのお返しだ」
そうアライが頬を別の意味で赤く染めながら言った。恥ずかしいなら無理にしなくてもいいのに。
というか胸が。胸が顔にめり込んでいる!?そろそろ辛いんです。色んな意味で!?いや俺は体は子供だけどさ。
でもそうだな…………
「ありがとう――アライ。少し気持ちが楽になったよ」
いつの間にか先程のモヤモヤは、消えてなくなった。本当にそこら辺は、アライのおかげと言わざるをえない。
しかし疑問点は、増える一方だ。それを一つ一つ解消していかないといけないと思うと、少し億劫になってしまう。
ていうか本当にそろそろ抱き締めるのやめてくれ〜。恥ずかしさで死ぬ。
俺はそう思いながら、離れる。
「あら?アディの顔が赤くなっている」
そう言いながらアライは、俺の顔を見て微笑ましく笑った。
え?マジ?俺の顔、赤くなっている!?
「うるさい」
俺はアライから眼を背けてしまう。恥ずかしさのあまり、今は彼女の姿は見れなかった。
そんな事を思っていると、突然俺のお腹が鳴る。どうやら流石に俺の腹が、空腹で限界のようだ。しかし夕食は、出来たら呼ぶらしいのでまだなのだろうか。
「あっ……そうそう忘れていた。さっき風呂上がりにメリさんに、夕食が出来ましたと廊下で声掛けされたよ。食堂に行こうか。アディも腹減ったようだしね」
それを早く言ってほしかった。本当に腹減りで死にそうなのだ。
そう思いながら、俺達は食堂へと向かった。テーブル席が四つほどあり、ザ・定食屋みたいな雰囲気を俺は感じた。
奥の調理場らしきところには、男性のような後ろ姿が見えた。そしてメリさんも、そこにはいた。
「すみません。少し遅れました〜」
色々と出来事があり、本当に遅れてすみません。九割九部俺が、原因なのだが。
俺がそう言うと、メリさんとその男性が、こちらに振り向く。
「いらっしゃい。アディさんに、アライさん」
男性の姿はというと、茶髪のボサボサとした髪をしていて、顔は凄くイカつかった。強面とはこういう顔なのだろうか。
そしてその男性も、俺たちに話しかけてきた。
「あんたらがマリを、助けてくれた人達か。本当にありがとう。本当に……」
その男性は、急に泣いた。いやいきなり号泣されても、困るんですが……。いやそう言う事は、この人がマリの父親という事だろう。しかし似ても似つかないな。どうやってこの強面の遺伝子が、除外されてあんな美少女になるんだか。
「あんた。急に泣くと、二人が困るでしょ!」
強面の割に、感情豊かだな。メリさんに尻を敷かれているのかな。上下関係的に、一番はメリさんのようだ。
メリさんがそう叱ると、その男性は泣くのを辞めた。
「そうそう。自己紹介だな。俺の名前は、ホライ・ワークスだ。宜しくだ」
ホライさんというらしい。どうやらこの人が、調理場の担当らしい。
羨ましい。男で、強面で、筋肉質で、なおかつ料理が出来て、器用とか最強かよ。完璧かよ。こんな感じの、男性になりたいな。
「それじゃ今から、料理持ってくるな」
アライは調理場に、行き皿を持ってきた。木製の容器のようだ。
「今日は、野菜のスープと鳥の照り焼きだ」
野菜のスープの方は、とても出汁が効いてて香りも良かった。鳥の照り焼きの方はというと、俺自身味が濃い方が好きなので、俺にピッタリだった。よく食べた照り焼きと、ほぼ一緒の味だった。
そしてパンという組み合わせだった。
「どうだ?美味しいか?」
ホライさんは、そう不安そうな顔をしながら声を掛けた。本当に強面のくせに、感情豊かな人だな。
「美味しいです。本当にありがとうございます」
俺はホライさんに、笑顔で美味しい言った。実際美味しいというは、本当の事だし、俺好みの味付けだと思った。
「そりゃ、よかった。ゆっくり味わってくれな」
マリさんの恩人だと言う事で、より一層手の込んだ料理にしてくれたのかもしれない。そしてそれで満足してくれないと、自分でもこれ以上恩を返せないと不安になっていた事だろうか。しかし俺がきちんと、喜んでくれたようで、その不安は杞憂だったようだ。
ホライさんは、ホッと胸を撫で下ろして安堵しながら調理場に戻っていった。
俺の向かい側にいるアライはというと、めっちゃ勢いよく食べていた。いや美味しいのは分かるが、もう少し味わって食べようよ。
「そんなに急がなくてもいいんじゃない?」
俺がそう急いで食べているアライに対して、ゆっくり食べるように促した。
「すまん。すまん。つい美味しくてな」
アライはそう言うと、ゆっくり食べ始めた。
気持ちは分からんでもない。美味しいものは、何故か勢いよく食べちゃうよね。
俺はそう思いながら、野菜スープを一口飲む。うん。マジで美味いな。これ。なんでこれ野菜だけで、こんなに出汁取れるんだよ。むしろホライさんに、料理を教わりたいレベルなんだが。凄く興味が出てきてしまった。
そして食べ終わり、調理場にいるホライさんのところまで皿を持っていく。
「ありがとうございました。美味しかったです」
「皿まで持っていたのか。ありがとうな」
洗い場のようなところに、皿を置いた。
「それじゃゆっくり休んでな」
ホライさんはそう俺たちを、見送りながら言った。
そして俺たちは調理場を後にして腹も膨れた事なので、ゆっくり自分達の部屋に戻っていくのであった。




