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01

一隻の飛空艇が雲の中を進んでいた。


その船は小さく、四人乗れるかくらいの大きさだった。


「ルヴィッ! 前から来てるよ!」


舵を握っていた少女が叫んだ。


ルヴィと呼ばれた女性は弓矢を構え、前方から飛んでくるものへ狙いを定める。


「そのままだぞパレット。このまま直進して奴を仕留める」


「えぇッ!? そ、そんなぁぁぁ! ぶつかっちゃうよ!?」


「いいから言う通りにしろ!」


パレットと呼ばれた少女は泣き顔のまま悲鳴をあげ、ルヴィの言う通り船を進ませた。


小型飛空艇はそのまま直進。


もの凄い勢いで風が吹きつけてくる。


風が吹きつける中、当然雲の中から巨大な鳥が現れた。


三メートルあろうその身体で、翼を羽ばたかせて向かってくる。


「死んじゃう! 今日ここであたし死んじゃうよぉぉぉ!」


パレットが舵にすがりながら叫ぶと、ルヴィが構えていた矢を放った。


溜められた力が弓のしなりと共に解放され、巨大な鳥の脳天を貫く。


ルヴィはすぐにパレットへ指示を出し、落ちていく巨大な鳥へ(もり)を撃つよう言う。


慌てて舵の側にあるスイッチを押したパレットは、バランスを崩してその場につまずいてしまった。


だが飛空艇から発射された銛は、見事に巨大な鳥へと突き刺さる。


ルヴィはそれを船から見下ろして確認すると、銛に付けられたロープを手動の機材を使って巻き上げていった。


「よし、今日は大物が取れたな。うん? どうしたパレット? 床に寝そべったりして」


「あたしは転んだんだよ、ルヴィ……」


それから二人は、仕留めた巨大な鳥をロープで縛ると、小型飛空艇を旋回させた。


しばらく進んでいくと、空に浮かぶ大陸が見える。


その大陸の名はオペラ。


遠い昔に――。


海面の上昇により、世界のすべての大地が海に覆われた。


だが、魔女たちの力によって大陸を空へと浮上させ、人々は世界各地にある空中大陸に住み、暮らしてた。


オペラはその大陸の中の一つだ。


パレットとルヴィも当然オペラで生まれ、日々生活している。


「はぁ……今日もなんとか生き延びられた……」


パレットは、グッタリと壁に寄りかかりながら呻いていた。


ルヴィはそんな彼女を見て、大きくため息をつく。


「あんたもさ。わざわざ私の手伝いなんてしないで、もっと楽な仕事を探せばいいんじゃないの?」


それを聞いたパレットはムクッと立ち上がり、呆れた表情でいうルヴィに向かっていく。


「だって、ルヴィのとこよりも給料がいいとこなんて他にないんだもん。それにルヴィはスカート穿けとか言わないし」


パレットは、ワイシャツにパンツ、サスペンダーとまるで男性みたいな服を着ていた。


生まれたときから天涯孤独の彼女は、孤児院にいた頃からスカートよりもパンツスタイルのほうが好きだった。


空中大陸オペラでは、女性はスカートを穿くものだと思われており、パレットは孤児院を出た今でもスカートを周りから強要されている。


「まあ、私もスカートは好きじゃないからね。ヒラヒラして動きづらいし。何よりも空には向かない」


ルヴィは空を飛ぶ獣専門のハンターだ。


彼女はオペラの街でもそれなりに有名人で、巷の女性たちからは“男装の麗人”として憧れられている。


その呼び名の通り、ルヴィはいつも男物のコートを羽織り、当然パンツスタイルである。


「まあ、あんたは夢があるから頑張れるんだよね。私が雇って三日以上続いたのはあんただけだよ」


感心した様子でいうルヴィに、パレットは照れ笑いを見せる。


そして、急に空へ向かって両手をあげた。


「そう! このパレット·オリンヴァイには演奏者(パフォーマー)になる夢があるんだから! そのためには空だって天国だってどこへだっていっっちゃうよ!」


パレットがいう演奏者(パフォーマー)とは、劇場に出ている演者のことである。


この空中大陸にある国オペラでは。演劇や演奏会が盛んであり、その中でも魔法で演奏や芝居を表現する者のことを演奏者(パフォーマー)と呼ぶ。


幼い頃、両親のいなかったパレットの傍にいてくれたのはいつも音楽だった。


パレットは、そんないつでも自分の側にいてくれるような音楽を愛し、憧れた。


周りにいた者たちは皆、別の仕事につくことをすすめたが、彼女は迷わずにヴァイオリンを手に取った。


そして現在、憧れの大劇場での演奏者(パフォーマー)を目指して日々奮闘中である。


「そのうちに、国中からあたしのヴァイオリンが聴こえてくるようになるんだから」


「でも、あんた。こないだ小劇場のオーディション落ちたって言ってなかった?」


パレットは、ルヴィの言葉を聞いてあげていた両手をヨロヨロとおろし、そのまま床に這いつくばった。


そして、泣きそうな表情で顔をあげる。


「ルヴィったら、それを言わないでよぉ。あたしだって頑張っているんだからぁ」


「悪い悪い。おっ、もうすぐ港に到着だ」


ルヴィは、ゾンビのように手を伸ばしてくるパレットに謝りながら、小型飛空艇を港へ入れるのだった。

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