序章 凡人によるサービス終了
俺の名前は藤井勇輔。18歳である。そんなありきたりな展開の言葉を俺は心の中で思った。今やっているパソコンゲームで、タイトルが「アースガルド」。10年前にサービス開始されたゲームであり、ただ現在残念な事に数ヶ月前にサービス終了の告知がされ、この日が今に迫っている。というかサービス終了まで数分であった。
このゲームは広大な世界と自由性の高いのと、一番の目玉は八千職という頭がおかしいんじゃないっかってレベルのジョブの多さが売りだった。しかし始まりがあれば終わりがあるって格言があるが、それを今ほど実感したことはない気がする。サ終までの間、殆どのプレイヤーは、アレステレス広場というこのゲームを始めたら最初にいる、要するに、最初の街にいた。
しかし俺は違くて、アーストの森という森林にいた。なかなか一番思い出深いところだったからだ。そこでただ一人ぽつんと寂しくいて、サ終の時を待っていた。色々な思い出は、濁流のように絶えず出てくる。俺がこのゲームを始めたきっかけは兄貴に勧められたからだ。それから10年位の付き合いの一番長いゲームだ。古参プレイヤーであり、なおかつ全世界ランキング三位という頭がおかしい快挙まで成し遂げた。その時は喜んだ。ギルドメンバーからは賞賛の嵐だった。ただ自分が出来るなら、他の人の方が絶対もっと出来ると思うんだがとは思った。ちなみに何の世界ランキングかというとジョブを何種類マスターしたかというランキングである。前述の通り、約八千職という幅広いジョブかこのゲームの一番の売りだ。ちなみに俺は八千職ちょうどマスターした。正確なジョブ数を言うと、8652である。
そんなアースガルドという一大ブームを醸し出したこのゲームだが、だんだん離れていき今では全盛期の100分の1いるかいないかレベルである。だからこそのサ終だろう。運営も渋々サ終を決断したようだ。運営からも、長年愛されていたゲームだった。泣く泣くの決断に、口を挟むプレイヤーは少なかった。皆分かっていた。そろそろやばいなというのは二年前から言われていたからだ。
そう俺は思いながらマウスでただひたすらに"そのとき"を森の中で操作キャラを動かしていた。辛い、これが終わるのが……。きっとこの先このゲームが無いと思うと何も見えなくなる。しかし明日は否応もなく、強制的にやってくる。それを思うと、より苦しくて、辛くて、悲しくなる。俺には、何も無い。凡人の中の凡人であり、「ザ・普通」なのだ。このゲームだけが、俺の唯一無二の存在意義であり、存在価値そのものだった。
終わってほしくない。終わるのをやめてほしい。終わる時をもう少し、もうちょいだけ長くしてほしい。きっと踏ん切りがつくから。
「だから…………お願いします」
そんな誰もいない俺の一人部屋に、俺の呟くような切実のようなボソッとした声がふとっ、出てしまう。小さな声だったが、暗く誰一人いない部屋だったから、木霊するかのような気がした。終わりなのをちゃんと割り切って納得したはずなのに、どうしてこんなにまだ思ってしまうのだろう。分からないし、分かりたくない。ただこれは、自分の自己満足なのだろう。運営からしたら諸々の問題がありの終わりなのだからと割り切るしかない。日付が変わった瞬間、このゲームの画面は見れなくなってしまうだろう。
残り一分と終わりが迫っていた。今はその画面を、脳裏に、心理に、魂に、少しでも刻み込みたい。この森の景色を、きちんと焼き付けたい。もはやサービス終了をやめてほしいとは思わなくなっている。いや厳密に言えば、嘘であってほしいという希望的観測はいつまでも脳内を無限に駆け回っているが、それとは別にこのゲームに会えて、自分は最高の時間を過ごした実感があった。だからそれに関しては、頭を擦り付けるくらい感謝したい。嬉しかった、楽しかった、ありがたかった、そんなプラスの感情ばかりを、このゲームは与えてくれた。
だから……
「ありがとう」
俺の心に溜めていた感謝の気持ちが、ふと漏れてしまった。後残り十秒となってしまった。心の中でカウントダウンを言おう。
10.9.8.7.6……残り五秒となる。
「5.4.3.2.1……0……」
日付が変わってしまった。それと同時にパソコンの画面は、ゲームには接続出来ず、「サービスが終了しました。今までありがとうございました」という文言だけが画面に映し出されていた。
そして俺は失意の中でただ、ゲーミングチェアに座っていた。ただ茫然とその文言を凝視していた。そして俺は、項垂れるかのように、何かを見るように、天井を見上げた。これからこのゲームという存在とは、違う生き方をしなきゃいけないのか。
改めて自分のことを、客観的に見ると"依存"していたのかもしれない。ただこの依存は、自分にとっては悪くない依存であるから、誰が何と言おうと良いゲームだったと言おう。そう胸に強く刻み込みながら、ゲーミングチェアから立ち上がる。机にある、ペットボトルの烏龍茶を、一度も開けていなかったのでカチカチという音を出しながら開ける。それを一気に口に傾けながら、飲みこむ。喉が、一気に流し込むかのように、ゴクッ、ゴクッ、と音を鳴らす。そして飲み終わったら、「ふ〜」と息を吹いてしまった。
水分も補給したことだし、後は寝ようと自分のベッドにと向かう。朝からまた学校だと思うと、少し憂鬱な気がするが、仕方ない。明日も頑張るために、今日はゆっくり熟睡する事にしよう。そう思いながら、俺はベットに寝転がる。ゴロゴロと狭いベッドの横幅の範囲内で体を転がせる。そんな動作が意味するのは、アースガルドが終わってしまったなぁ〜という気持ちから来るものだった。ゴロゴロするのを辞めて、今度はなかなか寝付けず自分はずっと、ベッドの真上の天井を凝視していた。
明日の学校というのに、寝ないといけないという使命感を背負っていたが、それとは別にこれは現実なんだという実感が湧いてしまう。寝たらまたあのゲームは実は終了してなくて、ただメンテナンスしてただけでしたという展開はないだろうか。もしかしたらサービス終了してしまったという夢を見てるのではないだろうか。うん、ないなぁ〜……と自分は思ってしまう。こんなに現実的な思考をしてしまう自分に嫌気がさしてしまうな。希望はあくまで希望。現実という不安で、不幸で、不快であるが、現実以上に信用出来るものもないというのが俺の持論ではある。だから自分はこのゲームを割り切り、学校に備えてそろそろ寝る事にしよう。明日という世界に期待を乗せて。
なんて俺は語っていたが、眠れる気がしないな。やっぱりあのゲームが脳裏にへばりつくかのように、こびりついてる。あ〜寝なきゃいけないのに、眠らなきゃいけないのに、寝れないよう。辛いよ〜寝なきゃいけないと思うから寝られないのだ。心を、思考を、無にすれば私は寝れるはずだ。
「……………………」
うん、部屋が静かすぎてそれこそ気になってしまう。俺にそういうのは似合わないな。それなら羊が一匹とか心の中で歌えば俺は熟睡できるのではないか。
羊が一匹…………羊が二匹…………羊が三匹…………。
そして俺は、眠りについてしまった。
つい新作を書いてしまった私こと秋紅でございます。こちらも一週間に最低一話を更新するように心掛けますのでよろしくお願いします。
少しでも面白かったらいいねやブックマーク登録お願いします。また次の話もよければよろしくお願いします。