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久々の我が家にて②

 俺は舌打ちをして立ち上がり、玄人から盆を奪って居間に戻った。

 玄人の用意したのは単なる緑茶だが、お茶請けに筑前煮を器に盛っていた。

 小鉢の煮物は俺が教えたとおりに、一人前ずつ綺麗に盛られている。

 よしよし。


「え、ちょっと、クロト。何てこと言うの。」


 ようやく動きだしたか、立ち上がって俺から盆を受け取った山口はちゃぶ台に茶と小鉢を並べるが、山口の言葉はしどろもどろだ。

 居間に戻って来た玄人は、山口を容赦なく追い詰めるように言い放った。


「元々、義英が遺産がもっと欲しいって母親に泣きついたのが発端です。商才の無い馬鹿が次々会社を作っては潰してを繰り返して財産を食いつぶしていましたからね。都美子の息子殺しは遺産狙いではなかったのです。孫三人は義英が泣きついてから遺産狙いで実行されたので彼のせいです。」


 玄人の言葉に俺も吃驚した。


「息子殺しは遺産狙いじゃ無かったって?」


 玄人はふーと大きく息をつくと、嫉妬心でしょうか、と呟くと後を続けた。


「三番目の奥さんが出来た人で、彼女の連れ子だった息子二人も桂さんの息子達同様に優秀で辰爺ちゃんに相当可愛がられていたのです。それで、憎らしくて、ですかね。」


 義英と同年代だった分、憎しみが増したのかもしれない。


「ちび。どうして孫殺しが遺産狙いなんだ?」


「父親が亡くなっても子供が残れば遺産が行くだろ。死んだ息子の子供を潰せば、兄弟で分ける分け前が増えるだろうって考えたんじゃないか。」


 俺が楊に答えたら、楊は「ひでぇ。」と本当に嫌そうな顔をしてから、「あれ?」と何かに気づいたかのようだ。


「どうした?」


「だってさ。先に辰蔵さんが亡くなっちゃったら意味無いじゃん。子供達は一年かそこらの命かもしれないけど、遺産は貰えるでしょ。死んじゃったら母親にいって早坂家に戻らないじゃん。」


 俺も「そうだよね。」と玄人に向き直った。

 子供の病気は別では?


「辰爺ちゃんの主治医が言うには、彼らはもう少し、あと二年はかけて辰爺ちゃんを殺すつもりだったようです。抗がん剤入れたその日のうちに危篤に陥って、彼らも驚いたでしょうね。」


「二年かぁ。非道いね。寝たきりのまま孫の死も聞かされる予定だったんだ。たかが金のためにね。」


 楊は子供達に思いを馳せたのだろう。

 会ってもいない、お金持ちだけど不幸な幼児。


「義英は再起不能だと思いますよ。」


 山口が疲れたようにポツリと言った。


「まぁね。凶悪白波アミーゴズがお友達を呼んでライブを始めて、奴らに家の中を破壊された上に俺達に逮捕だろ。あいつら酷いね。全力で楽しみながら破壊しまくってたぞ。あそこまでされたら二度とちびや白波家に立てつけないだろうね。それに俺達警察組が見つけた奴の隠していたクスリやら悪行三昧をぜーんぶ本庁さんにあげたからさ、玄人君殺害教唆の罪と相成って執行猶予がつかない実刑くらうかもね。」


 思い出し笑いをしながら楊は煮物を口に運んだ。


「ああホッとする。さすが百目鬼の煮物はうまい。」


 楊の褒め言葉に、玄人がフフフっと嬉しそうに笑った。


「僕が作ってみました。」


 ぶわっと山口が顔を輝かすと自分の席に凄い勢いで戻って座り、その勢いのまま煮物のニンジンを箸で掴んで口に放り込んだ。

 天辺に飾られるように乗せられた花形のしいたけを避けた行動に、「山口はしいたけが嫌い」と俺の中で記憶された。


「おいしいよ。クロト。」


 以前に「料理が作れない君とは一緒に住めない。」と玄人に宣告された山口は、本当に嬉しそうに煮物をつついている。

 玄人はそんな山口を幸せそうに眺めていた。


 玄人は早坂の一件から少し成長したのだ。

 いや、病院で今塚と対峙してからか。

 一歩前に出ようとしている。

 だが、俺は困る。

 そう、喜ばしい事なのだが、玄人が進みたい先には玄人に進んで欲しくない俺がいるのだ。

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