06:何かが違いますわ
何かが違いますわ。
アタクシの愛と力があれば、全てが解決するはずですのに。
裸女は学園を立ち去り、エムリオはアタクシを好きになってくれる。そしてハッピーエンドを迎えられる。
けれどもアタクシのそんな理想図はどんどん現実から離れていくばかりでしたわ。
裸女が追い込まれれば追い込まれるほど、エムリオはその援助に躍起になりますの。
アタクシの言葉など一切聞く耳を持たず、真っ直ぐに。
どうしてその視線をアタクシに向けてくださいませんの?
昔はそんなじゃなかったじゃない。もっとアタクシのこと、可愛がってくれたじゃない。
何故そんな汚らわしい女に。
もっとマシな女が聖女であれば良かった。それならまだ許すこともできました。
しかし、公衆の前で裸体を晒すような女が、どうしてエムリオに近づくことが許されましょう? アタクシの不満は日々募っていくばかりでしたわ。
ある日、噴水から突き落としてやりましたの。
たまたま出会った裸女が、アタクシをキッと睨んで来ましたの。それが無性に腹立たしく、噴水へ投げ入れたのですわ。
でも彼女の格好がビキニでしたので、あまりダメージはありませんでしたけれど。
そしてまた別の日は取り巻き令嬢たちにお願いして教科書を破りましたわ。
はたまた彼女を思わず罵ってしまった時もございましたわね。あれはアタクシも反省しておりますわ。
直に「汚らわしい裸女」などと言うべきではありませんでした。まあ、常に頭の中では呼んでいるのですけれどもね。
これだけの嫌がらせを受けながら、しかし彼女はまるで平気のようでした。
友人と言える友人もいないのにどうしてああまで強くいられるのだろうとアタクシは正気を疑ったものですわ。
異世界人は皆、ああいう奴らばかりなのでしょうか。
大体からして黒髪に黒瞳という黒づくめが薄気味悪いですし、アタクシどもよりチビのくせに同年代なのが非常に腹立たしい。そしてそんな女でありながら、アタクシに歯向かおうとするその心が――憎たらしくてたまりません。
エムリオは、ますます彼女を庇うだけ。
周囲からの裸女への評価は厳しいままでしたけれど、そんなことは関係ありませんわ。
浮気の決定的証拠も出すことができず生徒会では「あれは嘘なのではないか? 本当は浮気などないのでは?」という意見に傾きつつある。
違う。違う。こうなるはずじゃありませんでしたのに。
アタクシは焦り、そして次々に裸女への攻撃を続けましたの。
けれども聖女はむしろ余裕の笑みを浮かべ、こちらを嘲笑しているように見えました。それがまた許せなくて。
……一方でドス黒いものに染まっていくアタクシ自身が、アタクシには到底認められなくて。
「いいですわ。例え悪になっても、何があってもアタクシは屈しません。セルロッティ・タレンティドは、必ずや」
卒業パーティーが明日にまで迫ってしまいました現状、裸女を追い出すことはもう諦めるしかないでしょう。
せいぜい最後、浮気を明かすことくらいは――。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「『アクヤクレイジョウ』さん、ここにいらっしゃったのですね。『例え悪になっても』だなんて立派なセリフじゃないですか」
……その時、声がしましたの。
拳を固めるアタクシのすぐ背後、振り返るとそこには裸女がニッコリ笑って立っておりました。
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