九話 この世界でも弔い方を教えてもらいました・・・
俺事ユウスケ改め、アディは緑野郎共の犠牲者達の骨を土に埋めていたのである。少し洞窟から離れた、森の中で。
何故かそこだけは妙な空気を感じていた。何というか神聖なというかそんな空気感だった。そして一際、大きな樹木が目の前にあった。
もう樹齢何千、何万年レベルの樹木だろう。とても壮大で、荘厳で、雄大な、まさしく長年を生きて、見てきたかのような樹木だった。
そしてそこには、土で骨を埋めてあるかのようなのが並べられていた。どうやら共同墓地のような所なのだろう。
しかし魔物とかに、荒らされないのだろうか。荒らされた瞬間、この人達が不憫な気がするが、アライ的にはどうなのだろうか。
一応聞いておこう。
「アライ?」
そうアライも同様、緑野郎共の犠牲者達の骨を埋めていた所を呼び出した。
というのもここを案内したのは、アライである。緑野郎共の犠牲者達の骨を埋めたいんだが、どうすればいいか分からないと言ったら、ここを案内してくれた。
「ん?何?アディ?」
そう骨を埋めながら、俺の事を振り向いてくれた。
「いやさ。ここに骨を埋めても大丈夫なの?魔物とかには、荒らされない?」
「大丈夫だよ。この樹木の周りだけはね。魔物も絶対寄り付かないようになっているんだ。理由は分からないけどね」
そういう事なら、安心して埋められる。
しかし魔物が寄り付かないか。さっき俺が感じた神聖な空気というものと、関係があるのだろうか。魔物といえど、根本は邪悪な化身のような存在だ。つまりこの樹木は、何かしらのパッシブスキルにより魔物を寄せ付けずに、人々のセーフティゾーンとしての役割があるのだろうか。
しかしそう考えたら、魔物とは一体何なんだろうか。いや今はそんな事を考える必要もないか。
とりあえず犠牲者達の骨を埋める事に集中しよう。
そして俺が回収した骨を全て埋め終わると、アライは何やら地面に座りながら祈り出した。
「それは?」
「祈りだよ。亡くなった人達を天の世界に、無事送る為に祈って祈願するんだ。アディの世界には、そういうの無かったの?」
この世界では、そういう風に亡くなった人を見送るのだろうか。
天の世界というのは、天国の事だろう。つまり俺のいた世界と、何かしらの関係はあるのかもしれないな。
「俺のいたところは、そういう祈りという感じではなかったな。多分だが」
「そうなんだ。後で、アディのいた世界の話、聞かせてね」
そうアライは和かな笑顔を、俺に向けてきた。凄く可愛い。というのが、無理矢理脳に焼き付けられるような気がした。
とりあえず思考を戻さねば。
「別にいいけど。誰にも話さないでよ?」
「分かってるよ」
本当に分かっているのだろうか。なんかアライの事だから、相棒の武勇伝的な感じで周りに話さないだろうか。そんな心配をしてしまった自分がいた。
「それじゃ祈りを始めるよ」
ただ祈って終わりじゃないようだ。きちんと文言というのが、ある様子だった。
それにしてもアライの金髪は、綺麗だな。風によって靡くその様は、本当に絶世の美女とはこういう事を言うのだろう。
そんな邪智な脳内思考をしていると、アライは言葉を出した。
「あまたの魂達よ。御霊の地にいるものをお連れしてください。地より天へと昇りし魂の為に、天の世界の扉を開けて頂きとう存じます。私達も、後々そちらに伺う日が来ますので、どうぞお待ちください」
そうアライは祈りながら、この世界での送りの言葉を紡いだ。その瞬間、埋めた所から白い光が出てきた。
え?え?え?どゆこと?何?アライってそういうスキルとか持っている感じなの?いやスキルの効果という感じではなかった。
つまりこれは、あの送りの言葉により、犠牲者達の留まっていた魂が天に昇っているという事だろう。
無事に天まで行けるといいな。そう俺は青い空を見上げながらあの光達を心から送り届けた。
「あの光ってやっぱり魂なの?」
俺がそうアライに質問したら、驚くような表情を浮かべた。
何やら不味いことを言ったのだろうか。少し俺は不安になってしまった。
「私には、何も見えなかったよ。アディって魂とか見えるの?」
いやこの世界に来てから、魂っぽいのは見たことないし、この世界に来る前なんて霊感なんて一切ないようなもんだったんだが。
しかしあれは、どう見ても状況的にも魂だった気がする。
「いや今、アライが祈りの言葉を言ったら、埋めた所から光が天に昇っていったよ」
すごい顔を、アライはしていた。いやそんな顔されても困るんだが。見えたもんは見えたんだし。
「貴方って神の御使かなんかなの?」
「ん?何?その、神のミツカミ?ミツカン?って」
「神の御使。あらゆる魂を、天の世界に安全に送る為に神が遣わした存在のことを言うんだよ。完全に御伽噺の範疇だけどね」
なるほど。そういう御伽噺があるのか。しかしそしたら、神という存在もいるのかもしれない。
そういう存在に会ったら、俺の事情を話して、元の世界に帰してくれるかも。
後で調査項目が増えたな。
「その神の御使ってどんな能力ていうか、力があるかその御伽噺にあるの?」
そもそも神の御使っていうのが、ワンチャン異世界人という可能性がある。
そしたら俺は、その神の御使っていうのを探ればいい。
「なんか魂を見る眼があるというのと、魂を送る為の特異な右手の力があるって話だよ」
そんなスキルは、ゲームでは一切登場しないな。つまりこの世界特有の能力という事になる。
どうやらその神の御使というのは、俺とは、異世界人とは関係ない可能性が高まってしまった。
「残念ながら多分俺は、その神の御使ってやつではないよ」
「それは最初っから知ってる。アディはアディだしね。それにこんなのが神の御使なんて方が無理あるしな」
なんかこんなとか言われてしまった。これは褒めてるのか、貶されているのか分からずとりあえず、少し落ち込んでしまった。
「う〜なんかそんな風に直球で、言われると少し心に来るな」
そう少し俺は残念で落ち込んでいる表情を、アライに見せた。
それにしてもアライのこの距離感というのは、何なんだろうか。誰に対してもそうなのだろうか。
少しそうだったら何故かモヤモヤしてしまった。
「それにしてもアライって誰でもそんなフレンドリーなの?」
「フレンドリーって?」
フレンドリーという言葉を知らないのだろうか。そもそも日本語が通じる時点で違和感があったが。他国語というのは、通じないのだろうか。
「馴れ馴れしいって意味だよ」
「いやアディだけだよ。助けてくれた恩人だし、相棒だしね」
そうはにかむ笑顔を、俺に見せてきた。可愛い、可愛いすぎて死にそうになる。
いや思考を保て、俺。思考を保たないとキュン死してしまうぞ。
とりあえず日本語が通じるという違和感を、どう解消しようか。そこら辺も、調べないといけない気がするな。
「それより早く村に行って、宿屋に泊まろう」
アライは俺にそう言いだした。空を見上げると、そろそろ日が沈みそうな時間帯だった。そんなに歩いていない気がするが、洞窟探索とかで色々してたせいだろうか。
そういえば、俺が助けた女性達はどうしてるだろうか。あと獅子は今どんな感じか見には行きたいな。
「それじゃ早く行きますか」
宿屋ってどんな感じなのだろうか。ファンタジーな世界なので、そこらへん期待感に胸を膨らませる自分がいた。
あと村というのも興味がある。どんな文化体系なのか凄く気になっている。
そう俺は考えながら、アライと一緒に村に行くのであった。




