07:脅迫されてしまいましたの
「あ、『アクヤクレイジョウ』?」
アタクシは、裸女の言葉に首を傾げる他ありませんでしたわ。
どうして彼女がここに? 思考が追いつかず、けれど今から何かが起ころうとしている気配だけを感じ取りましたの。
「はい、そうです。『アクヤクレイジョウ』。わかりますか?」
「わかりませんわ。というより、挨拶もなしに語りかけてくるなんて! アタクシは公爵家の娘ですわよ! あなた……異世界の平民ごときが断りもなしに話しかけるなんて不敬極まりないですわ。恥を知りなさい」
「『アクヤクレイジョウ』のテンプレ、コンプリートですね。こんなTHE・悪役令嬢を見かけることは近年少なくなりましたけど」
「てんぷれ? こんぷりーと?」
「こちらの話です。失礼しました」
まるで天使のような笑顔で意味のわからないことを語る裸女。
アタクシの頭の中で危険信号が鳴り響きます。これは何かやばい。今すぐなんとかしなければ――。
「卒業パーティーが迫る今日この頃、いかがお過ごしですか? 『アクヤクレイジョウ』らしく様々な悪に手を染め、なんなら私を階段から突き落としますか?」
「ぐっ……!」
実はアタクシ、彼女を階段から落とそうかとも考えていたのです。
ですからなおさら、アタクシは言葉を発することができなくなりましたわ。
「図星ですか。どこまでも『アクヤクレイジョウ』してますね」
「だ、だから、その、『アクヤクレイジョウ』って何ですの!?」
「説明しますね。私の世界にはショウセツというものがありまして、中でも簡単な読み本――ラノベというものがあります。そしてそのラノベには、ヒロインと『アクヤクレイジョウ』が登場します。『アクヤクレイジョウ』というのはあなたのようにいじめを行う地位と才能だけはある残念なご令嬢のことです。そしてヒロインとは……」
ひろいん? 何ですのそれは。
というより意味不明な言葉が多すぎて、まるで違う世界の言葉を聞いているようですわ。……まるで、じゃないのでしょうけれども。
「もういいわ、くだらない話はやめなさい。あなたはアタクシに何の用があってここへ来ましたの」
「いえ、別に。『明日をお楽しみに』と、そう言いに来たんです」
明日は卒業パーティー。
そうなのです。明日アタクシは、エムリオと裸女の不貞を暴くのですわ。ですが。
……もしかするとこの女も、アタクシと同じように何かを企んでいる?
けれど、これは脅迫かも知れません。実のところ何もなく、ただ単にアタクシを脅しているだけの可能性もありますもの。
「何を、楽しみにですの? 何かプレゼントがあるなら教えていただきたいですわ」
「それは明日まで言えません。サプライズですから。……ただ一つ言えるのはあなたに勝ち目などないってことですね」
アタクシはその瞬間、これまでにない恐怖を感じてしまいましたの。
脅迫現場から急いで立ち去って、しかし胸の動悸は治りません。
あの女は只者ではなかったのですわ。
アタクシは今になりようやく、相手を侮りすぎていたのだと知りましたの。
けれどこの時点ではもう何もかもが遅かったのです。
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