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ありがとうサンドウイッチ&リバーシ

作者: 騎士ランチ

俺の名はオヤビン。辺境で働く貧乏兵士三十五歳だ。昨年、王都で卒業パーティがあり、そこで男爵家の奴らが色々やらかした結果、何故かその騒動に巻き込まれた俺も責任を取る事になり、男爵令嬢と結婚させられ辺境に飛ばされたのだ。


「オヤビンさ~ん、お弁当できましたよ〜」


妻のヨメ(元男爵令嬢)が弁当を持って駆け寄ってきた。


「今日は代用卵のスクランブルエッグと野菜炒めでふ。本当はサンドウイッチ作りたかったんだけど、失敗しちゃって」

「そうか、またダメだったか」


サンドウィッチというのはヨメだけが知っている謎の単語だ。実はヨメには前世の記憶があり、前世ではニッポンポンという国のナゴヤケンで暮らしていたらしい。


そして、ヨメはたまに前世の記憶を思い出してはニッポンポンにあった物を作ろうとするのだが、大抵の場合は名前ぐらいしか思い出せず再現に失敗している。今はサンドウィッチという物に挑戦しているみたいだが、実の所さん、それが食べ物なのかさえ分かっていない。幸い食材は無駄にならなかった様だが、一度でいいからヨメの言うサンドウィッチが食べたい。いや、食べ物かは知らんけど。


そして、サンドウィッチの正体を知るチャンスは直ぐにやって来たのだった。


「おはよう」

「オヤビンさんおはようでヤンス」

「ほっほっほ、おはようさんじゃよ〜」


職場に着くと二人の男?が居た。語尾かヤンスな方は同僚のコビンだ。この辺境はマジで人が少ないからここの衛兵所は俺とコビンの二人で回している。


で、こっちのジジイは誰だ?


そう、ここは俺とコビンだけの職場だ。こんな爺さん知らない。というか、口髭を生やし髪は白いか、肌が綺麗だし声も女の様に高い。爺さんのコスプレをした若い女性かも知れない。


「コビン、こちらの方は?」

「今日から臨時で入ったヒスタロウさんでヤンス」

「ほっほっほ、大便所ヒスタロウじゃ。半年程こちらでお世話になりますのじゃ」

「これで二人体制から三人になったでヤンス!毎日休み無しの十二時間勤務が十時間勤務で月一回休みぐらいになりそうでヤンスよオヤビン!」


コビンは仕事が減るかもと喜んでいたが、俺は別の意味でチャンスだと考えていた。


ヒスタロウさんは自己紹介で大便所と名乗った。大便所とはその名の通り、大いなる便利が集う所さんを意味し、魔術師や賢者を上回る知恵者だけが神から授けられるとされるゴイスーな称号だ。もし、大便所というのが冗談じゃないならサンドウイッチが何なのか知っているかもしれない。


俺はコビンに見回りに行かせ、ヒスタロウさんに仕事を教えながら大便所と名乗った事について聞いてみた。


「ヒスタロウさん、あんた大便所ってマシなのか?」

「マジもマジ。サジマジバーツじゃよ」

「大便所が何でこんな辺境に来たんだ?」

「昔各地で色々やらかしての、お主らも似たもんじゃろ。聞くな」


うーむ、分からん。この爺さんが大便所かどうか、年寄りか若者か、男か女か、ただの左遷兵士の俺には分からん。まあ、ダメ元でサンドウイッチについて聞いてみよう。


「大便所なら、サンドウイッチが何か知っているか?」

「ニッポンポンの人気商品がどうした?」

「そう、そのニッポンポンの…なにぃー!」


俺は驚いて椅子ごと後ろに倒れた。マジか、いやマジか?この爺さんニッポンポンとか言いやがったぞ!つまり、それはヨメの知識が単なる妄想では無い事と、彼が本物の大便所である証明じゃないか!多分!


「だ、大便所様!実は俺の妻が異世界転生でニッポンポンのサンドウイッチなんです!サンドウイッチが何か教えろ下さい!」

「成歩堂!今日中にサンドウイッチを用意せんと奥さんの背中に生えた茨のスタンドが暴走して死んでしまうのじゃな!あい分かった!今すぐ作っちゃる!」

「話が全然通じてないな!でも、ありがとうございます!」


まさか、サンドウイッチについて教えてくれるどころか、この場で作ってくれるとは。だが、一体どうやって作るのだろうと思っていると、ヒスタロウさんは突然ズボンを下ろし、四つん這いになり尻を突き出した。


