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――パレットたちが家を出た頃。


ロロを乗せた飛空艇が船団を連れ、空中大陸オペラの中心部――この大地の地下へと向かうために港を出発していた。


一斉に帆を広げ、回転翼(かいてんよく)を動かすその姿は、まるでこれから戦争にでも行くような仰々しさだ。


それを指揮しているのは、空中大陸オペラの警察――スカイパトロールのリーダーであるフロート·ガーディング。


彼はすべての飛空艇が港を出るのを確認すると、船内にある一室へと歩を進めた。


フロートは、揺れる船の上を歩きながら、あることを思い出していた。


ロロを追っていたときに出会った少女――パレット·オリンヴァイの言っていたことだ。


いくら大陸を浮かせ続けるためとはいえ、子どもにすべて背負わせて、大人たちは何をやっているのか――。


彼は昔から自分が思っていたことを改めて言われ、迷いが生じていた。


本当にこれでいいのか?


あのヴァイオリンを持った少女――パレットがいうように他の方法をもっと探すべきではないのか?


魔力が高い者――人柱の代わりとなる大陸を浮かすやり方を見つけなければ、このまま犠牲者が出ることが続く。


だが現状で他に何があるというのだろう。


すでに人柱がいなくなったこの大陸では、引き継ぎのときに唱えた禁術の影響で空疫病(くうえきびょう)が蔓延し始めている。


迷うな。


今はこのやり方しかないのだ。


昔からオペラに住んでいた先人たちも、それ以外に大陸を維持する方法を見つけられなかったのだ。


それなのに、たかが警察風情に何ができるのか。


自分はこの大陸を守るためにスカイパトロールになったのだ。


あの少年――ロロ·プロミスティックには同情するが、これまでも誰一人として強制的に人柱にされた者などいない。


最後は皆、自分の運命――大陸を浮かすことを望んで自らを犠牲にしてきたのだ。


忘れるな。


自分の仕事はこの空中大陸オペラを守ることだ。


それを、一時の感傷などで惑わされていてはいけない。


「ロロ·プロミスティック殿。失礼する」


フロートは、部屋にたどり着くと扉をノックしてから中へと入った。


部屋には、窓から空を眺めているロロがいる。


ゆっくりと振り向いたロロへフロートは、頭を下げて飛空艇が出発したことを伝えた。


そして、鋭い視線でロロのことを見つめる。


「これからのことを、もう一度説明させていただく」


祭壇での引き継ぎが行われた瞬間、ロロは人柱となる。


そうなったらもうそこにある魔法陣からは出られなくなり、次の人柱と代わるときに唱える禁術で命を落とし、その生涯を終えることとなる。


そう、酷く事務的な声で言葉を続けた。


「一応、最後に何か望むことがあればできる限りのことはするが、なにかあるかね?」


訊ねられたロロは、力なく首を左右に振った。


それを確認したフロートは、「わかった」と言い、部屋を出て行くとする。


「……待って」


扉のドアノブを握っていたフロートだったが、ロロに呼び止められたため、再び彼のほうを見た。


そこには、先ほどとは違い、小さく身を震わせているロロの姿があった。


強がっていたわけではないのだろうが、やはり怖いのだろう。


これから自分に振りかかることを考えたら当然だ。


ロロは二度と地下にある祭壇から出られなくなるのだから。


「ルルは……彼女たちのところへちゃんと行けたかな……?」


「それなら問題ない。あのムササビがルヴィの家に飛んで行ったことは確認済みだ」


「そっか……それなら思い残すことはないよ……」


ロロはそういうと、なぜかクスクスと笑い出した。


不可解に思ったフロートは、どうして笑っているのかを思わず訊いてしまう。


「いや、フロートさんってルヴィさんの話が出るとちょっと目が優しくなるから」


「き、気のせいだ! そ、それよりも祭壇へと到着したらまた声をかける。それまでになにかあれば、廊下にいる者へ言っていってくれ」


そしてフロートは、今度こそ部屋を出た。

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