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久々の我が家にて①

 早坂辰蔵はタブーを破った。

 身内から犯罪者を出したのである。

 それだけ彼は早坂都美子の所業が許せなかったのであろう。


 都美子は彼女の息のかかった内科医水川千沙子共々逮捕され、ワイドショーは華麗なる一族の遺産狙いの悪女達として連日放送されている。

 都美子の息子である早坂義英の違法薬物の所持の逮捕も同様に知られる事になり、彼はいくばくかの手切れ金を渡されて早坂家から放逐された。

 

 都美子は息子の相続権を守るためにか息子との共謀を全て否定しているらしいが、義英は母親の言うがまま主治医の変更を行っているので、刑法の二百一条の殺人予備に当たるものとして、民法八九一条の相続人の欠格事由が当てはまると相続人からは確実に外されるだろう。


 民法には、故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者は相続人になることが出来ないと規定されているのである。

 そして、共謀も殺人予備も義英に追及できなくとも、彼自身が個人的に玄人の殺害を計画していた事実もある。

 俺達に車をぶつけて殺そうとしたのが彼であり黒幕なのだ。


 玄人は相続人でも義英に対しては先順位でも同順位でもないので、民法八九一条の欠格事由に当てはまらないが、八九二条には「推定相続人にその他の著しい非行が合った時は、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる」とあるのだ。


 義英が人殺しを企てた奴だから遺産をあげませんよ、と辰蔵が家庭裁判所に申し出れば、義英を遺産相続人から排除できるという意味だ。


 つまり、彼等は不必要な目先の欲に動かされたばかりに、確実に貰えるはずのものを失ったのである。

 人間、「やめる」という選択はいつでもできるわけで、できないのであれば畜生道に堕ちるだけなのだ。


「それにしても、ちびは酷いね。都美子の火傷はかなりのものだったよ。美人医師として美容整形のクリニック経営でしょ。そこも調べたら色々出てきてね。今まで被害者も華麗なる一族の医者を訴える事が出来ないと泣き寝入りしていたようでさ、ニュースが出た途端に凄まじい被害届が殺到よ。」


「お前らの義英苛めはどうだったんだ?」


 楊はブフフフと気持ちの悪い笑い方をし出した。

 よほど楽しかったらしい。


「もう僕は嫌ですからね。あの時あんなに僕に注意したくせに、百目鬼さんそのままの暴れっぷりですよ、この大将!」


 山口の楊への怒りは凄まじく、ちゃぶ台をガタガタと揺らすほどだ。

 ここは世田谷の我が家で、愛犬家やら早坂家の事件の翌月になる十月九日の夜八時に、楊と山口に「報告」だと強襲されたのだ。

 別に報告など要らないのに、面倒臭いな。


「まぁ、良いじゃないか。同い年のクロの従兄とも仲良くなれて、淳には親戚づきあいが経験できて良かっただろ?」


 適当に言い放ったら山口が反論した。

 それも興奮しながら、だ。


「何を言っているんですか!あれは普通の人間じゃないですって。凶悪ギャングです。」


 山口の言い方が、「あいつらは凶悪白波アミーゴズです。」と玄人が力いっぱい主張するその姿と重なって、楊と俺は思わず噴出していた。


「あ、そうそう。お前とちびが四人乗ってたって言い張るから調べたらね、心中に使われて廃車になったはずの車だったさ。そこから元の持ち主に事情聴取したらビンゴでね。」


 俺が見た車の中の四人は、義英に強要された実行犯の過去の家族の姿だったようだ。


「あの車で一家心中してね、生き残った自分と子供のために金になる殺人を請け負ったのだってさ。住むところも金もない。一人だったらホームレスできるけれど、五歳の女の子を抱えていればそれも出来ないってね。」


 実行犯は、遠隔操作で俺の車に奴の車をぶつけて爆破するだけだと説明されたと語った。


「義英には徹底的にしたのでしょうね。」


 台所から玄人の声がした。

 彼は茶の用意をしていたのであるが、台所で立ち働く玄人の姿に山口がどう反応するかと伺ったところ、彼は玄人の言葉に「え?」と固まっているだけだった。

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