「あの、大便所様。職場で何やってんですかこのヤロウ」

「美尻じゃろ?」

「はい、ジジイの尻とは思えないぐらいプリプリしてます。で、どう見ても床にウンコ漏らす前フリにしか見えないんですが殺すぞ」

「ワシの得意魔術、尻出プリンター(しりーでープリンター)はイメージしたモンを産み出す。ただしアイテムは尻から出る!」

「マジですか。マジならやべー、マジじゃなくてもやべー」


ヤバい、今俺の中でヒスタロウさんのイメージが大便所様とボケ老人で50/50になっている。彼が大便所で見事尻からサンドウイッチが出れば問題無いが、彼がボケ老人で尻からウンコ出たら普通に大惨事。果たして、彼はどっちだ!?俺はどちらにも対応出来る様に床に紙を敷き、右手にスリッパを持ち結果を待った。


「うおおお、ファイアー!」


ヒスタロウさんが気合と共に尻からひり出したのはホカホカと湯気を出す四角い物体と紙切れだった。ウンコではない。


「出たぞい!サンドウイッチとその説明書じゃ!今すぐヨメさんに持って行ってやれい!」

「サンキュー!だか、人前でいきなり尻出すな!」


俺はサンドウイッチと説明書を拾い上げ、ヒスタロウさんの頭をスリッパでスパーンと叩くと真っ直ぐに帰宅。


「おかえりなさい、仕事は?」

「早退してきた!それより見ろ、サンドウイッチ持ってきたぞ!」


俺はヨメの前にサンドウイッチを置く。細かいマス目が書かれた台と片面が黒く塗られた小さな円盤数十枚、そして説明書。


「職場で大便所様が作ってくれたんだよ」

「えっ、これがサンドウイッチ?何か私が思ってたのと違う」


確かに、ヨメがイメージしていたのは食べ物だったが、ヒスタロウさんが作ったこれは多分オモチャの一種だ。だが、ヨメはサンドウイッチの名称以外殆ど覚えてなかったし、これが正しいサンドウイッチなのだらう。


「オヤビンさん、これどうやって使うの?」

「ちょっと待って、説明書で確認する。えー、まずは円盤四枚を真ん中のマス目に置き、白側と黒側を決める。それから交互に円盤を置き、相手の色を挟んだらひっくり返して自分の色にする。これを繰り返して全てのマス目が埋まった時、自分の色が多い方の勝ち」

「サンドウイッチってゲームだったんですね〜」

「そうだな。まあ、取り敢えずやってみるか」


その後、俺とヨメは何十回もサンドウイッチをプレイした。明日の仕事の事も家事も忘れ遊び続けだ。


「角取ると一気に有利になるんだな」

「オヤビンさん、夕飯どうしよう」

「今日は簡単なのでいいよ」


ヨメがキッチンに向かった後、俺は一人でサンドウイッチの攻略法を研究していた。それから十分後、ヨメがパンでサラダと代用玉子炒めを挟んだ食事を持ってきた。


「おっ、今日はこれか」


片手で持てるサイズのパン二枚に具材を挟んだ、ヨメのオリジナル料理。俺はこの料理が好きだった。書類仕事しながら食べられるし、単純にウマイ。


「そーいや、このパンで挟む奴お前が作ってるの以外で見た事ないな」

「私のオリジナル料理なんですよ〜。名前は無いですけど」

「じゃあ、名前つけないか?このサンドウイッチと一緒に販売して、ここの名物にしよう」

「名前ですか〜、うーん、私だけがコレ作ってるならニッポンポンの食べ物なのかもですが、名前は出てこないです」

「作り方が分かってるのに、名前だけ分からない異世界名物、サンドウイッチとは逆の状況だな。そうだ!これも大便所様に頼れば良いんだ!」


俺は窓から顔を出し、大声でヒスタロウさんを呼んだ!


