十話 村に行くと宿屋に案内されました・・・
辺りはすっかり暗くなっており、月明かりだけが周りを照らしていた。また野宿かな〜と思っていたがなんとか村に間に合った。
衛兵とかいないが、魔物とか大丈夫だろうか。そう思いながら俺は村の入り口のような門を潜る。そしたら村に入ってきたのを、察知したのか獅子が俺の元に走ってきた。そして俺が助けた女性の一人が獅子を追いかける様に走ってきた。
「待って〜。獅子さんどうしたの〜」
そう女性は走りながら、獅子に向かって叫んでいた。
俺の至近距離まで近づいた獅子は、犬座りのような姿勢をしていた。いやお前一応ネコ科だろ。なんでそんな座り方してるんだよ。
俺の心のツッコミを、無視するかのように主人を待っていた忠犬ののような感じだった。だからお前、ネコ科だろ。本当に。
「ご主人様。お帰りなさいませ」
うん。ここ別に俺の家とかじゃないけどね。そして女性もやっと追いついたのか息を切らして深呼吸をしていた。そして俺の方を、見たら驚愕した表情を見せた。
「あれ? 貴方……。私を助けてくれた男の子じゃないですか。その節は本当にありがとうございます」
その女性は俺に礼をした。礼儀正しい女性なのは、好感だなと思う。そう俺はうんうんと頷くと、隣の相棒であるアライが少し頬を膨らませた。
「あっそれはいいんですけど、宿屋ってありますか?」
見た感じ普通の農村のような雰囲気があり、宿屋があるのか不安になってしまった。
「私の家が、宿屋を営んでいますのでどうぞ」
うん。これはいいタイミングだな。ただ金とかないけど、大丈夫なのだろうか。いや駄目だよね。一人で野宿しよう。
「僕、一人で野宿してきます」
二人の女性が驚愕した表情を俺に見せながら……
「なんで!?」
うん。ハモったね。意外と二人は気が合うのではないだろうか。それに見た目的にも、同世代のような雰囲気を感じる。
「いや僕、金ないし……」
「はぁ〜〜〜」
二人は大きなため息を、吐きながら落胆したかのような顔をしていた。え!?俺!?何か悪いこと言った!?
「大丈夫だ。私は金を持ってるし、アディの分くらいは払える」
そう決め顔をしているアライがそこにはいた。うん。そういう事なら、いいんだろうか。
「いえ、命の恩人ですので、宿代は無料でいいですよ」
貴女が神ですか!? なんだ! この聖母感は!?
「そうか。それならお言葉に甘えるか」
アライがそう言いながら、俺たちは宿屋へと向かった。
俺たちは、宿屋の前に来た。うん。これだよ。これ。この木組の建物は、本当にファンタジーな世界に来たのだと実感出来る。
俺はギシギシと、木の扉を開けるとカウンターがあった。そのカウンターには、俺が助けた女性によく似た女性が椅子に座っていた。そして俺が入ったのに気づいたのか椅子から立ち上がる。
「あっ貴女が、マリを助けてくれた男の子ね。私の名前は、メリ・ワークス。よろしく」
察しがよくて、わざわざ話す事なくて楽だな。それにしてもこの女性の名前は、マリって言うんだな。
「あっそういえば、名前言ってなかったね。マリ・ワークスです。よろしく」
それにしても顔が似ているな。見比べても違いがあまりないな。姉妹なのだろうか。
「二人って姉妹ですか?」
俺がそう質問すると、メリが笑った。
「若く見えて、私嬉しいね。マリの母親だよ」
マジかよ。若いな。本当に。何!?美貌を保つ不思議な魔法とか何かあるのかな。気になる。
「そうでしたか。お若いですね」
「お世辞でも嬉しいわ。それにしても礼儀正しい男の子ね」
世辞でも何でもないんですけどね。事実しか述べてないのですが。一度鏡で、見比べると分かりますよ。
「この子迷子だったらしくてね。そちらの方は、お母様ですか?」
