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狭い路地裏で――。


前からも後ろからも黒装束姿の男たちが向かってくる。


パレットたちは挟み撃ち――完全に逃げ道を失ってしまった。


「ルル! あなた、強大化とかしてあたしたちを乗せて飛べないの!?」


「できるかッ! あなたはわたしをなんだと思っているのよ! だいたいムササビは羽ばたいて飛べる生き物じゃないのよ!?」


大声で怒鳴り返すルル。


彼女の言う通りムササビとは、首から尾にかけてある大きな飛膜を広げ、それを風に乗せてグライダーのように飛ぶ動物だ。


ようするに滑空飛行であるため、鳥のように翼を使って飛ぶわけではない。


だからこんな風のない街の路地裏で、ムササビが飛べるはずないのである。


それと、そんな都合よく巨大化などできるはずもない。


「しょうがないわね。じゃあ、あたしのとっておきをみせてあげる」


「そんなもんあるなら最初から使えなのよッ!」


ロロは、キィ~とヒステリックに叫ぶルルをなだめると、パレットへ訊いた。


いったい何をするつもりなのかと。


訊ねられたパレットは不敵に笑って返す。


「ムフフ。こういうときこそ音楽だよ! プレイ!」


パレットは指輪に魔力を込め、ヴァイオリンと弓を出した。


まさか楽器で黒装束の男たちを殴るつもりなのか?


ロロはそう考えると、彼女を止めようとした。


「ダメだよパレット!? パレットのヴァイオリンはメロディーを奏でるものなんだよ!? 人を傷つけたりするものじゃないんだ!」


「大丈夫だよロロ。あたしは楽器で人を傷つけたりしない。ただ演奏者(パフォーマー)として演奏するだけなんだから!」


パレットはそういうと、ヴァイオリンを構えて弓を弦に当てる。


すると、魔力を込められたヴァイオリンと弓が輝き出した。


パレットはそのまま演奏を始め、ヴァイオリンから不気味な低音が鳴り出す。


「ヴァイオリン組曲……断罪のワルツッ!」


パレットが演奏をしながら叫んだ。


ヴァイオリンから奏でられる音が、向かって来ていた黒装束の男たちの足を止めた。


それは魔力が込められたメロディーが、黒い霧のようなものへと変わって彼らにまとわりつき、その行動を阻止しているからだった。


「スゴい……スゴいのよ。これほどの魔力、あなたもっと別の仕事をしたほうがいいんじゃないのかしらッ!?」


ルルが叫ぶ傍で、ロロも彼女と同じように驚いていた。


それも当然だ。


メロディーを具現化させるのには、血の滲むような努力が必要で、それに伴う魔力も並以上に高めなければならない。


パレットの使用している魔法は、一流の演奏者(パフォーマー)でないと、とてもできない芸当なのだ。


「スゴイやパレット! ヴァイオリンはヘタなのに魔法の技術は最高だね!」


「うぅ……。ロロ……悪気がないのはわかるけど。けっこう傷ついてるよあたし……」


ヴァイオリンで奏でた音――具現化した黒い霧で動けなくなった黒装束の男たちを尻目に、パレットたちは一気に彼らの包囲を駆け抜ける。


そして、黒装束の男たちの「待て」という声を聞きながら、路地裏から走り去っていった。


「へへ~んだ。待てといわれて待つバカがいますかっての」


パレットがそういった瞬間――。


道端にあった石につまづいて、彼女は転んでしまう。


しかも両手にヴァイオリンと弓を持っていたため顔面から地面に激突。


その衝撃で楽器は指輪へと戻ったが、打ちどころが悪かったのか、パレットはそのまま気を失ってしまった。


「ああッパレット!? 大丈夫ッ!?」


「ああもうッ!? なにをやっているのよこの娘は!?」


ロロは慌ててパレットを背負うと、急いで走り出した。


ルルはせっかく見直したのにと思いながらも、実にパレットらしいとため息をつく。


「最初から思っていたけど、この娘ってなんかおかしなヤツなのよ。あれだけの魔法を使えるのにヴァイオリンがヘタクソとか」


「パレットにはヴァイオリンの先生とかいなかったみたいだし。きっと努力の方向性がわからなかったんだよ」


デタラメなパレットの演奏と魔力の技術バランスに思わず呆れるルル。


ロロは背中でグッタリしているパレットを見ると、ルルに向かって優しく微笑んでみせた。


「ともかく今は急ごう。ぼくはまだ捕まるわけにはいかないんだ」


「ロロ……。そうね、そうなのよね……」


それから劇場街を抜けたロロたちは、ようやくルヴィの家までたどり着くのだった。

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