「大便所様ー!!!」

「呼んだかー!!!」


尻から火炎放射し、空を飛んでやって来たヒスタロウさんに俺はヨメの手料理を渡す。


「これ、ウチの妻のヨメが作ったヤツです!多分ニッポンポンの料理だけど名前が分かりません!」

「馬鹿もーん!ワシにタダ働きさせる気か!サンドウイッチは初回無料サービスしてやったが、今度からは一品につき銅貨四枚払うか、一食奢れ!」

「安しー!」


依頼料としてヨメの料理(未鑑定)をヒスタロウさんの口に押し込む。


「モグモグ!鑑屁かんへースキル発動!」


ヒスタロウさんがスキルを発動させると、尻が「ブブブブリバーシブブブピピ」と放屁音を奏でた。


「こりぁニッポンポンの大人気メニュー、リバーシじゃブピピー!」

「うるせえ!臭えんだよ!早く屁止めろ!」


俺はスリッパでヒスタロウさんの頭を叩いた。


その後、サンドウイッチとリバーシは量産され、辺境には人が集まってきた。見回り兵の数も増え、俺も堂々と休める様になった。


「安いでヤンス安いてヤンスよ〜、紙製のサンドウイッチは銅貨六枚でヤンス」

「木彫りのサンドウイッチは銅貨五十枚だ!しかも、ヨメが作ったリバーシがオマケで付いてくる!」


ヨメが開いた店は連日客が押し寄せ、俺とコビンは衛兵の仕事が無い日はこうして手伝っている。


ヨメはたまに、これで良かったんですかねーと呟いてるが、異世界の技術で金稼ぎしても、皆が喜ぶなら別にいいだろうと説得したら納得した。


「人が増えても結局忙しいでヤンス!でも、暮らしはずっと良くなったでヤンスね」

「そうだな。これも全部大便所様のおかげだな」

「あの人、今どこで何してるんでヤンスかねー」


ヒスタロウさんは半年の契約が終わると同時にこの地を去った。今はどこに居るか分からないが、きっとその知識とスキルで人々を助けているのだろう。


彼とヨメが居なかったらこの地は寂れた辺境のままだっただろう。


ありがとう大便所様。

ありがとうヨメ。

そして、ありがとうサンドウイッチ&リバーシ。


用語解説

・代用卵

赤スライムと青スライムを均等に混ぜ合わせ、属性を相殺し透明にした後、脱脂粉乳を加えて作った卵風味の加工食品。

この世界で食用に適した卵はバジリスクや朱雀等の鳥型モンスターの卵だが、いずれも滅多に市場に出回らないので庶民が料理で使う卵は大体は代用卵を意味する。本物の卵の中でもバジリスクの卵は特に人気があり、入手した冒険者は喜びのあまりミミズのようにやらしく花火のようにハゲ散らかして踊りだすと言われている。


・ナゴヤケン

ニッポンポン国トーカイ地方にある大都市。ヨメが前世で暮らしていた街で、サンドウイッチとリバーシが流行っていた。住民の九割以上がネコ獣人と半魚人であり、語尾に「にゃ」や「だぎゃ」をつけて喋るのが特徴。と、ヒスタロウは語ったがヨメは何か違うかもと言っている。


・サンドウイッチ

ニッポンポンで議会政治が始まった頃、新たな法案に対して賛成なら白い帽子、反対なら黒い帽子を被るルールがあった。しかし、議員とて人の子。両隣の議員が自分と逆の帽子だった場合、保身に走り帽子を被りなおす議員が多発した。この様子を指して『賛同一致さんどういっち』という言葉が生まれた。その後、議会での決定には投票制が採用され、白黒帽子による議決は廃れていったが、玩具メーカーの社員マシンガン・オセロットが賛同一致の状況を盤上ゲームに落とし込み、現在では白と黒のマス取りゲームを指してサンドウイッチと呼ぶようになった。余談だが、開発者のオセロット氏はサンドウイッチのCMに多数出演し、「貴様の角取りはにゃんの戦術的アドバンテージも得ていにゃいにゃん」「俺の製品はオモチャ界のレボリューションだにゃ」等の名言を残している。その為か、このゲームの名をオセロットと呼ぶ人も多いが、あくまでも商品名はサンドウイッチである。

(参考文献、ヒスタロウ著『異世界ヒット商品百選』)


・リバーシ

国を越えてスポーツ大会が開催される様になった時代、ナゴヤケンの領主だったワムラーカ伯爵は国際スポーツ大会の優勝メダルをウケ狙いで食べるというミスを犯し、記者に詰め寄られた際に「自分の弁当と間違えて食べちゃったんだぎゃ」と嘘の言い訳をした。その後、伯爵の弁当を確認したが、手づかみで食べる様な食材はパンぐらいしか無く、パンもメダルとは色も形も違った。もはやこれまでと思われたその時、ワムラーカ伯爵はパンを片手サイズに千切り、パンとパンの間に全ての食材を挟み込んで食べてみせた。その後、冷静になった伯爵が平謝りしメダル代を弁償し事件は解決したが、この時の食べ方が料理研究家の間で評判になり、完成済みの料理を分解し再構成した事から再生を意味するリバーシという名が付けられ商品化された。なお、ワムラーカ伯爵はリバーシの権利を主張し、年間銅貨千枚の特許利用料をリバーシで利益を得ていた全員に請求したが、周囲の批判を受けて即座に撤回した。

(参考文献、ヒスタロウ著『異世界グルメ裏話』)

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