マリがそう助けた後に言った事情を、メリに話した。ちなみに村に行く途中、俺らの事情をどうするかと相談していた。
「いえ。従兄弟です。私の名前は、アライ・ルナクです」
「あっ僕の名前は、アディ・ブレードです。宜しくお願いします」
「そうなのね。アディくんに、アライちゃんね」
メリは机に置いてあるノートのようなものを開いた。どうやら帳簿のようだった。仕事モードに変わった感じだった。
「二人部屋でいい?」
「そうですね。宜しくお願いします」
それにしてもマリが、宿代は無料と言ってるが大丈夫なのだろうか。
「マリを助けてくれたし、値段は無料でいいですよ」
母娘揃って似通った思考をしているようだ。本当に経営的に平気なら、問題ないのだが。
「本当に無料で、いいんですか?」
そう俺は心配するように、メリさんに言った。
「なに。マリを助けてくれたんだよ。私の大切な娘を。本当にありがとうね。命より金より大事な物を守ってくれたんだよ。これくらい安いもんだよ」
そこまで言うなら、俺はこれ以上言う必要ないな。大事なものか…………。俺にあるのだろうか。
「それと、飯はどうする?食堂に来てもらうのと、部屋に持って行くの?」
どっちでも俺的には、いいが。どうしようかな……。そう悩むと、アライが口を開く。
「後ほど、食堂に行きますね」
そう俺たちは早く部屋に行きたいのだ。何故かというと、現在着ている服は、生成したものでその前の服がボロボロだったり血塗れだったりしたので修繕と洗濯がしたいのだ。
それと風呂に入りたい。入浴したいのだ。汗がもう気持ち悪くて嫌になっている。
「それでは5号室の鍵をどうぞ。夕飯が出来ましたら呼びますね。2階の端の方になります」
そうメリはアライに5号と書かれている鍵を渡される。
そして俺達は、二階の階段を昇り、奥の方に5号室と書かれている扉があった。アライが先程受け取った鍵で扉を開ける。カチッという音が聞こえた。
中は意外と二人部屋という事で、広かった。ベッドも二つずつあり、俺はそれを見た瞬間、走り出しながら飛び込む。
左側の方を俺は選ぶとしよう。ふかふかだな〜。このまま寝ちまいそうだ。寝ては駄目だ。寝ては駄目だ。体を洗ったり、服を洗ったり、色々しないといけないのだ。使命感があるんだ。
だから俺は、まだ寝ないようにしないと…………いけないんだから……。
疲れていたのだろう。俺は寝てしまった。
俺は夢を見た。その夢では、俺と似た男の子が一生懸命走っている。その頭には、血が流れており何かに殴られたのだろうと分かる。そしてこの子は大丈夫と、思いながら木の麓に座りながら息を整えようとした。
しかしその瞬間、緑の顔をしたデカい俺が倒したゴブリンがいた。その子は諦めたような表情を浮かべて、周りにも子分のようなゴブリンがいた。死にたくないという風にもこの子は思ったことだろう。しかし無理だとも、諦めたことだろう。
その子は涙を浮かべていた。しかし笑っていた。それは自傷気味に、ただただ笑っていた。この子も割と精神が、イカれているな。俺と似通っているな。そこら辺は。
そしてその子は、デカいゴブリンに対してこう言った。
「この糞緑野郎どもが……。絶対……。絶対……。許さないからな。僕の父さんも母さんもやりやがって。僕が、復活するような事があったら根絶やしにしてやるからな」
「あ〜ただ……そうだな。出来れば、また母さんのスープを飲みたいな。また父さんに、剣を教えてもらいたいな。また僕は、二人の子供になれるかな……。ただ悲しいな」
その子はそう涙を浮かべて、手には袋を持っていた。
少年の幼い頭に、ゴブリンのボスの大きな棍棒が振られる。
その子の命が終わり、意識が飛んだ。




